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強い日差しが照りつける日。
耳に残る蝉の声にも抗わず、女の子の前で1人の老人が息を引き取った。
彼女にとって目の前で静かに息を引き取る人間を見るのは2回目だ。
「ミズキ?」
ドアから2人の男の子の顔が覗いている。
「ミズキのじいちゃんもか?」
「うん。」
「そうか。」
「昨日は俺のばあちゃんで、一昨日はトウマのじいちゃんだったな。」
黒髪の少年、ハルは慣れたように話す。
この建物に住む若い人間はこの3人しかいない。後はどの部屋も老人ばかりだ。
そのためか、少年達は人の死に慣れてしまっていた。
「ハル、やめろ。」
もう1人の茶髪の少年、トウマが制止する。2人にとっては慣れたものだが、この場所に来て日が浅いミズキにとって、人の死は受け入れがたいもののはずだ。
「大丈夫だよ。」
そう声を出す彼女の顔色は悪く、表情もなかった。
聞き慣れたビューグルの音がする。
これが鳴る時は集合の合図だ。
3人は外に行く。
移動が難しい老人は自分の部屋の前にまで出てきていた。
外には隊服に身を包んだ青年2人と初老の男性がいた。
初老の男性は3人に気付くと声をかける。
「お前達、家族は?」
「トウマが一昨日、俺が昨日、ミズキが今朝死んだ。」
その一言で青年達がそれぞれの部屋に確認に行く。初老の男性は静かに帽子を脱ぎ胸にあてる。
「•••そうか。残念だったな。」
「なぁ、俺達はいつになったらここの外に行けるんだ?」
ハルが聞くと、
「私の家で預かろう。」
答えたのは老人だった。
「総帥、いらしていたのですか。」
一斉に敬礼をする。
3人はただ老人を見つめた。
隊服ではない。半袖のYシャツに茶色のパンツを着ている彼はどこからどう見ても普通のお爺ちゃんだ。
「彼らの家族から話は聞いているよ。基礎的な鍛練は終わっているし、後は実践を少しずつ積ませる。」
「しかし、まだ子ども」
「これは決定事項だよ。」
老人の目が鋭くなる。
「•••わかりました。」
鋭い眼光とは違い、彼らを見る時は優しい眼差しに変わった。
「君たちのお爺ちゃん達に話を聞いているよ。ハル君、トウマ君、そして君がミズキちゃんだね。今日からここを出て、私の家で暮らすんだ。荷物をまとめておいで。君たちのお爺ちゃん達はちゃんと弔うから、きちんとお別れもしてくるんだよ。」
「わかった!」
「はい。」
「•••。」
3人はそれぞれの部屋に向かった。
他の部屋の老人達も各々お別れの準備を行うため、解散の合図と共に部屋へ戻る。
「なぜですか。あの子達はまだ6つ。奴らと戦わせるには負担が重すぎます。」
初老の男性が老人に詰め寄る。
「適応出来る見込みがあるからだよ。俊蔵達よりも更に強く。」
「まさか。」
「ここにいる戦士たちの悲願だった。遂にこの時が来たんだ。ようやく奴らを滅ぼせる。」
老人の視線の先には澄んだ青い空が広がる。
出発の時、老人達は3人を囲んでいた。
「みんな、体には気を付けるんだよ。」
「寂しくなったらここに戻ってきなさい。いつでも待っているからね。」
「これも持って行きなさい。」
次々と3人のポケットはお菓子やお守りで溢れかえる。
「みんなあれだけ”隠れ鬼ごっこ”の時ぼっこぼこにしてくる癖に、心配しすぎなんだよ!」
ハルが照れたように言う。
「ありがとうございます。皆さんもお元気で。」
トウマは笑顔でお礼を言う。
「••••。 」
ミズキは唇を噛みしめ、今にも溢れそうになる涙を堪えるのに必死だ。
「ミズキちゃん。」
1人の老婆がそっと抱き締める。
「大丈夫。最後は全て上手くいくよ。」
ミズキもそっと抱き締め返す。
「そろそろ出発しようか。」
3人を乗せた車が見えなくなるまで老人達は見送り続けた。
「頼んだよ、後輩達。」
車の中は無言だった。
運転している青年が口を開く。
「えっと、俺は花村。これから君たちの送迎を担当するよ。総帥のご自宅から学校までは遠いから、一緒に移動することになるからよろしくね。」
「花村、よろしくな! 」
「花村さん、だろ。」
「はははは!いいよ、弟も妹もそんな感じだから!」
花村はバックミラー越しにミズキを見る。
「ミズキちゃんもよろしくね。」
「•••。」
ミズキはうつむいたままだ。
「あの」
「大丈夫だよ、トウマ君。大切な人を亡くしたんだから、無理はないよ。そういえば、総帥の家は山の奥なんだけど、そこにいる叶って人はめちゃくちゃ怖いから気を付けてね!」
「総帥って、あのじいちゃんだろ?どんな人なんだ?」
「総帥は君たちのお爺ちゃん達と一緒に伝説を作った人だよ。」
「え、ばあちゃんも?」
「トミさん伝説だからね!?」
そう言って花村は話し始めた。
昔、破壊と再生の神がこの地を統べていた。
破壊の神はこの世界から光を失くし、闇と虚無の支配を望んだ。
それを止めるため再生の神は人間を産み、 そして共に戦うよう育てた。
一度は再生の神と人類が勝利したが、長い年月を経て破壊の神は狂信者と悪魔、生ける屍を連れ侵略を開始した。
そこから何千年もの間、お互いに一歩も譲らぬ攻防を繰り広げていた。
そんな時、1人の人間が自分の体に合わせた武器を開発した。その武器に 自分の血を分け体に宿す代わりに力を得る契約を結ぶ。
適応できれば最高の戦力となるが、適応出来なければ体を蝕まれ、残るのはその武器のみとなる。
「その武器を初めて使って戦ったのが総帥と君たちのお爺ちゃん達なんだよ。」
「他の人達は?」
「あの方達も同じ様に適応して、戦ってきた猛者達だからね。君たちすごい環境で育てられたんだよ。」
そうしている内に車は山奥の屋敷に到着した。広い敷地内に平屋の家と畑が目につく。
畑では1人の女性が黙々と作業していた。
玄関前では総帥が笑顔で待っている。
「よく来たね。ようこそ、わが家へ。私は一ノ瀬、みんなからは総帥って呼ばれてるよ。ささ、早くあがってあがって。」
3人はそれぞれの荷物を花村に渡し、総帥の後ろを着いて行った。