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#シリアス
「ごめん。でも、一回じゃ足りなかった」
そう言って鼻先をくっつけてくる彼に、恥ずかしさで泣きたくなる。
「……っ、そ、それはそうと……どうやってここから出るの…?もうそろそろ、昼休み終わるんじゃ…」
羞恥を誤魔化すように呟く。
このまま二人きりでいたら、心臓が持たない。
天馬くんはまだ至近距離のまま、「んー」と気の抜けた声を漏らした。
「誰か気づいてくれんじゃね?案外、こういうのはタイミングよく助けが来るもんだし?」
「そ、そんな呑気な……」
言いかけた、その時だった。
──ガチャガチャッ!!
突然、重厚な扉が激しく揺れ、金属の摩擦音が響いた。
「うお、いたいた!!」
聞き覚えのある、軽快な声。
「先生ー! やっぱここに閉じ込められてましたって、この二人!」
須藤くんだ。
その瞬間、僕と天馬くんはスプリングが弾けたように距離を取った。
「っ!!」
さっきまでの密着した熱が、嘘のように引き剥がされる。
でも、心臓の暴走は止まらない。
やばい。
今の僕、絶対に顔が真っ赤だ。
唇だって、腫れてるかもしれない。
「開けるぞー」
ガラッ!!
勢いよく扉が開け放たれ、暴力的なまでの正午の光が倉庫内に流れ込んできた。
「お前ら、こんな暗いところで何してんの?」
加賀くんが呆れたように笑いながら立っている。
その後ろでは、体育教師が「悪い悪い! 誰もいないと思って鍵閉めちまった!」と暢気に頭を掻いていた。
「閉じ込められるとか、どこの少女漫画だよ」
須藤くんがケラケラと笑う。
僕は慌てて前髪を整え、必死に顔を伏せた。
「……っ」
無理だ。
今、誰の顔も見られない。
隣の天馬くんを見ると、彼も珍しく頬を染めている。
けれど彼は、一瞬でいつもの「頼れる陽キャ」の仮面を被り直した。
「マジ焦ったわ。一時はどうなることかと」
「お前ら、そこで何話してたん?」
「水瀬が暗いとこ苦手だから、落ち着かせてただけ」
「赤ん坊あやすオカンかよ」
加賀くんの突っ込みに、周囲が笑いに包まれる。
その喧騒に紛れて、僕は必死に呼吸を整えた。
落ち着け。バレてはいけない。
さっきまで、ここで僕たちが恋人になったことも、深くキスを交わしていたことも。
そう自分に言い聞かせているのに。
ふと横を見ると、天馬くんと視線がぶつかった。
彼は周囲にバレないよう、僕にだけ見える角度で、いたずらっぽく口角を上げた。
──恋人。
その言葉が持つ甘美な魔力が脳裏をよぎり、僕の顔は再び沸騰したように熱くなった。
「……水瀬?」
「っ、な、なに……!」
「なんか顔赤くね?熱中症?」
須藤くんの鋭い指摘に、僕は思わず「ひっ」と短い悲鳴を上げた。
すると隣で、天馬くんが我慢しきれないといった様子で吹き出した。
「ははっ、閉じ込められてのぼせたんだろ。そっとしといてやれって」
その声が、驚くほど優しく
どこか誇らしげに響いて、僕の心臓は今日一番の大きな音を立てた。