「はい……今日も、大学行ってきます……悠真の、言う通りに」
玄関を出る瞬間まで、晴人はスマホに向かって小さく呟いた。
部屋には誰もいない。それでも、悠真の監視の気配は常に肌の下に染み込んでいる。
家の中のすべてにはカメラ。GPSは肌に貼り付けたパッチ型の装置で常時確認。
でもそれより、晴人が一番恐れているのは――
悠真に「嫌われること」だった。
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◆ 大学という“表面の自由”
晴人は毎日大学に通っている。
けれど、目も口も、もう自由ではない。
「誰とも目を合わせるな」
「女と話すときは録音を送れ」
「昼は下着をつけない。忘れたら、指にマジックで“×”と書け」
悠真から与えられた「日常ルール」は、晴人にとってすでに空気のような存在だった。
誰かと話すときは、悠真の言葉が脳裏に響く。
(それ以上話すな。笑うな。うなずくな)
指示はなくても、身体が勝手に反応する。
授業中、ふとスマホが震えた。
【命令:トイレへ行け。触って確かめろ。俺の言葉だけで、どれだけ濡れてるか】
言われなくても、下着はつけていない。
席を立ち、顔を伏せてトイレへ駆け込む。
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◆ 服従の中毒
個室の中、扉を閉め、指を這わせる。
びくり、と腰が跳ねた。
「……あっ、ん……っ」
言葉ひとつでここまで。
悠真の声が、命令が、もう脳の奥にまで根を張っている。
(俺……どうしてこんな……でも……幸せなんだ)
スマホに送られた音声メッセージが届く。
『いい子だね、晴人。従順なだけじゃなくて、ちゃんと欲しがってる顔になった』
音を聞くだけで、心臓が痙攣するほど脈打つ。
晴人は、口元を押さえて震えながら呟いた。
「悠真の声……好き……好き……全部、俺の中にあるの……」
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◆ 他人との断絶
講義が終わり、ゼミ仲間のひとりが声をかけてきた。
「久しぶりに、カフェでも行かない? 最近いつも一人だよね」
「……あ、ごめん。ちょっと、帰らなきゃ」
言った瞬間、晴人は自分の言葉の“調子”に不安を覚える。
帰宅後、悠真に送ったボイス報告で、案の定言われた。
『断る声が柔らかすぎた。興味があるように聞こえた。』
『どうすればよかった? 言ってみて。』
「……いきません、って強く……もっと無愛想に……冷たく……」
『それでいい。君には俺だけでいい。』
報告のたびに、晴人の中で「判断する力」が消えていく。
何を着て、何を食べ、どう返事すればいいか。全部悠真に聞かないと動けない。
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◆ 夜の“報酬”
帰宅後の夜。
膝をつき、リードをつけられてベッドサイドで待機する晴人。
「……おかえりなさい、悠真」
「ただいま、僕の犬。今日もよくできたね」
優しく微笑まれた瞬間、涙が出そうになる。
「俺……今日、全部頑張った。目も合わせなかったし、カフェも断ったし、昼は……」
「うん、分かってるよ。全部監視してた」
にこやかなその声に、全身が痺れるように反応する。
悠真の手が頬を撫でただけで、晴人の股間はもう熱くなっていた。
「ねえ、晴人。君が自分で判断したこと、今週あった?」
「……ない。全部……悠真に、聞いた。そうじゃないと不安になるの」
「じゃあ、これも命令だよ。口を開けて、“僕のもの”って言って」
「……僕のもの、悠真のもの。俺、全部、悠真の犬……モノ……ペット……」
「よく言えました。……可愛いね、晴人」
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◆ 快楽と支配の境界線が消えていく
服を脱がされ、ベッドに縛られながら、晴人は何も考えていない。
ただ、快楽を得ているのではない。
悦ばせていることが快楽になっているのだ。
「お前の心も、体も、全部俺の言葉で動く。それが嬉しい?」
「嬉しい……命令されるのが一番気持ちいい……俺、もう、悠真のしか知らない……」
「よかったね。これが“幸せ”なんだよ、晴人」
深く、深く、貫かれるたびに、晴人は微笑む。
自分で考えなくていい。自分で決めなくていい。
悠真に支配されるだけで、生きていける。
それが、晴人にとっての――真実の愛になっていた。
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