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次の日も、その次の日も晴れていて、あの先輩のことを思い出すたびに、葵は胸が少しだけざわついた。
(もう、会うこともないのかも)
なんとなく、そんな予感がしていた。
──でも。
1週間後、また雨が降った。
傘を差しながら、葵はゆっくりと帰り道を歩く。
水たまりをよけて、坂道を下ったその時だった。
「……あ」
電柱の影、雨宿りしている誰かの姿が目に入った。
制服。濡れた髪。どこか冷たい横顔。
(……あの人だ)
「……あのっ!」
気づいた時には、声をかけていた。
遥がゆっくりと振り向く。
冷たい視線。でも、驚いたように目を見開いた。
「……お前、前に……」
「バス停のときの……美咲 葵です」
なぜか、自己紹介していた。
心臓がドクドクと鳴る。
沈黙。
そして、遥は目をそらしながら言った。
「お前、変なやつだな」
「……え?」
「普通、あんなの一回で忘れるだろ。名前まで名乗るとか」
葵は思わず言い返した。
「……だって、気になったんです。あなたのこと」
その瞬間、遥の目が少し揺れた。
けれど、彼はそれ以上何も言わず、雨の中を歩き出した。
「じゃあな、美咲葵」
名前を呼ばれた。
初めて、ちゃんと。
雨の音に混じって、胸が少しだけ温かくなった