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「ねえ 知ってる?
人間の中にはたまに天使が紛れてて、その天使に魅入られた人間は連れていかれて死んじゃう…
って話。」
「なにそれ。そんなの信じてんの?」
「おとぎ話みたいだよね
でもさ、今行方不明になってる5組の中野さん
いなくなる前、『天使と一緒になるんだ』って
言ってたらしいよ──────」
「はい、じゃあ1番前の…百田さんから。
一人ずつ自己紹介していきましょう」
この学校に入学したばかりの頃。
自己紹介の時間、窓際の1番前の席で立ち上がり、振り返った彼女を見て、おそらくクラスの全員が目を奪われた。
私もその1人だった。
百田雪。
そう名乗った彼女はまさしく名が体を表すように病的な程色白く、その肌に映える艶やかなセミロングに端正な顔立ち、そして小柄でか細い身体付き、とまるで作り物の様に美しい容姿をしていた。
「海が好きです。
よろしくお願いします」
ふわりと透き通る声に、微笑む様は天使のよう。
私は彼女に見惚れながらも、この時はまだ、この子きっとすごくモテるだろうな、とか私とは住む世界が違うんだろうな、くらいにしか思っていなかった。
けれど、今思えばこの日からすでに、私の人生の歯車はこの天使によって狂わされていたのだと思う。
自己紹介が終わり休み時間になったが、すでにまわりにはちらほらとグループが出来始めていた。
私も誰かに話しかけないと、と思い慌てて教室を見渡すと、窓の方に一際大きな集団があった。
案の定、中心にいるのは雪。
「すごい可愛いね」
「もしかしてアイドルとかしてんの?」
「インスタ交換しようよ」
早速男女問わず大勢に取り囲まれていたが、どういうわけか本人はあまり取り合っておらず、キョロキョロと誰かを探しているようだった。
そのとき、彼女と目が合った。
すると雪はあっという顔になり、途端に笑顔を浮かべ、席を立って歩き出した。
(え、私?)
まるで私を探していたかのような反応に狼狽えてしまう。
「加納さん だよね?」
パタパタと可愛らしい小走りで対角線にある私の席までやってきた雪は、後ろで手を組み、私の顔を覗き込むようにしてそう問うた。
「う、うん」
突然の展開と間近で見る雪の端正な顔に圧倒されてしまい、私は少したじろぎつつ答えた。
「私、雪だよ。冬に降る雪。」
「雪…ちゃん」
「そ。加納さんの名前は?」
「えっと…藍色の藍と子、だよ」
「藍子、じゃあ藍子ちゃんだ。
かわいい名前だね」
「そ、そうかな」
そう会話しながらも、なぜわざわざ私に話しかけに来たのだろうという疑問と少女の距離の近さにさらに混乱してしまう。
私たちはそうしてお互いに名乗りあったが、 その間にも雪の肩越しに彼女の席に取り残されたクラスメイトたちが見えた。
そして彼らが不思議がるような、「なんであの子?」とでも言いたげな視線をちらちらとこちらへ寄越していたために、私はかなり居心地の悪い思いがしていた。
皆の反応はもっともだ。
なにより私自身が一番困惑しているのだから。
雪は可愛らしくて社交的で愛嬌があって、所謂「一軍」に位置付けられる、高嶺の花のような人間なのだろう。
対して私は、地味で目立たない顔に暗い性格で、髪だって雪のようにさらさらしていないくせっ毛だし、声も低くて可愛くない。所謂「三軍」。
月と鼈である。
なぜ雪が自ら私に話しかけてくれるのか、本当に分からなかった。
けれど雪はというと、そんな格差など微塵も感じていないように
「藍子ちゃん、連絡先交換しよ?
私インスタしてないから、LINEでね」
と明るく言ってのける。
私はクラスメイトたちからの刺さるような視線を受けつつも、自分がこの美少女と交友を持つことが出来た一人目であることに嬉しさを感じずにはいられなかった。
まるで天使に選ばれたようだった。
「藍子ちゃん、これからよろしくね?」
雪は私の連絡先が追加されたスマホを大切そうに両手に持ち、艶然と微笑んだ。
「うん、よろしくお願いします」
きっと、私でなくとも、この天使の笑顔の内側に気付くことなど出来なかっただろう。
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