カーテンから漏れる光に起こされ重いまぶたを上げる。ぼやけた視界に映るダークブラウンの髪に違和感を覚える。どうやら昨晩共に夜を過ごした者がいるらしい。寝ぼけ眼で目の前の妙に整った顔を見つめる。その人物を認識することで身にまとう眠気は動揺に姿を変えた。その人物はまごうことなき同僚の加賀美ハヤトだった。その事実はあまりにも不破湊の日常にはイレギュラーで不思議なことだった。なぜ?が脳内で渦巻いていると、目の前の加賀美は目をゆっくりと開いた。切れ長の瞳を開き加賀美は不破を見るなり微笑んだ。その微笑みはいつも仕事で向けられるような友情としての笑みではなかった。まるで恋人を愛しく思うような愛のこもった笑みだった。一方そんな表情を見せつけられた不破の顔は赤く染め上がってしまった。寝起きに爆弾のような情報量にパンク仕掛ける不破だが無慈悲なことにもう一つ爆弾情報が目に入る。
お互い服きてないやんけ
同じベッド、互いに着衣をしていない、腰に走る痛み
ああ、ピースはそろってしまっている。こんなの間違いなくそういう行為を証明しているじゃないか。これを行為後の朝意外になんというのだ。
「しゃちょ~う…」
眠たそうな加賀美に声をかける。
『…ふわさんだ…なんですか?』
いつもより低い声に反応し心臓に悪いとおもいながらも昨晩のことについて訪ねる。
「…昨晩ってなんかやりましたかぁ…?」
『……え!?覚えてないんですか!?!?』
朝とは思えぬその声量っぷりとただことではない昨晩に対して苦笑する。
『…お酒に酔ったあなたを家にかくまったんですよ。あなたの家もわからなかったから。そうしたら不破さんが…』
抱いてくれって
完全にこっちに非があってもう笑うしかない。なにやってるんだ昨晩の俺。恋愛感情を抱いている相手に伝える言葉をミスりすぎている。もっと段階踏むべきだっただろ。と怒濤の勢いでここの中で自分にツッコむ。
「…まじすか…とんでもないっすね…すみません…!」
『いや、誘いに乗ったのは私ですし……ていうかあなたが私に言った言葉覚えていますか?』
おいなんて言ったんだ俺怖すぎるよさすがに
「いやぁ…覚えてないっすねぇ、」
『…!じゃあこの際はっきりさせてもらいます。あなた昨日私に好きと言いました。シラフの今もですか?好きという気持ちは。それも恋愛感情で。』
「、…好きってそれは行為中にいったんか俺」
『いや行為前にしっかり言いましたよ』
ああ、酔いに任せて思いを伝えてしまったのか俺は。もっと真っ正面から思いを伝えたかった…情けないわぁ…と自責の念に駆られる感情の隣でこのつもりにつもった恋愛感情をやっと伝えることができたのかといった安堵の気持ちにも駆られていた。もうきちんと言ってしまおうか、この感情を。と覚悟を決めた。
「…好きっすよ。それも恋愛的なやつで」
『!』
「社長は優しいしかっこいいし自分の足でこの世にしっかり立ってる強さもある。歌も心震える歌声やし好きにまっすぐですごいんよ。憧れやったんにいつしか好きになってた。」
「社長は優しいからきっと昨日もほだされてくれて俺のこと抱いたんよきっと。困らしてほんとうにごめんなぁ…」
やってしまった感と罪悪感で苛まれている不破に対し加賀美は喜びにあふれていた。
やっぱり好きでいてくれたのか。こんなに自分を好いてくれたのか。なんてかわいらしいんだ、などの感情をこの目の前の男、不破湊にたいして抱いていた。
『不破さん。私はうれしいんですよ。あなたが私に恋愛感情を抱いてくれたことが、あなたと私の気持ちが同じと言うことが。』
「…え?」
『好きですよ不破さん。だれよりもずっと前からその瞳も声も髪も歌声もトークも配信も全部好きなんですよ。』
「ぅえ、…」
『そもそもあなたずっとあやまっていますがあのとき誘われたときまあ誘いに乗りましたけど、さすがの私も恋愛感情抱いていない人のこと抱けませんよ。不破さんだから抱いたんですよ。好きって言ってるもんじゃないですか』
「たしかに…??じゃあおれはそうそうあいってこと?」
『相思相愛っていいたいんだろ』
「それっす」
ふわふわした会話をはさみ冷静さをとりもどしてきた。状況が読めてくると顔に熱があつまり口角がいやでもあがってくる。
「うわぁ…両思いまじか…めっちゃうれしいっす」
『なかなかの寄り道しながらの両思いですね』
「っすね…」
『お付き合い正式にさせてもらう形ですけど私大分嫉妬深いし独占欲ありますけど覚悟しててくださいね?』
不破さん。とこれまで幾度と加賀美に呼ばれてきた名前に今まで感じたことのないニュアンスがそこにはあった。不破は加賀美の瞳に潜むただことではない欲を確かに捉えたがとっくに消えた眠気をいいわけに気づかないふりをした。
「よろしくなぁ社長。」
そういう不破の瞳の期待と妙な色気を加賀美はみのがさなかった。
ベッドの上に男二人。夏をおきざりにして秋を迎えた少し暑さの残る秋の朝の出来事だった。
コメント
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え..もう、好き以外の言葉が出ないんですけど..🫶️💞 2人の言葉使いや、文章力の高さが尋常じゃないですって!!!これからも、素晴らしい👏✨作品をお恵み下さい😇💗✨️