テラーノベル
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パチン、と乾いた音が部屋に響いた。 銀時の頬が、横に流れる。
神楽の手が震えている。
「ふざけるなアル」
低い声だった。怒鳴りじゃない。 抑え込んだ怒り。
「なんで、一人でやるネ」
銀時は、少しだけ目を伏せた。
「……うるせぇ。ガキは寝てろ」
服は裂け、包帯の下から血が滲んでいる。 “こけた”で済む傷じゃない。
新八は拳を握る。
「僕、見ました」
空気が止まる。
「今日、銀さんの後つけました。裏路地で、天人の集団と一人でやり合ってた」
銀時の目が、わずかに揺れる。
「……尾行とかストーカーかよ。」
「なんで言ってくれないんですか!!依頼ですよねアレ!」
声が裏返る。
「僕たちの仕事は減ってるのに、通帳のお金だけどんどん増えてく。おかしいって思ってたんです」
神楽が銀時の襟を掴む。
「私たちに隠れて、何してるアル!!」
沈黙。
重い沈黙。
やがて、銀時がぽつりと落とす。
「……だ」
「は?」
「万事屋に、余計な火種が飛ばねぇようにしてるだけだ」
淡々と。
「ちょっとした揉め事の芽を、早めに摘んでるだけだ。ガキの小遣い稼ぎみてーなもんだ」
嘘だと分かる。
“ちょっと”で済む傷じゃない。
新八は震える声で言う。
「それ、神楽ちゃんのことですよね」
銀ちゃんの視線が止まる。
図星。
「……あの一件で、目ぇつけられた。夜兎だってバレた。放っときゃ、そのうちデカいのが来る」
だから。
「だから、俺が先に潰してるだけだ」
さらりと。
まるで当たり前みたいに。
神楽の指が、さらに強く食い込む。
「それで銀ちゃんが死んだらどうするアル」
「死なねぇよ」
「死なない保証どこにあるネ!!」
神楽の声が、震える。
「銀ちゃんは、私が死にかけた時、あんな顔してたアル!!」
銀時の呼吸が止まる。
「あんな顔、私もする羽目になるのは嫌アル!!」
静寂。
新八が、ゆっくり言う。
「守るって、そういうことじゃないです」
「……」
「銀さん一人が傷だらけになることが、万事屋の形というわけじゃないはずです。今までだって3人で乗り越えてきたじゃないですか」
銀時は目を逸らす。
「俺は……」
言葉が詰まる。
「俺は、間に合わなかったことがある」
低い声。
「目の前で、消えた」
攘夷戦争。
二人は知っている。詳しくは聞かないけど、背負ってるものがあることは。
「だから、芽は潰す。全部」
「でも!!」
神楽が叫ぶ。
「それで銀ちゃんが消えたら意味ないアル!!」
その言葉が、真っ直ぐ刺さる。
銀時が、わずかに笑う。
弱い笑い。
「俺は別に――」
そこで、神楽がもう一度叩く。
今度は涙目で。
「勝手に自分の命を軽く見るなアル!!」
銀時の瞳が、揺れる。
「銀ちゃんは、もう私達の家族ネ!銀ちゃんにとったら自分の命なんて軽いかもしれないアル。でも私たちにとったら銀ちゃんは、銀ちゃんの命は大切アル!」
家族。
その言葉に、銀時の喉が上下する。
新八が続ける。
「僕たち、弱いかもしれない。でも、三人なら戦える」
「足手まといになる」
「なりません!!」
即答。
「僕は、銀さんの背中だけをみたいわけじゃない。隣に立ちたいんです」
沈黙。
銀時の拳が、ゆっくり震える。
「……怖ぇんだよ」
かすれ声。
「また、いなくなるのが」
それは、あまり聞くことの無い本音だった。
神楽の手が、今度は優しく銀時の頬に触れる。
「じゃあ、三人で怖がるネ」
新八も頷く。
「一人で先回りして、一人で血まみれになるの禁止です」
長い、長い沈黙のあと。
「……めんどくせぇガキども」
鼻をすする音。
「俺のカッコつけタイム、台無しにしやがって」
でも。
その肩の力は、少し抜けていた。
「次からは」
銀時が小さく言う。
「次からは、声かける」
神楽がじっと見る。
「本当アルか?」
「……たぶん」
「たぶんじゃダメアル」
「うるせぇ」
新八が、やっと少し笑う。
「約束ですよ」
銀時は、二人を見て。
観念したようにため息をつく。
「……あーもう、分かったよ」
ぽつりと。
「一人で背負う事はしねぇ」
不器用で、遅い宣言。
神楽が鼻をすすりながら言う。
「じゃあ今日は、三人で寝るネ」
「狭ぇよ」
「文句言うなアル」
新八が包帯を取りに立つ。
神楽が傷を消毒する。
銀時が痛ぇ痛ぇと騒ぐ。
うるさい。
でも。
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