テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
20
あまね🍡💠
75
放課後。
椿小春は学校から帰ると、真っ先に庭へ向かった。
「ただいまー!」
「おかえり。」
庭で花の手入れをしていた祖母、琴葉が優しく微笑む。
その声を聞きつけたのか、一匹の犬が元気よく駆け寄ってきた。
「ハナ!」
「ワンッ!」
勢いよく飛びついてくるハナを抱きしめながら、小春は笑った。
『おかえりー!』
今日も元気いっぱいだ。
「散歩、行こうか。」
『行く行く!』
ハナは尻尾を大きく振った。
その様子を見て、琴葉も穏やかに笑う。
「相変わらず仲良しね。」
「うん!」
小春は嬉しそうに頷いた。
散歩から戻ると、夕日が庭を赤く染めていた。
小春はジョウロを持ち、花壇へ水をあげる。
その隣では琴葉が花の手入れをしていた。
「おばあちゃん。」
「なあに?」
「どうしてそんなに花が好きなの?」
琴葉は少し考えてから答えた。
「花はね。」
「言葉を持っているのよ。」
小春は首を傾げる。
「言葉?」
「ええ。」
琴葉は一輪の花にそっと触れた。
すると少し元気をなくしていた花が、まるで応えるように顔を上げる。
小春は驚かない。
祖母の能力を昔から知っているからだ。
植物と心を通わせる力。
それが琴葉の能力だった。
「花にはね、それぞれ意味があるの。」
琴葉はそう言いながら花壇を見渡した。
「勇気。」
「感謝。」
「思いやり。」
「そして希望。」
小春は興味深そうに聞いている。
「人と同じなんだね。」
琴葉は優しく頷いた。
「そうね。」
「だから私は花が好きなのかもしれないわ。」
しばらく沈黙が流れる。
風が吹き、花々が揺れた。
ハナは気持ちよさそうに寝転がっている。
小春はそんな時間が好きだった。
家族も大切だった。
けれど、幼い頃から一番長く一緒に過ごしてきたのは琴葉だった。
悲しい時。
悩んだ時。
いつも優しく話を聞いてくれた。
だから小春は、人にも動物にも優しくしたいと思うようになった。
「小春。」
琴葉が静かに呼ぶ。
「なに?」
琴葉は花壇の前でしゃがみ込み、一輪の花を摘んだ。
淡いピンク色のガーベラだった。
「この花をあげる。」
「きれい……。」
小春はそっと受け取る。
「この花はガーベラ。」
琴葉は優しく微笑んだ。
「花言葉は『希望』よ。」
「希望?」
「ええ。」
琴葉はゆっくり頷く。
「どんなにつらい時でも。」
「どんなに苦しい時でも。」
「前を向く力。」
「それが希望よ。」
小春は手の中のガーベラを見つめた。
夕日に照らされた花びらが、やさしく輝いて見える。
「覚えておく。」
小春はそう言って笑った。
琴葉も微笑む。
春の風が庭を吹き抜け、ガーベラが小さく揺れた。
まるで未来を応援するように。
小春は胸の前でガーベラを大切に抱いた。
第7話 小春の秘密 完
コメント
1件
いやもう、ガーベラのシーンで泣きそうになったわ…。花に言葉があるって話、すごく優しくて胸に響いた。何よりおばあちゃんの「希望」がガーベラの花言葉ってのが、これからの小春の支えになるんだろうなって思わせてくれて、めっちゃ温かい気持ちになった。日常の情景が丁寧で、じんわり染みるエピソードだった。