テラーノベル
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※さて、まずは狂座の前に、それに至る理由だが。未来の終わりを簡潔に述べよう。
――西暦2050年1月1日。自身の力を認識した新人類第一号、そして最後となる究極の生体――“神を超えし者”ノクティスーーつまり私は、旧人類の排除を開始した。
今の君達では想像も出来ない程の軍事を持つ未来が人類の力も、私の前では全くの無力だった。
私が人類排除を開始してから僅か24時間足らずで、人類は根絶の危機に陥る事になる。
そして遂に人類は私を消す為に、自身が生み出した最悪の殺戮兵器――『核』を試みた。
君には聞き慣れぬ呼称だが、天地を揺るがす爆弾と思って貰えばいい。結果、人類は当然のように滅亡の道を辿り、地球は死の星となった。
私はというと、神を超えた存在がそれ以下の物で倒せる訳が無い。つまりどちらにせよ、人類の滅亡は必然だったという訳だ。
諸悪の根元は私では無く、それを生み出した自らの傲りが人類の歴史に終止符を打った。
フフ……全く以て、自業自得としか言い様が無い。これは人が禁断の実を食してから始まった人類の有史より、定められた運命だったのかもしれないね。
――人類の歴史は此処に終幕し、途絶えた。だが全ての人類が根絶した訳でも無かった。
特異点と謂われる者。そして後天性でも、特に強大な能力を持った者は、極少数ではあるが生き残った。
まあそれ以下の、核シェルターに避難していた者達は即、私によって処分されたがね、フフフ。
私は生き残った力の有る者達は、敢えて排除しなかった。利用価値が有ると判断したんだよ。
私の行動原理は単純に一つ――“愉しむ”事のみ。全てを根絶してしまったら、愉しむ意味を失うと判断した私は、彼等を自分の配下に置いた。
彼等には従う以外の道は、残されていなかったのだよ。
――これで解ったかな? 狂座は“神を超えし者”で在る私と、それに次ぐ力を持った能力者達で創られた組織だ。
特に特異点と同等以上とも云えた、鬼の末裔で在るルヅキとアザミの二人は最初期からのメンバーで、私が最も信頼を置いた二人だった。だが君には決して誤解して欲しくないのだが、二人を倒した君を私は決して恨んでいる訳ではないからね。
そして私達は死の星となった地球を見切り、銀河系――そして他天体にまで視野を広げ、無差別な全宇宙侵略を開始した。
超光速移動、そして時空間ワープ機能を備えた最新鋭城型宇宙船――『エルドアーク宮殿』を根城に……ね。
――未知の地球外生命体との遭遇、そして戦闘。
だが宇宙という枠に於いて、狂座の――私の前では全てが無力だった。
私達はあらゆる天体を縦横無尽に駆け巡り、地球をも越える高度な文明を誇った星さえも容易に攻略。宇宙のあらゆる生命体を、片っ端から蹂躙。
私を頂点とし、最強に近い精鋭で構成された狂座は、正に宇宙最強最悪の軍団。全宇宙の真の支配者だった。
しかし私は退屈だった。
この宇宙に狂座の敵は、最早存在しなかった。愉しむ事が行動原理の私にとって、現状は退屈でしかない。
ならばどうする? 現状に敵が居ないのなら、この宇宙を探すのではなく、世界自体を遡ればいい。
そこで私が最も信頼し、狂座の技術の要とも云える人物――『花修院 春樹』に、あるものを造らせた。
そう、私の直属の一人で在るハルの事だ。
ハルは稀少な特異点で在り、そして優秀な科学技術者でもあった。何より『新人類創成計画』に於いて、彼はプロジェクトチームの重鎮の一人であり、私を生み出した最も足る功労者だった。
――かつて人類の夢であり、永遠の課題の一つであった『時を自在に行き来する』事。
ハルの持つ頭脳技術と、私の持つ能力『時空』により、それは現実のものとなった。
時空融離――時間そのものを逆行し、時を遡れる所謂『タイムマシン』と云う装置の開発と完成だ。
人類の到達点は、本当はこれだったのかも知れないね。歴史が終わってより後に実現するとは、何とも皮肉な事だ。
さて、そのタイムマシンにより、私達はあらゆる歴史ーー平行世界を行き来した。目的は勿論、私の退屈しのぎが主ではあるが、幾多もの平行世界を無に返すついでに、お目に叶う者は狂座へと引き入れた。
それにより狂座は、統率の取れた軍団として拡大していった訳さ。
強者が強者と闘い合う事で、お互いを切磋琢磨していく。望む者、適正のある者には異能を与え、悠久の刻を生きる権利も与える。そしてその力で世界を蹂躙する。これこそ悠久を生きる者にとって、最高の娯楽と云えよう。
だがレベル上限を越えた臨界突破者は、早々到達出来るものではなくてね。
だからこそ、この時代の平行世界に君を含め、多くの特異点が居た事は正に青天の霹靂だった。奇跡と云ってもいい。
四死刀ーー彼らはとても素晴らしかった。まさか我等狂座を半壊せしめ、一時的とはいえ私を封印するとはね。
久々に楽しかったよ。彼らは残念ながら朽ちてしまったが、出来れば私の下に来て欲しかったのも本音だ。
そしてーー最後の特異点で在る君。これは私にとって運命の出逢いであると、そう私は確信しているよ。
さて、私の目的が君にはある程度理解出来た事だろう。
ここから少し話を逸らすが、君は人間という生物を何だと思っているかな? 猿が永い年月を経て今に進化したーーまあ、それが一般的な進化論だが、実はそれは誤りであるのだよ。何故ならミッシングリンクーー即ち、進化した過程が空白なのだからね。今も昔も猿は猿のままさ。
では人とは何なのか?
それこそ、この宇宙を創造した神が自身の写し身として、この地球に創造したのが人という生物だ。つまり人間とは一人一人が神の分身という訳だ。
人の脳というのは神へと繋がる無限の可能性を秘めている。しかし哀しいかな。それを自身の意思で、その領域にまで押し上げる事は出来ない。未来の技術で、その回線を開く鍵を追究出来ても所詮は紛い物。潜在能力を神と同等の域へと達する事は絶対に出来ない。
つまりだよ、人間とは神が創造した最大の欠陥品と云えよう。
だが例外がある。それが特異点と謂われる存在だ。
特異点は他の欠陥品共と違い、自らの意思で潜在能力を最大まで開花出来る者の事を指す。つまり特異点こそが、神の写し身で在る人間の本当の姿ーー本物の人間という事だ。
しかしながら、他の欠陥品共は何を勘違いしたのか、特異点こそがその力と異質さゆえ、古来から人在らざる者として危険視、迫害してきたという愚かさ。分際も顧みず、人在らざる者は己だという事実がまた笑えるね。
そういう意味でも、地上を這いずる数多の欠陥品は恐怖と苦痛を以て、それを思い知らされなければならない。これも私の使命の一つと云えよう。
特異点は本来、その他の欠陥品共が崇める神と同等。だが神と同等で在るがゆえ、それを超える存在である私には及ばない。
だが、君こそが私と同じ域に到達出来る可能性を秘めた、過去にも未来にも例が無い唯一の存在なのだよ。
まず君達特異点が持つ特異能と云う力は、異なる処か文字通り神の力だ。だが先天性、後天性共に等しく、神の力は一つの生体に一つしか持つ事が出来ない。それが相克という絶対不可侵の定理だ。
まあ過去、二つの神の力を投与する事例が無い訳でもない。だが唯でさえ異能行使には、脳に莫大な負荷が掛かる。結果は御察しの通り、異能過多に依る脳の焼き付きを超えて、オーバークライシスアウト(異能容量境界線超)に依る存在の消失だ。
その過程を経て、絶対に超える事が出来ない二つの神の力ーー『時空』と『光速』を持つ私が生まれた訳だけどね。
今はこの惑星が簡単に消失してしまうのを防ぐ為、敢えて第三マックスオーバーレベルーー『300%超』即ち、神の領域のままで抑えているが、私の真の力である“最終臨界点第四マックスオーバーレベル”ーー『400%超』
これがどういう意味を持つか解るかい?
簡単に言うと常識を超えられる。この宇宙の物理法則を超えた、正に神を凌駕する力だ。
長くなってしまったが、君は二つの神の力を同時に持つ、私と同じ存在だ。
だが哀しいかな。君は私と違い、有限の生命体。おそらく寿命が尽きるまで、その域に達する事は出来ないかもしれない。だが、その年齢で神の領域にまで達したのは驚異的で、無限の可能性を秘めている。
だからこそ、君には私と共に来て欲しい。私なら君に悠久を命を与えられるし、何時か必ず私の域に到達出来るだろうーー
…