テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
南空ナオミ編
南空ナオミ。
レイが“紙コップ”で命を落とした事件の真相を追う中で、ひとつの確信に辿り着く。
キラは……金がない。
恐らく学生か……子供か。
「……貧乏こそがキラの正体」
そう確信したナオミは、いてもたってもいられず警察署に駆け込んだ。
「どうしても……どうしても捜査本部の方に、直接お話したいんです!キラは貧乏で金欠だってことを!!」
受付の警官は顔を見合わせて困惑。
「いや……本部には誰もいませんよ」
「携帯も全部……留守電です」
「昨日約束したのに……! 誰もいないなんておかしいじゃないですか」
そのやり取りを背後で聞いていた月は、冷や汗を垂らしながら心の中で絶叫した。
(くっ……まずい……! “金がない”と気づかれたら……! 僕のプライドが崩れる……!!)
受付の人がふと月の姿に気づいた。
「あっ、月くんじゃないか! 久しぶり! やっぱりキラ事件も、月くんなりに推理してるわけ?」
月は一瞬固まったが、すぐに冷静な笑みを作った。
「ええ。うまくいけば──Lを“金”で出し抜けるかもしれませんよ」
ナオミの目がカッと見開かれる。
(……“金で出し抜く”?!)
月は冷や汗を垂らしながらも、必死に虚勢を張る。
「実は……僕、ちょっとした資産がありましてね。残高? ええ、もう13円どころじゃないんですよ」
受付「おおっ!? すごいな月くん!」
ナオミ(……嘘つけ)
月はさらに見栄を張った。
「このままなら、Lを差し置いて、僕が“石油王”になるのも時間の問題です」
☾☾☾
月はナオミに一歩近づき、作り笑いを浮かべながら口を開いた。
「あの……僕の父は“キラ事件”の長です。もしよければ、直接取次ぎましょうか?今は……ええ、その……携帯を切ってるだけでして。決して、通話料が払えなくて止まってるわけじゃありません」
ナオミ「……?」
月はすぐさま言葉を重ねる。
「あなたは信用できます。目を見れば分かります。──そう、クレカの返済を滞らせない、懸命で慎重な人です」
ナオミ(……なにこの人……)
月はさらに虚勢を強めた。
「僕には余裕があります。ええ、残高も……その……13円なんてケタじゃないんです。下手すれば……もう二桁、三桁いってるかもしれませんよ」
(……3桁って百円じゃない……)
ナオミは眉をひそめ、しばらく考え込んだ末に口を開いた。
「……いいんですか? 本当に、直接取次いでいただいて」
月はすかさず笑みを作り、軽く頷いた。
「ええ、もちろんです。ただ──」
月は周囲を見回し、声をひそめた。
「人に聞かれたくない話は、外を歩きながらというのが僕の持論でして……すみません、ここでは少々……」
ナオミ「……?」
月は心の中で冷や汗をかいていた。
(……危なかった……! 受付で“残高いくらですか”なんて聞かれたら即死だった……!)
表面上は堂々と振る舞いながら、足早に自動ドアをくぐる。
「さ、外の空気でも吸いながら話しましょう。ええ、決して“財布の中身を見られたくないから”じゃありません」
☾☾☾
ナオミは月の横に並びながら、ふと立ち止まった。
「……あの、一応お名前を聞かせてもらえますか」
少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「……万貴 証券子(まき しょうこ)」
月「……えっ、証券子!?」
「はい。
“万”は──残高が余るほどの 万億長者 の“万”。“貴”は──金の重みで国が変えるほどの大財閥貴族 の“貴”。
“証券”は──一晩でビルが8件建つほどの証券取引所 の“証券”。
そして“子”は──財産を代々受け継ぐ 御曹司や令嬢 の“子”です」
月は冷や汗を拭いながらも、ぐっと胸を張った。
「……あなたは?」
証券子が微笑みながら問いかける。
「夜神 月(やがみ らいと)です」
ナオミ「……」
月は堂々と、しかし必死に虚勢を込めて漢字を説明した。
「“夜”は──残高があり過ぎて眠れない夜の“夜”。
“神”は──銀行に行けば優待サービスをくらうほどの神口座の“神”。
“月”は──毎月の利息だけで生活ができる富豪月収の“月”」
月はふと真剣な顔を作り、声を落とした。
「……キラは人を殺すだけじゃありません。死ぬ直前の行動──“資産運用”まで操れるんです」
ナオミは目を見開いた。
「……資産運用まで……?!」
月は頷き、さらに虚勢を張る。
「そう……ある者には借金を全額返済させ、ある者には遺産を残させ……そして心臓麻痺以外でも“株価暴落死”なんて形で殺せる」
ナオミの呼吸が荒くなる。
「……わ、私と同じ考えを持ってる人がいたなんて……!キラは死の前の行動を操れる……!」
(………なんなんだ?この女……)
☾☾☾
段々と空から雪が降り始めた。
街灯に照らされる白い粒が、二人の間を舞う。
月はその光景を横目に、心の中で冷酷に決意した。
(……推理の過程がどうであれ、この女が辿り着いた“貧乏=キラ”という真実……放っておけば必ず僕を追い詰める。──始末するしかない)
月はコートの内側から、そっとノートの紙片を取り出した。
冷たい指でボールペンを握りしめ、淡々と記す。
『万貴証券子 2004年1月1日15時より──』
月の瞳が細まり、ペン先が震えながら走る。
『……保有していた株をすべて暴落寸前に投げ売り、最後に残高をキラだと思う者の口座に全額振込。その後、生命保険をキラの名前に設定してから自殺』
書き終えた瞬間、口元に冷酷な笑みが浮かぶ。
(……これで僕は石油王。完全にLを出し抜いた──!)
しかし──
女は動かない。
(どうした?時間はとっくに過ぎているはず……)
月は目を見開き、慌ててデスノートの切れ端を確認した。
『万貴証券子』──。
月は奥歯を噛みしめ、額に汗をにじませながら心中で叫んだ。
(くそっ、そりゃあそうだろう……!! “万貴証券子”なんて変な名前、存在するわけない……!!自分で書いてて怪しいと思ったじゃないか!!……どうする?このままじゃ……)
☾☾☾
Lはネカフェの個室から身を乗り出し、周囲の刑事たちを見渡した。
疲れ切った声で、ゆっくりと言う。
「……一人一人の財布を確認するようなことをして申し訳ありませんでした。ですが、この中に“残高13円”の人間──つまり、キラはいません」
刑事たち「………………」
Lはガムシロップをちゅるっと飲み干しながら続けた。
「……一言で言えば、キラであるかどうかを見極める“トリック”を用意していました」
刑事たちが息を呑む。
「ですが……皆さんに仕掛ける気すら起こりませんでした」
Lは無表情のまま、机に額を落としそうな姿勢でぼそりと続けた。
「……なぜなら、全員の財布を見て分かったんです。──借金を背負っているのは、私だけだった」
室内は凍りついた。
松田「……えっ」
相沢「お、おいL……」
模木「本気で言ってるんですか……」
Lはガムシロの空容器を指先でカラカラ回しながら、淡々と呟いた。
「ええ、私は……1000万円の債務者です」
☾☾☾
「実は──僕も“捜査本部の一員”だからです」
ナオミ「捜査本部……?」
月は堂々と胸を張った。
「ええ、今その本部の指揮をとっているのはLですが……実際は“選ばれた者だけの金融精鋭集団”なんです」
ナオミ「き、金融精鋭……?」
月はさらに虚勢を張る。
「捜査官としての能力だけじゃない。資産運用のセンス、口座残高、株式の持ち分……それらを兼ね備えた者だけが参加できる──選ばれた人間だけの捜査集団なんです。」
「そうですか。……なら十分です。Lに“キラは貧乏だ”と伝わるなら……それで十分です。」
月は目を見開き、心の中で絶叫した。
(十分じゃないッ!! まだお前の“本当の名前”を聞いてない……!!)
ナオミはふっと目を伏せ、歩調を緩めた。
「……私、つい3ヶ月前までFBI捜査官でした」
月「……え?」
ナオミは吐息を白くしながら続けた。
「ロサンゼルスでのBB連続殺人事件……あの時、Lの指示で働き、事件を解決してやったのに……報酬金200万円、全部Lに取られたんです」
月(……なっ、なんだそれは!?)
ナオミの声は冷えていた。
「今でも思うんです──Lは探偵としては優秀かもしれないけど、人間としてはケチだって」
(ケチどころかクズ野郎じゃないか……!)
☾☾☾
月は眉をひそめて問いかけた。
「……しかし、なぜLに話そうとしていたことを、僕に?」
ナオミは白い息を吐き、冷たく答えた。
「Lに報酬金を奪われただけじゃないんです。勝手に私の名前を商標登録され、小説まで……」
月「…………」
ナオミは鋭い目で月を見据える。
「そのうえ捜査本部の長の息子を名乗る人まで現れた。そして──あなたからもLと同じ“ケチで借金まみれの匂い”を感じたんです」
月は冷や汗を垂らしながら必死に笑顔を保つ。
(バ、バカな……僕が……ケチで借金まみれに近いだと!?いや違う、僕は──石油王になる男だ!)
「……よければ、一緒に捜査しませんか? 僕が直接、本部へご案内します」
「一緒に捜査させてください」
「良かった。では、名前が分かるものだけ見せてくれますか?」
「え、ええ……」
ナオミはバッグから一枚のカードをすっと取り出した。
黒光りするその表面。
──BLACK CARD
月「…………っ!!」
(ブ、ブラックカード……!? よりによってこのタイミングで!?クレジットの頂点、富豪の証!! 対して僕は……13円ッ!!)
ナオミは淡々と見せつけるように差し出した。
「これでよろしいですか?」
月は必死に笑みを貼りつけた。
「ええ……もちろん。非常に信頼できる身分証明です」
月はコートの影で小さな紙切れを広げ、ボールペンを走らせた。
震える筆跡で刻まれた文字は──
『南空ナオミ 自殺 2004年1月1日午後1時25分』
月の口元が歪む。
(ただ死ぬだけじゃ無駄だ……僕の財布を潤してから死んでもらう!)
ペン先がさらに加速する。
『──死因:自宅の金庫に眠っていた全財産をキラだと思う者の口座へオンライン振込。その後、所有するブラックカードの利用権をキラに譲渡する遺言を残し、最後に高級時計を質屋に売り払って現金化し、新宿駅に西口に封筒に入れたまま、落として自殺』
ナオミは首をかしげながら問いかけた。
「あの……何故そんなに時計を気になさってるんですか?」
月は冷や汗をかきながらも、即座に答えた。
「……時間を気にしてるんです」
「時間……?」
「そう。ATMの関係で」
ナオミ「ATM……?」
月は顔を引きつらせながら、妙に真剣な口調で言った。
「そう……15時を回ると──まずいことになる」
ナオミは身を乗り出した。
「ま、まずいこと?」
「ええ、とてもまずいことになる──時は金なり……命なり、いやっ、大金なりってね」
(どっかで聞いたことあるセリフ……)
「早くしないと……」
ナオミ「……い、一体何があるんですか?」
神妙な顔つきのナオミ。
月は深く息を吸い込み、決め台詞のように言い放った。
「それはですね──……手数料を取られるからです」
シーン……。
ナオミ(……やっぱりこの人貧乏人じゃない)