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「いきなり何を言い出すかと思えば……未来? 何を馬鹿な事を……」
ユキはノクティスの“未来から来た”という不確かな言葉を鼻で笑う。
それは俄には受け入れ難い真実を、信じろという事に無理があった。
「まあ、そう思うのは無理からぬ事。だが君は不思議に思わなかったかい? 我々の科学力が、本来この時代では有り得ない事に」
「そっ、それは……」
ノクティスの問い掛けに、ユキには返す言葉が無い。
思い起こせば狂座の持つそれらは、どれも日本いや、この世で見られぬ代物ばかりだという事に。
「その一部を少し見せてあげるよ」
戸惑うユキを他所に何処から取り出したのか、何時の間にか右手に持つ機械らしき物体を、何やらノクティスは親指で操作している。
その瞬間、ユキに伝わっていた感覚に異変が起こる。
「こっ……これは!?」
それはまるで、自分の身体では無い様な感覚。上も下も無い様な方向と体内感覚に、ユキは思う様に身体を動かせない。
「これは地場重力転換装置という代物でね。今この空間の重力を零にまで下げた。初めてだろう? 無重力の経験は」
二人共に空間を漂うそれは、まるで其処だけ宇宙空間になったかの様に。
「君があの高さから落ちて助かったのも、この無重力のお蔭だよ」
そうユキが無事だった理由を説明しながら、ノクティスは右手に持つ機械を操作する。
「ぐっ!」
その瞬間重力は元に戻り、ユキはがっくりと項垂れる様に膝を着いた。
それは目の当たりにした現実と、真実の為なのか。項垂れるユキからは、その表情の程を伺い知る事は出来ない。
「これで少しは理解出来たかな? では話を続けようか」
ノクティスは反論の無くなったユキを、満足そうに見詰め微笑みながら、その真実の続きを語り出すのであった。
「人は年代と共に常に進化し続けてきた。人の頭脳はーー科学はあらゆる事を可能にし、遂には禁断の神の領域にまで到達する……」
ノクティスは想いの丈を綴っていく。
「命そのものを造り出す事に……ね」
そう何処か、もの悲しげな表情で。
「人が人を意図的に造り出す……。それは決して侵してはならない禁断の領域だった。それでも人の持つ傲慢さは神となって尚、留まる事を知らず、更なる高みを目指した……」
ノクティスは一息置いて続ける。その間にユキの反論は無い。項垂れたままだ。
「自ら神になるのでは無く、神を超越する為に」
ユキの反論が無いのは、ノクティスの言動に驚愕しているだけでは無い。唐突な未来の事実に、受け入れきれないだけなのかも知れない。
ノクティスは項垂れたままのユキにそっと近付き、その頬に手を延ばす。
「いきなりの事に今、君の頭はパニックに陥っている事だろう……。だがこれは全て真実なのだよ。君ならきっと理解出来ると思って話している。続きを聞けるかい?」
愛しむ様に頬を撫でるその手を、ユキは抗おうともしない。
「それは肯定って事で良いかな? 本当に聞き分けの良い子だ」
それは事実上の肯定宣言。ノクティスはユキの耳許で、囁く様に続ける。
「人は神を超越する存在を造り出す為に邁進した。あらゆる力を持ち、決して尽きる事の無い命。両性を組み合わせた、新たな生命体をーー」
耳許に届くその吐息に蠱惑を乗せ、紡ぎ出す真実が有象無象の言霊となって。
「人が神を超える為に造り出した、究極の人型生体兵器ーー『完成型Type:Noctis』。それが私なのだよ」
人が神を超越する為に造り上げた、究極の人型生体兵器。
今、正に眼前に居る人物が“それ”だとすると。
“その目的は?”
“未来は?”
“何故この時代に?”
様々な思惑がユキの思考を張り巡らされ、その一つ一つは言葉にならない。
「人は神を超える事は出来ない。何故なら……私こそが、その存在なのだから」
その一つ一つの思考を読み取るかの様に、ノクティスは淡々と続けていく。
「人は傲慢で在るがゆえ、自らの手によって滅びの道を選んだ。未来は既に存在しないんだよ」
そして、予想出来うる結末を口にする。
「この私によって……ね」
それは未来は既にノクティスの手により、滅ぼされていた事を意味していた。
だがそれは自業自得とも取れる言葉の意味に、ユキは戸惑いを隠せない。
「じゃあ……何故?」
「私が此処に来た理由かい?」
ノクティスはユキの思考を代弁するかの様に、続く言葉を遮る。
それは全てを答え、全てが分かっているかの様に。
「この時代に来た理由の前に、次は狂座の事から教えた方がいいかな? 君のこれからの為にも……ね」
ノクティスはそう言いながら、今度はその両手でユキの頬を擦り上げ、項垂れたその顔を自分の方に向かせ、その表情をまじまじと見詰める。
“銀色の……本当に綺麗な瞳だね”
そう囁きながらーー
“何故なら君は、私のものになるのだから”
まるで誘惑するかの様に、蠱惑的なその声で。