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目を開けると暗闇の中、飛宗を手に持ちながら立っていた。
いや、目を開けるというには語弊がある。閉じた瞳は、きちんと閉じたままなのだから。それにもかかわらず、自分の身体を肌の色まで映している。
この異様な状況を何かの術と決め、現状を考える。そもそも梟を展開しながらも、少し休むために仮眠をしていたはずだ。だが、仮眠というには深まってしまったのだろう。久しぶりに飛宗の力を奮っているからか。それとも、俺も年をとったか。
理由はともあれ、何者かに夢を介した術をかけられていると仮定する。神奈備か。毘灼か。それとも、第三者か。だが、こちらには飛宗がある分、何か仕掛けてくる前に倒せばいい。幸い、ここでは視覚もあり、他の感覚も研ぎ澄まされたまま変わらない。今の所、何かを仕掛けてくる感覚もない。一先ずの安全を確認し、先程から遠くに感じる気配をたどりながら暗闇へと足を進めた。
暗闇を進むと、気配が二つあった。それもどちらも見知った気配。
「チッ」
舌打ちをしながら、足の歩みは速くなる。ふざけるなと、指切りをした男に怒りをぶつけたかった。二人だけであったのならば、何か情報が入ったのかと、まだ冷静に言えた。
だけど、これは違う。
どうして、
どうして千鉱がいるんだ!
足早に向かった暗闇には、紅い天蓋のベッドがあった。何もない漆黒の空間に煌びやかな紅が、いっそのこと不気味だ。その不気味さが、天蓋の向こうにいる人物と重なる。不気味な感覚。不気味な夢。不気味な組み合わせ。不気味がこれ程までに似合う男がいただろうか。
「どういうことだ…?先に斬られたいのか」
「六平千鉱が本当に死んだのか、確かめにな。」
「…」
「淵天は連れてくることが出来なかった。つまり一度、死んで命滅契約が斬れたみたいだな。だけど、蘇った。飛宗の術なのだろう?
きちんと蘇ったか不安かと思ってな。一応、見せてあげようかと。」
「…余計なお世話だ。千鉱から離れろ」
俺の術に不備はない。発動したこともわかっている。あの場所には柴もいた。千鉱が再び淵天を手に持つ以外、心配はしていない。この術がバレるのも時間の問題だっただろう。
ただ、千鉱を愛おしそうに、俺のモノだとでもいうように触れる、お前が気に食わない。まるで、離れる理由がわからないとでもいうような愉しそうな顔も。何もかも。
「離れないと言ったらどうする?」
「夢の中だろうが何だろうが、ここでお前を殺してもいいんだぞ」
そう言うと、奴は何か考えるようにその不気味な顔を動かす。
「…夢で死んだ魂は何処にいくんだろうな」
「…何が言いたい」
「いやなに、ただの疑問だ。
お前の言う通り、これは夢だ。この夢は、掘り出し物の術具によって出来ている。」
やはり、これは夢か。しかも、何かしらの術具。厄介な制約がなければいいが…。
「情報伝達方法が限られていた時代、夢で情報を共有する為に作られたみたいだ。術具の所有者が夢を通じて魂を繋げ、この空間に集める。ただ、それだけ。
前に俺達で試したことがある。そこは、安心するといい」
「……」
「だがな、この夢の中で死んだ場合、もしくは、襲撃によって肉体が死んだ場合、魂がどうなるかは書いてなかった。もちろん、使用者が死んだ場合もな」
「つまり、俺がお前を斬り殺したら、お前だけでなく俺達三人がどうなるかわかならいと?」
「ああ。他の集められた魂は還れるのか。それとも、彷徨い続けるのか。魂を失った肉体は変化あるのか。そもそも目覚めるのか。もし目覚めたとしても、自己はあるのか。試しに、ここで実験をしてみるか?」
「……しねえよ。その長ったらしい話も終いだ」
「そうか、残念だ。魂と肉体との関係性は、尚も未知の領域というのを締めの言葉としようか」
不気味な笑みを深めながら、ちっとも残念そうな口ぶりもせず、こちらをためすように言う。ここに来た時点で、こいつの掌上に運らされていた。斬りたきゃ斬ってみろ、六平千鉱がいるこの夢の世界でお前にできればな、と不気味な顔から伝わってくるようで、斬りたくなる。
だが、それこそ奴の思う壺だと、斬りたくなる感情を斬り捨てた。奴の言葉が嘘か本当かわからない今、不用意に斬るのは危険だ。斬るなら斬るで、元に戻って全て終えてからの方がいい。
今はともかく術の解除方法と奴から千鉱を離させたい。千鉱を連れてきた理由なんて、監視している俺への意図返しだ。そんなものの為に、千鉱の安寧が脅かされるわけにはいかない。既に血生臭くても、まだまだ取り戻せる未来があるのだか、ら。
突然、眩暈が酷くなる。何が起きているのかわからない。揺れる視界を何とか奴に合わせるので精一杯だ。
「どうやら、目覚めの時間だ」
目覚め。この最悪な夢から醒める時が来たのか。案外早く目覚められるようだ。だけど、千鉱はどうなるのか。ただそれだけが心配だ。
「今宵はここまで。何かあったら連絡するさ。約束だからな」
心配をよそに、揺れる視界で最後に見たのは、千鉱に口付けする男だった。
目覚めると、何も見えなかった。
そうこれが当たり前だ。あの夢がおかしかった。形も色も目で認識できる状態が。
だけど、千鉱を認識できたことは奇跡だった。他の感覚での情報でなく、視覚情報として。偽の眼であっても、眼で見たことには変わりないと思いたい。
未だ成長途中の肉体。綺麗な黒髪。自分を犠牲にして付いた傷。
そして、あの瞼の先には、どんな色があったのだろうか。六平と同じ色か。それとも…
だけど、もう傷つく必要はない。力を得る必要もない。
昔のままとはいかなくても、綺麗な君のままで…。
今の千鉱を否定しながら、手掛かりを探し続ける。