この作品はいかがでしたか?
72
この作品はいかがでしたか?
72
「あっ彰人じゃーん!!おはよー!」
背後から聞こえた声に俺_東雲彰人は振り返った。
「杏か」
今日はいつもの公園で練習の日。
俺と杏は集合時間前に公園で練習している事が多かった。
「また朝練?真面目だよねー。勉強はできない癖にさ〜」
「お前も朝練に来てんのは一緒だろ。ていうか
お前も勉強に関しては人のこと言えねぇだろ」
今日も普段通り、練習が始まると思っていた。
この時までは___。
「そういえばこはねは一緒じゃねえのか」
「うん、用事で遅れるってさ〜」
「じゃあ先に各パートの確認でもするか」
そういつも通りの会話をしながら公園に向かうため階段をのぼる。
「あ、そういえばさ、この曲めっちゃ良かったんだよね〜!!ちょっと聴いてよ、これこれ!!」
杏がスマホを取り出し、曲を流す。
「確かに曲の感じはいいな」
あ、こはねからLINEだ!と杏が再びスマホに視線を落とす。
「おい、歩きスマホすんな。階段だぞ」
「え?彰人がそんなこと言うなんてね〜笑
あんただって音楽聴きながら歩いてんだから
一緒じゃないのー?」
「お前と一緒にすんな」
いつも通りそう返事をするつもりだった。
「杏ッ!!危ねぇ!!」
𓂃◌𓈒𓐍
いつも通り階段を登るはずだった。
日常がこんなにあっけなく崩れるなんて、誰も考えなどしていなかったのだ__。
もちろん、俺も。
こはねとのLINEに夢中になりながら階段を登っている杏にガタイのいい男がぶつかった時、俺の体は咄嗟に動き始めていた。
「杏ッ!!危ねぇ!!」
何が起こっているのか分からず、ただ後ろに傾いていく自身の身体に驚いている杏。
俺は杏の後ろに回り込み、抱きかかえるように杏を精一杯守った___。
「ッてぇな…」
24段もの階段から落ちたのだ。
背中と後頭部にジンジンとした痛みがはしる。
「彰人!!ごめん、大丈…ぇ、彰、人…?」
杏の目に涙が溜まっていく。
「んで、お前、泣いてんだよ…」
最初は杏が泣いている理由が全く分からなかった。
だがこの後すぐに、俺は理由を知ってしまった。
「ハンカチ…!!」
杏にハンカチで後頭部を強く抑えられたから。
俺、血だしてんのか。
杏のハンカチをちらりと見ると、鮮やかな赤に染まっていた。
「っ救急車…!!」
杏が携帯を取り出し電話をかけようとする。
が___。
そのスマホは次の瞬間地面に落ちた。
「彰人!何してんの…!!」
俺が杏の手からスマホを奪ったから。
「救急車は、やめろ…」
どうしても救急車を呼ばれたくなかった俺は杏の手からスマホを振り落とすしかなかったのだ。
「ねぇ!!これだけ、血出てんだから!!」
杏の涙が俺の服に落ちる。
杏がもう一度スマホを拾った、だから俺は。
「あ、彰人!!」
その場からダッシュで逃げ出したのだった。
𓂃◌𓈒𓐍
つい逃げてしまった。
途中まで杏は追ってきていたが、元々サッカーをやっていた俺のスピードには着いて来れなくなったらしい。
もう後ろに杏の姿はなかった。
「やべッ…いってぇな…頭」
怪我をしている上猛ダッシュしたのだ。
何も起こらないわけが無い。それは走る前から俺だって分かっていた。
でも、何より___。
救急車を呼ばれるのが嫌だった。
周りに迷惑がかかるから、冬弥やこはねには余計な心配をかけたくない。
絵名にも、司センパイにも、神代センパイにも。
「あ゛っ…ぃッてぇ…ぁっ…」
頭を殴られたような痛み。
それに耐えきれず俺はその場にしゃがみこんでしまったのだった___。
"あいつ"に会うなんて知らなかったから。
𓂃◌𓈒𓐍
「はぁ〜今日もいっぱい服買ったね!」
「瑞希は買いすぎでしょ?」
「そういうえななんだって買ってたくせに〜」
瑞希とショッピングモールから帰っていた時。
「あっえななん!あれって…」
瑞希が指した場所を見ると見慣れたオレンジ色の頭。
彰人じゃん…
「ホントだ、あいつ道端にしゃがんで何してるわけ?ダンゴムシでも見てんの?」
今の私にはそういう発想しかなかった。
「ボク弟くんと喋ってこよ〜っと!」
瑞希が彰人の方に走っていく。
「私は帰るからね」
そう瑞希に背を向けて歩き出した時。
「え、えななん!!弟くんが…!!」
瑞希の普段聞かないような慌てた声。
ただ事じゃない、そう感じ振り返った__。
「弟くん、怪我して…」
瑞希の一言に背中が凍りついた。
それでも信じなかった。信じたくなかった。
「え、?嘘だよ、ね?怪我って、切り傷とかそのくらいだよね?ねぇ、瑞希…?」
瑞希は何も答えてくれなかった。
私は慌てて彰人の傍に駆け寄り顔を覗く。
「彰人…あんた、どこ怪我して…」
彰人の姿を見て声が出なくなった。
血だらけになった顔。虚ろな目。
「あ…彰、人。ど、したの…」
あまりの彰人の姿に頭が真っ白になった。
「えななん、救急車!!」
瑞希がそう言った直後。
私のポケットが震えた。
電話…?
発信先は___。
𓂃◌𓈒𓐍
「もしもし…」
「もしもし!!絵名さん…!」
声の主は。
「し、白石さん!?ど、どうしたの…?」
「あき、彰人が…!!怪我、して…
救急車っ呼ぼうとしたら、逃げ、ちゃ…ぅ」
「白石さん、落ち着いて?彰人、今私の
隣に居るから。安心してね?」
「え…?絵名、さんと…?なんで…?」
それはね___。
「そうなんですね、ごめんなさい…
私、私が前を見てたら彰人はこんな…!!」
「大丈夫だよ、もう救急車をも着くし
今日はゆっくり休みなね、仲間の子にもお願いね」
「っはい…!!」
彰人は救急車で運ばれて行った。
だけど、あんな事になるなんて___。
コメント
1件