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「くそっ。ペチカの胸が日に日に大きくなっていっている」
「ねえ、これって何の罪が適用されるの?」
大きなため息が横から聞こえてきたのは無視し、俺はペチカの胸について考えていた。
銀色の髪をいじりながら俺の側近であり護衛のイグニスは、早くこの話が終わらないものかと再度ため息をついて俺をにらみつける。
(まずい、これ以上大きくしたら、ペチカに怒られるんじゃないか? 下着が合わないと泣いていたしな……しかし……)
手に吸い付くような柔らかさ、そして弾力、張り……イチゴのように赤く熟した先端に、俺が下から突くことに激しく揺れる二つの白い乳房。あんなのを見せられたら、触らざるを得ないし、触りたくなってしまうだろう! ペチカの胸が誘惑してきているのだから、俺が悪いわけではない。
思い出すだけで下半身に熱が集まり、俺はいけないとイグニスのほうを見た。イグニスは心底嫌そうに俺を見た後視線をそらした。
「何か、最近そういうわいせつなこと? とか、卑猥な発言とか部下にするのセクハラっていうらしいけど。俺、今セクハラされているってことだよね。労働改革しよ? ゼイン」
「貴様だから言っているのだろう。ほかの奴には言わない」
「俺のほうが言ったらだめじゃない? 公爵邸は出禁にするし、ペチカに二度とあわせないけど?」
「それは困るな」
「何、真剣に困るとか言ってるの……」
イグニスのため息はさらに大きくなった。こんな狭い執務室で男が二人など息が詰まってしまう。ペチカに会いたいのだが、会ったら一目散に彼女の胸に飛びつきそうで怖い。自制していても、吸い付きたくなる衝動に駆られるのだ。
(いったいどうすればいい……)
初めてペチカの胸に触れたとき、俺の衝撃が走ったのを今でも覚えている。
胸などただの脂肪の塊だと思っていたのに。それこそ吸い付くような、指が沈むような柔らかさをしており、左右微妙に違う形もよかった。胸はこんなにもいいものなのかと。一目惚れしたペチカの胸だからよかったのかもしれない。だが、本当にあの時の衝撃は忘れられなかった。服の上から触っているというのにあの柔らかさと主張……あの瞬間、ペチカの胸にも惚れたのだ。本人は、俺に嫌われて婚約破棄を狙っていたらしいが、むしろ好きになってしまった。自ら、自分の胸に手を当てさせるペチカの恥じらった表情もまた……
「くっ」
「あの、その机の下でどうなってるかわからないけどさ。さすがに、未来の皇帝陛下がそんなもの主張して歩かないでよね」
「わかっている。くそ、収まらない」
「……うわ、ケダモノだ」
大きければいいものではないのだが、ペチカの胸は日に日に育っていて、今では横から見てもかなりなものになった。
さらしでつぶしていたという胸。今はもうさらしではつぶしきれないのではないかとすら思う。今度新しいドレスを買ってやらなければな、と思いながら、俺は何とか想像を散らせようとしたが、ペチカの顔が浮かんできてダメだった。
ここ数週間は書類仕事をしていてペチカに会えていない。
これが惚れた弱みというのか……ペチカを定期的に抱きしめないとやる気が出ない体になってきてしまっている。彼女は、完全無欠の皇帝をきっと想像しているだろうし、理想としているだろう。だからこそ、俺はその期待にこたえたいのだ。彼女も彼女で妃教育に再度熱を入れているらしいし、ここは……
「ペチカに会いに行こう」
「待って、なんでそうなったの!? 話聞いてた!?」
俺が立ち上がった音にびっくりしたらしいイグニスも同じタイミングで立ち上がり、部屋を出ていこうとした俺を必死に止めた。
「だから! おっ勃てたまま外に出るのは禁止だし、てかその状態でペチカに会いに行くとかほんと何考えてるの!? 止まって! 止まれって、ゼイン!」
かっこ悪く、俺の腰にしがみついて、イグニスは止めるが、俺はペチカに会いたい一心で扉に向かって手を伸ばした。だが、もう一歩のところで、扉を氷漬けにされてしまい足を止める。
俺の腰に抱き着いて止めていたイグニスは、汚いものを落とすように手で体についたほこりを払った後、「セーフ」など口にしてたため、俺は舌打ちを鳴らしてしまう。
「皇宮の、しかも執務室の扉を氷漬けにしたわけだが、どう弁償するつもりだイグニス」
「俺は、ゼインが犯罪を犯さないように止めただけだけど?」
「犯罪だと? ペチカに会いに行くのがか?」
「その他もろもろね。公然わいせつ罪!」
イグニスの魔法は宮廷魔導士が称賛するほどのもので、扉を破壊すれば外に出られないわけでもなかったが、魔法をといてもらうほうが一番だと思った。
このシスコンをどう黙らせるかは考え物だが、俺の行く手を阻むものは誰であっても敵とみなす……
俺がイグニスに交渉を迫ろうと踵を返した時、とんとんとあちら側から扉が叩かれた。
(あちら側には魔法が作用していないのか? でなければ、扉をたたくなど)
「あの、ものすごい音がしたんですが、大丈夫ですか?」
「ペチカ!?」
「……っ」
猫が驚いて毛を逆立てるようにイグニスは反応し、とたん扉にかけられていた魔法が解かれた。俺はそのすきに扉を開ける。
扉を開けばそこに立っていたのは、俺の婚約者であり愛してやまない人物ペチカ・アジェリットで、彼女はエメラルドグリーンのドレスに身を包んで、かわいく結った髪にはオレンジの花が添えられていた。天使か、とにやけた顔を抑えつつ、くりんとした青い瞳で見つめられ、俺は我に返り、部屋に招き入れる。
いつもは威勢がいいくせに、心配事があると上目遣いになりそわそわと落ち着かないのもかわいかった。騎士であれば、これは許されないし、彼女の中にある騎士像からはかけ離れているのだろうが、それも俺は許容できた。
「その、何かあったんですか?」
おずっとペチカは顔を上げながら聞いてくる。心配そうにこちらを見る表情がたまらなく、珍しく白いレースの手袋をはめているのも気になった。似合っている。
「ペチカ、そのケダモノから離れて。何するかわからないから」
「け、ケダモノ」
「イグニス、変なことを吹き込むのはよせ。ごほん、何もない。ただ、少しイグニスと喧嘩しただけだ」
「そうでしたか、何かすごい音が聞こえた気がしたので」
「……ペチカ、だまされちゃだめだからね、さっきゼインは、ペチカの胸を」
「胸?」
と、ペチカは首を傾げ、俺のほうを見た。俺はとっさのことで顔を隠せず、唇をかめば、ペチカは何かに気づいたように見る見るうちに顔を赤くさせて、イグニスのほうに飛びついた。
「ぜぜぜぜ、ゼイン! なんで、そんな、かは、かはんしん……え……いや」
「ほら、言ったじゃん。ペチカ。ゼインは白昼堂々ペチカにたいしていやらしい妄想をしていて……」
「いやらしい妄想!?」
「違う。ペチカ、誤解だ。貴様の胸を触りたく、無茶苦茶にしたいなど!」
「無茶苦茶に!? 私の胸を!? ゼイン、どれだけ私の胸好きなんですか、エッチ、変態、破廉恥です!」
見ないで! と、イグニスに抱き着いたペチカは、弁解しても俺のほうを見てくれなかった。それどころか、今日は一緒に寝ないとまで言ってきて、イグニスには笑われる始末。イグニスが何も言わなければ俺は今頃……
(性欲に負けるな、ゼイン・ブルートシュタイン……! 貴様は、愛しい女を大切にできない男なのか!)
高ぶった己のそれを鎮めるように俺はこぶしを握るが、嫌がり、恥ずかしがるペチカを見てしまうと、顔まで熱くなりこれはだめだと思った。ペチカに対して欲情するのは自然なことだが、それをぶつけていい理由にはならない。
俺も鍛錬が必要だと、イグニスに抱き着くペチカを見て、背を向ける。
「少し、素振りをしてくる」
「ちょ、だから、その勃ったままでいかないでよ。ゼイン! もーほんと」
後ろからイグニスと、「ゼインのバカ!」とかわいらしいペチカの声が聞こえたが、俺はそのまま執務室を出た。
ペチカに触れるのは己を律することができるようになってからだな、と新たな決意と目標を胸に、俺は一歩を踏み出した。
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