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「……佐藤さん。今、貴女の視線が右前方十五度の方向にいた、金髪の男と三秒以上交差しましたね。これは明確な『契約違反』の兆候です」
夜会の熱気が最高潮に達する中、耳元で氷点下の囁きが響いた。
私の腰を、折れんばかりの力で抱き寄せているのは、一ノ瀬部長。
いえ、今は「嫉妬に狂う騎士団長」だ。
「ぶ、部長、近いですって! 彼はただ、隣国の王子様で、挨拶しようとしてくれただけで……!」
「王子? どこの馬の骨とも知れないベンチャー企業の二代目のような男に、私の大切な……いえ、私の『管理下にあるリソース』を割く必要はありません。スルー一択です」
部長の目は笑っていない。
それどころか、眼鏡の奥で静かな「粛清」の炎が燃えている。
しかし、そんな部長の殺気など露知らず
件の王子が眩しい笑顔を振りまきながら近づいてきた。
「やあ、麗しき令嬢。君の瞳は、まるで我が国に咲く宝石のようだ。一曲、私と踊っていただけないかな?」
王子の差し出した手が、私の指先に触れようとした、その刹那。
ガシィィッ、と、重い金属音が会場に響いた。
一ノ瀬部長が、王子の手を「鉄の籠手」で力任せに弾き飛ばしたのだ。
「……失礼。私の妻は、現在『私とのダンス』という最優先タスクの最中です。割り込み処理は、私の承認フローを通してからにしていただきたい」
「タスク?フロー?よく分からないが……一ノ瀬団長…ずいぶんと手厳しいな。ただの挨拶じゃないか」
「挨拶? 貴公の視線は、明らかに『不当な企業買収』を目論むそれでした」
部長から放たれるプレッシャーに、周囲の貴族たちが「ひっ……」と息を呑む。
王子もさすがに顔を引きつらせているが、天然ドジな私は、ここで空気を読まずに転んでしまった。
「わわっ、ひゃあああ!?」
ドレスの裾に足を引っかけ、勢いよく前のめりになる。
(まずい、王子様の足元にダイブしちゃう!)
そう覚悟した瞬間、私の体は宙に浮いた。
「……佐藤さん…っ、あなたというひとは、なにか問題を起こさないと息できないのですか?」
気づけば、私は部長の腕の中に、ガッチリと、そしてひどく大切に抱きすくめられていた。
「ち、違いますよ!!」
部長は私の頭をその大きな手で包み込み
王子の存在など視界から消し去ったかのように、私だけを見つめている。
その瞳は、いつもの冷徹な「上司」のものではなく一人の「男」としての独占欲に濡れていた。
「ぶ、部長…!みんな見てます……恥ずかしいです……」
「……仕方ないでしょう、私の『管理権限』を他人に誇示しているだけです。……それと、佐藤さん」
部長は、私の耳たぶに触れるか触れないかの至近距離で、掠れた声で告げた。
「先ほどの王子への微笑み。……あれは、今回のプロジェクトにおける『重大なコンプライアンス違反』として記録します」
「よって帰宅したらすぐに私の執務室での『再研修』を決定します。異論は、一切認めません」
「え!? 研修って、何するんですか!?」
「……私が納得するまで、私以外の男の名前を口にしない訓練ですよ。……覚悟、しておきなさい」
部長の腕に込められた力は、もはや演技の域を完全に超えていた。
#溺愛
#ハッピーエンド