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遅れにもほどがある
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…さむっ。」
無意識に出たその言葉は白い吐息と化して夜空へと消えていった。
誰も聞いてはいないはずなのに、白という色に染められてしまっただけなのに。
なにか自分の発したそれが固形になってしまったように感じる。
その行き先を追うように紺一色の空を見上げた。
紺というよりも黒色に近いのだろうか。
この時期よく見られるはずの星々の光は、この時期特有の、赤とか緑だののイルミネーションに掻き消されているようだ。
懐古主義、と言うのだろうか。
文明的な光よりも自然的なそれのほうが落ち着くのは、それとも皆にあり得る感性なのだろうか?
いや、きっとあいつはこの光でさえも、『クリスマスの醍醐味だね!』なんてほざくのだろう。
全く、こちらとは文化的に違いすぎるのだからしょうがない。
………遅いな。
こう一人であれこれ要らないことを巡らせていると、もしや自分はただ散歩に来ただけなのでは?と脳が勘違いしそうになる。
無論、ただの散歩のために仕事にケリをつけ、休暇を取り、飛行機に乗りだなんてする馬鹿はいないだろうが。
紳士淑女の皆さんならもうお分かりだろうが、この俺が待っているのはあの馬鹿…失礼。アルフレッド・F・ジョーンズ。国名にしてアメリカ合衆国である。
そう、奴は『クリスマスを君と一緒に過ごしたいんだ』だなんてクサいセリフを吐いておきながら自身の仕事が間に合わなかった。
「まぁ、まってねぇけどな…。」
もしあいつが来なければ、すぐにでもロンドン行きの便をとって帰ってやろう。
アメリカにとって俺は、仕事より優先すべきに値しないということだ。
…あぁ。やはり待つのは好きではない。
こういう卑屈な性格の本領発揮は、こういうときに起きるから。
『…Excuse me?』
「アメリカ…ッ?」
『ぁ、えっと、I…I want..go. 』
…黒髪のセミロング、少し猫背気味だろうか…?
背は低め。英語にも慣れていなさそうだ。きっと日本から来た女性だろう。
「I’m sorry,but could you repect that ?
Are you waiting for someone too?」
『ぁ、わた、私…英語…じゃなくて、I can’t …なんだっけ…!?』
「Oh…please don’t criticise my Japanese,will you?」
「Cough cough..」
「スマホ、……ほん、やく?…」
『日本語…っ、分かるんですか…!
スマホの充電、切れちゃって…!!』
そう一気に話されると俺だって聞き取れない。
彼女が日本人にしては身振り手振りをする方だったのが不幸中の幸いだった。
恐らく充電が無いのだろう。
「ちょっと…少し、ダケ。」
「um…ドコ、いきたい?
ダレか、まってる?」
『か、彼氏を…。
仕事でアメリカに居て、クリスマスだけでも会いに行こうと思っていたんですがオフィスが分からなくて…。
彼のオフィスがあるビルの前で、っていう約束なのに…』
カレシ…確かboy friend、的なことだったよな?
聞こえたのはそれとAmerica,office,buildingぐらいだが推測するには十分。
要するに彼氏の待つビルへ行こうとしたが道が分からない、ということ。
だがクリスマスのこの日に仕事をやるなんてどんなブラック…あいつじゃあるまいし…。
『ぁっ、以前彼に仕事の場所の住所を聞いて…それをメモしてたんです…!
これ、ぇえとthis…!』
…………ワシントンD.C.…?
……いや、ここあいつのいるとこじゃねぇか…。
…まぁいい、俺だってあいつに用があるんだ。
「…ついてきて。そこ、いく。」
[大変です!アメリカさん!]
『…what?悪いけど俺今君の話を聞いている暇は…』
[イギリスさんが…!]
『えっ?!な、イギリスがっ、えっ?』
[こちらにいらっしゃってます…!!!]
『なんでだい!!やっぱりあの人怒ってるのかい!?』
[いえ… ]
[あの…]
[女性を、連れて…]
『…は?』