テラーノベル
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というわけで大学に行って単位稼ぎして、TENGAに出社して、今日の仕事をこなした。今日は先生に取り返した婚姻届けを見せて、なんとかもう一度夫婦の形を取り戻したい。契約は無効だと言われないようにしたいところだ。
崖から飛び降りる覚悟で先生に伝えよう。
僕がTENGAでマルヨーの株を大量保有した――とはいえ、5%ルール(上場企業の発行済み株式総数の5%超を保有する株主(=大量保有者)は、保有開始日から5営業日以内に内閣総理大臣に「大量保有報告書」を提出しなくてはならない制度のこと)には該当しないので、単純に沢山の株式を一括購入しただけだが、僕のせいで潮目が完全に上昇トレンドに入ってしまったので、マルヨーの株はジリジリ上がっている。
嬉しいことだが、結局お父さんが持っているマルヨーの株が元に戻ったら、僕が持ち掛けた契約結婚の話なんてなかったことになる。
卑怯な手なんか、使うべきじゃなかったんだ。
もっと最初から正攻法で、気持ちを伝えておけばよかった。
先生は僕のこと、どう思っているんだろう。やっぱり家族…弟みたいな存在でしかないのかな。
でも、でも!
キスまでした仲だし!
添い寝までやったし!
水島よりはいろいろやっていると思う!
彼に、負けるわけにはいかない。
「先生、おかえり。お仕事お疲れ様!」
今日はご飯の用意はしなくていいから、早く帰ってきて、とメッセージを入れておいたから、寄り道はせずにまっすぐ帰ってきてくれた。それでも時刻は夜の20時すぎ。最近SNS効果のおかげで折り紙が繁盛している。スーパーに卸すお弁当も作っているから、余計に大変だ。朝は仕込みがあるから早くでかけていくし、19時の閉店までめいっぱい働いている。かつての賑わいを取り戻しているのだ。
「お風呂も沸いているし、ご飯も作ってあるから」
今日は僕が頑張って用意した。今日のメニューは和食。先生の横でずっと見ていた玉子焼きも作る。ご飯と味噌汁は用意してあるし、あとは先生と話してから魚と玉子を焼くだけ。
「睦月君、ありがとう」
先生は穏やかな顔をしている。怒っていないのかな?
「ご飯の前に少しだけ話してもいい?」
「私も、ちゃんと睦月君と話したい」
了承を得たのでリビングで向き合った。
「先生、婚姻届の件、ほんとうにごめんなさい。翠子から取り返してきた」
テーブルの上に婚姻届を広げて出した。先生はじっとそれを見つめている。
証人欄には潤の名前と先生のお父さんの名前が書いてある。
間違いなくあの日、先生と再会した日に作成したものだ。
「これを見せられて、ニセモノ妻って翠子さんに言われたわ」
ぽつりと先生が言った。「なんのことかわからなくて、私は睦月君と結婚したものだとばかり思っていたから、急に…どうしていいのかわからなくなったの。また、からかわれたのかなって」
「そんなこと……!」
「わかってる。睦月君が私を騙すような人じゃないことも、騙したところであなたになんのメリットもないことも。だから…事情はともかく、睦月君とちゃんと話をしようと思ったの。あと、折り紙を取り返すのにすごく大金を使ってくれたっていう話も翠子さんから聞いたわ」
「えっ……」
「小平さんって例の悪徳トレーダー、翠子さんの手先だったのね」
「そんなことまで彼女、喋ったんだ」
僕が買い物に行っている短い間に…翠子はほんと恐ろしい女性だ。
「いろいろ聞いた」
「……そっか。隠していてごめん。言うと、先生がまた負担に感じると思ったから……」
「お金は…とても私じゃ返せる額じゃないことも聞いた。一生働いても返せないわ」
億単位のお金を動かしたのだから、先生がそう言うのも無理はない。
「でも……それでも、折り紙を取り返してくれてありがとう」
心からの感謝の言葉だった。いろんな事情を知った上で、先生はそう言ってくれたんだ。それだけで僕のしたことが正当化されたような気がした。
「お金を返して欲しいなんて思っていない。僕は、折り紙に投資をしたんだ。もちろん、高梨親子に幼少期受けた恩は計り知れない。僕が今、こうやって生きていられるのは、ふたりのおかげなんだよ。だから、恩返しをしたかった。ただ、それだけだよ」
「ありがとう。そのことを引け目に感じたけれど、もうやめるね。私は困っていた睦月君を助けて、睦月君は困っていた私を助けてくれた、だから、おあいこ」
にこっと先生が笑ってくれた。
ああ…ほんとうに心が綺麗で素敵なひとだな。
おあいこあんて、とんでもない話だ。僕が先生たちに受けた恩は、折り紙を取り返すのに使ったお金以上の価値がある。
「それで……睦月君。結婚の話だけど……」
婚姻届けを前に、結婚話に言及がいった。
「睦月君の正直な気持ちを聞かせて欲しい」
僕の正直な気持ちは、ただひとつ。
その気持ちを伝えるチャンスは、今しかない。
重いかもしれない。くどいかもしれない。
うまく言えないかもしれない。ぜんぜんダメかもしれない。
それでも、素直な気持ちを伝えたい!
あなたを幼いころから、好きだと言う気持ちだけ――
k
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#復讐
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コメント
1件
読了したよ!第53話、お疲れ様。先生との関係がここでようやく清算のフェーズに入って、心がほっとした。翠子が全部ぶちまけてるのが怖いけど、結果として先生と正面から話せて良かった。最後の「あなたを幼いころから好きだと言う気持ちだけ——」で切れてるのがもどかしい!この先どうなるの、気になるよ。さぶれさんの丁寧な心情描写が相変わらずえぐいわ。特に「おあいこ」の先生の台詞、あれで全部報われる感じがしてグッときた。続き待ってる🔥