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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第68話 〚計算された席、気づかれない安心〛
⸻
夕食の時間。
ホテルの大広間には、
一気に人が集まっていた。
一班、二班、三班、四班、五班、六班。
班ごとに呼ばれて、
まとめて席に案内される。
テーブルの上には、
大皿に盛られた料理。
サラダ、唐揚げ、焼き魚。
湯気の立つ味噌汁と、
大きな鍋に入ったカレー。
「カレーあるじゃん」
えまが、
一瞬でテンションを上げる。
「修学旅行のカレーって、
なんでこんなに美味しそうなの」
澪は、
小さく笑いながら
席を確認した。
——その瞬間。
(……あ)
澪の席は、
テーブルの端。
右隣が海翔。
左隣が玲央。
自然に挟まれる形だった。
少し遅れて、
澪は気づく。
(……真壁くん、
あそこなんだ)
真壁恒一の席は、
一番遠い場所。
視線を向けても、
簡単には届かない距離。
偶然じゃない。
——担任の判断だった。
澪を、
物理的に“守れる”配置。
何かが起きても、
すぐに動けるように。
海翔は、
席に座ると同時に
周囲を確認した。
(……よし)
澪の背後。
横。
斜め前。
全部、
安全圏。
玲央も、
同じことを考えていた。
「ここ、
めっちゃ落ち着くな」
わざと、
軽い声で言う。
澪は、
気づかないふりをして
頷いた。
「うん……
なんか、安心」
その一言で、
海翔の肩の力が
ほんの少し抜けた。
一方で。
真壁恒一は、
自分の席に座ったまま
周囲を見回していた。
(……遠くね?)
澪が、
遠い。
同じ班なのに。
同じ修学旅行なのに。
(なんで?)
カレーの鍋を見ても、
味噌汁を注がれても、
視線は
澪の方に行ってしまう。
(……まあ、
あとで話せばいいか)
そう思って、
深く考えない。
——それが、
真壁の“いつもの選択”だった。
「いただきます!」
声が揃う。
澪は、
スプーンを持って
カレーを口に運んだ。
「……美味しい」
「だろ」
海翔が、
自然に答える。
「こういうカレー、
家じゃ出ないよな」
玲央が笑う。
何気ない会話。
でも。
澪の胸の奥には、
確かな感覚があった。
(……守られてる)
はっきり理由は
分からない。
でも。
今日一日で、
一番落ち着く時間だった。
遠くで。
真壁恒一が、
一瞬だけ
こちらを見る。
——けれど。
その視線は、
海翔と玲央の背中に
遮られた。
担任は、
その様子を
少し離れた場所から見ていた。
(……これでいい)
少なくとも、
今夜は。
そう、
静かに判断した。
大広間には、
笑い声と
食器の音が響く。
誰も、
はっきりとは気づいていない。
でも。
この席は、
偶然じゃない。
——“何も起こさせないため”の、
静かな布陣だった。