「っ……!爽牙、くん………っ」
彼が浜辺から去った後も、私は 爽牙くんから離れることが出来なかった。
確かに地球に帰ることは出来たし、いつもの日常は戻った―――。
だけど、爽牙くんと一生会えない―――。
会いたくても、会えない―――
こんなに辛いこと、無いよ―――、、
なんで、こんな辛い思いしなきゃいけないの――?
本来実ったはずの初恋。
両思いなのに実らない初恋だなんて、初めて聞いた―――
――私は、“実らない恋” を肌で感じた―――。
「静乃ちゃーん! こっちの書類、お願いできるかしら?」
「あっ、先輩!もちろんですっ!何なら、私がこっちもやっときますよー!」
「あら本当!?ありがたいわ〜〜!静乃ちゃん、いつも手助けしてくれて 本当に助かるわ!素晴らしい人ねっ!」
「そんなぁ、大袈裟ですよ〜。 先輩こそ、素晴らしい見本ですっ!!」
「静乃ちゃん、褒め方まで上手いのね〜!流石だわw」
「ありがとうございますw では、また後で!」
「は〜い!」
先輩からいつも頼りにされる私。
明るく振る舞っているだけだと思っていたけど、意外とみんなに頼ってもらっている。
私はそれに一番やりがいを感じていて、今の仕事に就いている。
―――そう、今ちょうど二十歳の私は、懸命に仕事をしていた。
あまり慣れない仕事だけど、先輩達の力も借りて、今ではこんな具合だ。
それには物凄く感謝していた。
だけど私には、未だ出来ていない事がある。
それは―――
「彼」に会うこと____。
―――こんなに表では明るく人に接しているけど、あの時の事は 何をしても忘れられない。
協力して運んだり、泳いだり――
今で考えると物凄い話だけど、思い直すと また涙が溢れ出してしまう。
考えないようにはしていた。 でも、そんな過去ほど 考えてしまうのが現実。
実際私はそれに追い込まれていて、後悔もしていた―――。
「愛してる」
この言葉は伝えられた。
はずなのに―――、どうしても後悔する。
私の初恋だったせいか、余計に___
私は今でも、爽牙くんの事を好きでいる。
あの頃の爽牙くんしか知らないけど、愛している気持ちは変わらない。
今の爽牙くんに、会いたい―――
会いたくて泣きそうになる。
それは、爽牙くんを好きな証拠だ。
だから、オフィス内でも 恋愛をした事は一回もない。
もう10年も経ったというのに―――。
でも彼は、私のことを覚えてくれているだろうか?
もしかすると 忘れて、見ても認識してくれないかも知れない。
もう見た目も変わり果てているし、それも当たり前か___。
「(はぁ………、会いたい、会いたいよ____っ。)」
「(松中っ、爽牙くんに合わせて下さいっ…!ミッションクリアしたんだから、良いでしょ?)」
私がそんな無理を考えていると、どこかからか懐かしい声が聞こえる気がした。
前に聞いた事のある、覚えやすい声―――、
どこで聞いたかは思い出せず、また現実に戻ることになってしまった。
そして仕事に取り付こうとして 廊下を素早く歩いていると、一人の男性とぶつかってしまった。
「あっ、ご、ごめんなさいっ!!大丈夫です____ !?」
「あっ…… !?」
私が見たのは―――
爽牙くん、に似た人だった。
「な、なんだ……」
「なんだって何ですか!?」
「あ、ごめんなさい!知人に似てる気がして…」
「あ…」
私がそんな言い訳をすると、彼は急に黙り込んでしまった。
しばらく沈黙が続き、彼はまた話し出した。
「あの――― 僕、爽牙って言うんです。」
「え!?爽牙くん――― あっ、またごめんなさい!知人の名前を同じで―――」
「嘘―― あなたの名前は?」
「静乃です。」
「しっ、静乃―― ミッションクリア…… しました?」
「い、異世界ですか!?」
「紫の貝殻―――」
彼はそう言って、紫色の貝殻を取り出した。
間違いない、見たことのある貝殻だ。
「もしかして―――」
「そそ、そんな馬鹿な―――」
「有り得ない―――」
「でも、爽牙くんだよね…!?」
「そう、だけど…」
すると、急に私の頭の中に あの時の記憶が蘇った。
そう言えばあの時、「一生忘れない」って言われた―――
爽牙くん、ちゃんと覚えてくれてたんだ―――!
「嬉しい、よぉっ……!!!」
「静乃、泣かないで… 僕も泣きそうになる…っ」
そうして私達は、当時とは違う、嬉し涙を流した。
よく見ると、爽牙くんの 当時の面影が残っている気がする。
「静乃。」
「な、に?」
「まだ、愛してるから。愛は、何年経っても褪せない。」
「わ、私だってそうだよ!愛してるもんっ!」
「ふっ、まだ10才の回答だw」
「爽牙くんだってー!」
私達は、こうして思わぬきっかけで再会を果たした。
こんな展開が訪れたのは、あの「松中」が ついに私達の味方になってくれたからかも知れない―――。
と、私は一人で感じていた。
―――もし松中なら……
『最後のミッション:再会する。』
なんて、言っていたのかな。
私はそんな想像をして、ふっと自然な笑いが零れた。
―――青い浜辺の“秘密”―――
―――FIN―――