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「お帰りなさいませ、お姉様。随分と遅いご帰宅でしたね?」
「え、ええ、その、王都の周辺の魔物退治が思った以上に時間がかかって。あなたの方は、大丈夫だったの?」
「ええ、私が片付けましたから」
アーガント伯爵家に戻ってきた私を、エルメラはいつも通りお茶会に誘ってきた。
私はそのお茶会に乗った。それは王城にてドルギア殿下と話したことにより、考えを改めることになったからだ。
ただ、それらのこととは別に、今はエルメラに聞きたいことがあった。この数日で、色々なことがあったからだ。
「いえ、そういうことではなくて……何から聞けばいいのかわからないのだけれど、パルキスト伯爵家で、一体何があったの?」
「夫人が捕まりましたね。私への殺人未遂で。ああそれから、伯爵の脱税と浮気、長男の反社会的な者達との繋がり、それから次男のギャンブルによる借金問題についても、表に出ていますから、これから色々とあると思います」
王都にいる私が聞いたのは、パルキスト伯爵家の悪事の数々だった。
エルメラがお世話になっている間に、それらが全て暴かれたのだ。というか彼女自身が、被害者にもなっている。
それらのことが、全て偶然だと考える程、私も間抜けではない。それらのことには、エルメラが関わっているはずだ。
「あなたがそれらを暴いたの?」
「さて、どうでしょうか? ああ、私達とパルキスト伯爵家との縁談は当然消滅しました。まあ、もう彼らは没落する訳ですからね」
「もしかして、あなたは最初からそれが狙いだったの?」
「そんなことは、どうでもいいではありませんか」
エルメラは、彼女にしては珍しく満面の笑みを浮かべていた。
その笑みはパルキスト伯爵家を、無事に没落させられたからこその笑みなのではないか。今の私は、そう思っている。
「どうでもいいことなんてことはないわ。特に、あなたが夫人に殺されかけたという話なんかは……」
「お姉様、私を誰だと思っているんですか? 一夫人なんかに、殺されたりしませんよ」
「そうかもしれないけれど……」
「それにそもそも、お姉様の推測通りであるならば、それも私の計画の一部ということになりますからね」
「そんな危険な計画なんて、どうして立てたのよ」
エルメラの言葉に、私は頭を抱えることになった。
この妹が優れた才能を持つことは、よく知っている。しかしだからといって、自分を殺すように仕向けるなんて、いくらなんでも無茶だ。
彼女は、それ程にパルキスト伯爵家を潰したかったということなのだろうか。
一体、何がそこまでエルメラを駆り立てたのか、私にはわからない。
ただ、推測することができないという訳でもなかった。パルキスト伯爵家は、私が最初に訪ねた時にひどい扱いをした。まさかとは思うが、それがきっかけなのだろうか。
「エルメラ、あなたもやはりアーガント伯爵家を侮辱したパルキスト伯爵家のことが、許せなかったのかしら?」
「……」
私が疑問を口にすると、エルメラは笑うのをやめて真剣な顔になった。
彼女は、鋭い視線をこちらに向けてきている。その迫力に、私は少し気圧されてしまう。
「アーガント伯爵家の誇りなんて、私にとっては興味がないものです。それはお姉様にも、何度もお伝えしたと思いますが……」
「でも、あなたがパルキスト伯爵家にしたことがただの道楽だとは思えないわ。何か理由でもないと……」
「お姉様は、私のことを買い被っているようですね? 私はただ、出先で面白そうなことがあったから突き止めただけです」
エルメラは、私の質問をはぐらかしてきた。
その表情には、笑みが戻っている。その一瞬の真剣な表情は、何を表しているのだろうか。
「お姉様、なんというか変ですよ? いつもは、そんな風に食い下がってこないのに」
「それはその……」
「王都で何かあったのですか? ああそういえば、最近第三王子と仲が良いとか、風の噂で聞きましたが……」
「ま、まあ、仲良くはさせてもらっているけれど……」
エルメラの言葉に、私は驚くことになった。私とドルギア殿下のことなんて、把握しているとは思っていなかったからだ。
一体、誰からそんなことを聞いたのだろうか。はっきり言って、エルメラはパルキスト伯爵家に行くまでこの屋敷からあまり出ていなかったし、情報を仕入れられる暇があったとは思えないのだが。
「ドルギア殿下は、人格者であるようですからね。仲良くしておいて、損はないとは思います。この国の王族は良い人達ばかりですから、そういった面についても安心できますね」
「ああ、あなたは王族とも繋がりがあったわね……あの、エルメラ? なんでそんなに、嫌そうな顔をしているの?」
ドルギア殿下のことを語るエルメラは、いつにも増して不機嫌そうな顔をしていた。
良い人であると言っているのに、なんでそんな嫌そうな顔なのだろうか。その一致しない言動には、思わず困惑してしまう。
「まあ、別にお姉様が誰と仲良くしていようと、私は構いません。でも、もしも仮にその方と何かしら特別な関係とかになるとしたら、その前に私やお父様やお母様に話を通してくださいね」
「え? いや、ドルギア殿下とはそんな関係では……」
「仮にの話ですから、そこまで深刻に考えてもらわなくても結構です。そのまんざらでもない反応を今すぐやめてください」
何故かわからないが、エルメラは大変に怒っていた。
その怒りに、私はもう黙って頷くことしかできなくなっていた。
しかも結局、パルキスト伯爵家のことを満足に聞けた訳でもない。優秀な妹に、私は上手くはぐらかされてしまったのだった。