テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
2,753
「本来のアイツって、なんだよ」
「な、何……?」
「お前には見えなかったのか」
低く地を這うような煌の声に、静遠が気圧されたように言葉を詰まらせる。煌は口元の血を手荒く拭い、一歩、静遠へと歩を進めた。傷だらけの全身から、怒りそのものが滲み出るような威圧感が溢れ出す。
「この国の穢れを一身に背負って、ずっと一人で苦しんでるアイツの姿が」
「それは……朱雀様としての御役目であり――」
「役目だったら、壊れるまで苦しんでいいって言うのかよ!?」
煌の怒号が、爆発する炎の音さえもかき消して庭園に轟いた。
またひとつ、背後で炎が爆ぜる。
熱い。肌が焼けるように熱い。なのに、煌の足は朱雀の元へ向かわなかった。
今、ここで言わなければならない気がした。こいつに、ちゃんと聞かせなければならない気がした。
「俺だってさ、好きでこの世界に来たわけじゃねぇんだよ……ッ! 勝手に呼び出しておいて、自分の思ってたやつと違うからって疫病神扱いか? だったら、朱雀を巻き込まずに、俺と正々堂々勝負すればよかっただろ! なんで、アイツがこんな目に遭わなきゃいけないんだ……!」
胸の奥に溜まっていた行き場のない怒りが、気づけば声を震わせながら溢れ出して止まらない。
「俺が来なかったら、アイツは平穏でいられたのか? 違うだろ。俺がこの世界に来たとき、アイツはもう、とっくに限界だった。誰も気づかない場所で、すべての穢れを背負って、ずっと一人で苦しんでたんだよ……!」
ゴォォォッ――!!
背後の炎が、一際激しく空へと噴き上がった。
地面が揺れる。熱風が肌を焼く。朱雀の啼き声が、もはや言葉の形すら失って、ただ狂おしく夜空を引き裂いていく。
(……時間がない)
頭の片隅で、冷静な自分が警告を鳴らしていた。あの暴走がこのまま続けば、宮殿ごと焼き尽くされる。一刻も早く飛び込んで、調律しなければ。
わかってる。わかってるのに。
煌は静遠の胸ぐらを掴み上げんばかりの勢いで顔を近づけ、最後の言葉をぶちまけた。
「そんなアイツを見て……ずっと隣にいて、お前は一度も、『救ってやりたい』って思わなかったのかよ……!」
「あ……、う……」
静遠は完全に蛇に睨まれた蛙のように硬直し、何も言い返せずにただ口を震わせることしかできない。その歪んだ「崇拝」の浅はかさを、煌の言葉が完膚なきまでに暴き立てていた。
煌は掴みかかりそうになっていた拳を、ぐっと堪えるように引き戻す。
言いたいことは、まだある。山ほどある。
――だが、今はそれよりも先にやることがある。
煌はくるりと踵を返し、燃え盛る炎の渦へと、真っ直ぐに走り出した。
「童殿!? 危険です、近づいては――」
「わかってる! けど、俺しかアイツを救えないだろ!」
燕花の悲鳴を背中で受け流し、煌は熱風の中へと飛び込んでいく。肌が焼ける。目が痛い。それでも足を止めない。
炎の渦の中心に、朱雀がいる。
あいつが、そこにいる。
「朱雀――!!」
煌は両腕を広げ、狂暴な炎ごと、その身体を強く抱きしめた。
コメント
1件
読み終わりました……! もう、煌くんの怒りが痛いほど伝わってきて、胸がぎゅっとなりました。「壊れるまで苦しんでいいって言うのかよ」って台詞、ずしんときましたね。静遠の崇拝がただの見せかけだったって暴かれる場面、すごく熱かったです。そして最後、炎の中に飛び込んで朱雀を抱きしめる行動力——煌くん、かっこよすぎます😢 次が気になりすぎます!