第105季 幻想郷
八雲紫は幻想郷の現状を憂いていた。今までにも何回か幻想郷の危機は訪れたことはある。それでも彼女は大賢者の一角として、神にも匹敵する能力と超人的な頭脳、そして長く生きた中での経験を以て乗り越えていったのだ。だが今回はそう個の力で解決できるような問題ではない。これはこの地に生きる者達の意識の問題なのだ。
(博麗大結界…元を辿れば妖怪の力を守る為に張ったものだというのに…。)
100年程前に、幻想郷最大の危機が訪れた。日本の近代化による神秘の否定だ。その時は「博麗大結界」を張ることで幻想郷への近代化の伝播を防いだ。しかしそれは幻想郷の停滞も意味していた。大多数の妖怪はいとも容易く停滞に精神を蝕まれ、腑抜けてしまった。妖怪は人間からの恐怖を糧としている。では人間が妖怪が腑抜けたことを悟り、妖怪を恐れなくなるとどうなるのか。想像するのは難しくない。かと言って近代化を受け入れるのも論外だ。
(何が、いけなかったのかしら。)
嘆こうとも現状は変わらず、幻想郷の妖怪は緩やかに落ちぶれていく。無論何も考えずにいた訳ではない。「幻想郷の全ての妖怪を巻き込むような大異変を仕込む」ことで凌げるかもしれない―――そんな意見が賢者同士での会合で挙がった。紫には幻想郷を守る為とは言えどもそこに住まう者が大きく傷つきかねないその計画に賛同し難かった。だとしてもそれ以上の案は出ず。そう決められた。
紫は何を考えるでもなくある場所へと足を運ぶ。そこは長らく手を加えられていない寂れた神社。「博麗神社」という名があり、かつては妖怪と人間の間でバランスを取り持つ「博麗の巫女」がいた。しかし今の幻想郷に「博麗の巫女」はいない。その素質を持つ者が現れなかったのだ。
(思えば、「博麗の巫女」がいればまた違う選択もできたかもしれないというのに。)
「…でも、無い物ねだりはできないわ。」
そう思わず呟いたところで、紫は違和感に気付く。
「…柄杓に水滴が…でも妖怪や里の人間が参拝に来る訳も無いし…。」
紫は歩みを進める。その先にいる存在に何か予感を感じながら。
歩みの先にいたのは一人の幼子。紫は自身の予感の正体を悟りそのまま話しかける。
「そこのあなた。ちょっといいかしら? 私のところに来ない…?」
これじゃただの不審者ね―――そう直後に気付いてしまったが。
幼子は戸惑いを見せる。しかしすぐに落ち着いて静かに尋ねる。
「おねえさんは…だれなの…?」
それもそうだと紫は思いつつ答える。
「私は八雲紫。スキマ妖怪でこの幻想郷の大賢者をしているのよ。 あなたの名前は?」
幼子は直前よりも戸惑っていた。「なまえ…」と度々呟いて。
(この子…自分の名前が無いのね。 こんなところに一人でいたからそうかもしれないとは思っていたけれど…。)
表情が暗くなっていく幼子を見て紫は口にする。
「じゃあ、私が名前をつけてあげる。」
優しく、微笑んで。
「あなたは今日から『霊夢』よ。」
名前を与えられた幼子は、身に染み込ませるように「れいむ…」と言葉にする。
「そう、あなたの幸せを願う名前。」
自然と、また笑顔になる。「霊夢」は少し照れくさそうにする。
「…ありがとう。 ゆかり、これから、よろしく。」
「ええ。よろしくね、霊夢。」
こうして2人は出会った…。
日本の近代化による神秘の否定…「妖怪は存在しない」と人間に思われてしまうと本当に妖怪は存在できなくなってしまう。近代化は科学至上主義の気質から、神秘の否定を招いた。
「幻想郷の全ての妖怪を巻き込むような大異変を仕込む」…どこぞの秘神が考えてそうです。効果は無くはないでしょう。
「博麗の巫女」…今は空白期間。
「霊夢」…神仏のお告げがある不思議な夢。霊夢の勘の良さは名前がもたらしているのかもしれない。
ここまで読んで下さり誠にありがとうございます。
…情けない話ですが次回以降この文章量を定期的に投稿するとか「無理」ですよ…⁉
テラーノベルへの投稿も久し振りなんですよ…。
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