テラーノベル
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6月、東京。
雨が街をゆっくりと包み込んでいた。
制服の袖に、雨粒がじんわりと染みていく。
バス停の下、葵はひとり、傘の内側からぼんやりと空を見上げていた。
(やっぱり……雨、苦手だな)
音もなく降り続く雨。
湿った空気。冷たい風。
だけど、なぜか心の奥だけは少し温かかった。
——バシャッ。
水たまりを蹴る音。反射的に足元を見た。
「…ごめん」
その声に、顔を上げる。
傘もささずに立っていたのは、見知らぬ男子生徒。
制服からして、同じ高校の先輩だろう。
黒髪から滴る水。どこか冷たいけど、まっすぐな瞳。
「…あ、いえ…大丈夫です…」
とっさにうつむいた葵に、彼は少しだけ目を細めて言った。
「濡れるよ。あっち、屋根あるから」
それだけ言って、彼はゆっくりと歩き出した。
傘もささずに、静かに消えていく後ろ姿。
(……誰、あの人)
どこか引っかかる声。冷たそうで、でも少し優しかった。
それが「平賀遥」との、最初の出会いだった。
コメント
2件
続きたのしみ!
おもしろ