コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「チョコ、ありがと……」
(雅輝からチョコを貰えるなんて思ってなかったから、衝撃が半端ない)
「陽さんのことだから、チョコをたくさん貰ってると思って心配してたんです」
「杞憂に終わってよかったな」
手渡されたチョコについている小さなバラに意味なく触れて、橋本なりに照れくささを隠した。
「あのね陽さん、そのぅ」
歯切れの悪い宮本の言葉に、橋本が渋々顔を上げると、背中を丸めて大きな躰を小さくしながら、落ち着きなく両手を動かしていた。
「なんだ?」
いつも以上に妙な恋人の姿を目の当たりにして、橋本は首を傾げて訊ねた。
「えっとですね……ぉ、俺の告白に答えていただきたいと思いまして」
「答えるって、口頭で答えればいいのか? それとも――」
あえて語尾を濁した橋本。見つめている先にある顔は、ここぞとばかりに真っ赤に染まる。不器用な宮本なりの誘い文句に意地悪なセリフで返した、橋本の作戦勝ちだった。
「……両方返してほしいです」
蚊の鳴くような小さな呟きに、橋本は大爆笑する。
「両方って、言葉と何だよ? きちんと言わなきゃ返せねぇぞ」
ゲラゲラ笑い倒す橋本とは対照的に、宮本は耳まで真っ赤になり、泣き出しそうな表情になった。
「雅輝、俺が欲しいんだろ? 遠慮せずに言えって」
「陽さん……」
「たまには、奪われてみた――」
最後まで言えなかったのは、宮本が無言のまま橋本を抱きすくめ、唇を奪ったから。手にしていたチョコは床に転がり、あっと思ったときにはソファの上に押し倒されていた。激しくなるくちづけに、橋本の呼吸がままならない。
「んぅっ、ふ……んっ」
絡んでくる宮本の舌に感じて、下半身が熱を持つ。それを知られないようにすべく腰を引いたら、上から躰を押さえつけるようにしっかりと跨ってきた。
「逃げないで、陽さん」
気遣う言葉とは裏腹に、宮本の片手が自身に触れる。室内着の薄い麻のズボンの上から触れられて、宮本のてのひらの体温をじわりと感じた。いつもより高いそれと、快感を与えるように淫靡に動く所作に、橋本の思考が簡単に停止する。
「ま、さきっ」
「俺は奪う抱き方よりも、こうやってじっくりと触っていく内に、陽さんがエッチになっていく姿を眺めていたいんだけどな」
自分の顔を覗き込むように見つめる恋人のまなざしで、頬が赤らんだのがわかった。
「そんな、目で……じっと見るなって。恥ずかしぃ」
橋本は片手で宮本の頬をパンチして、直視される視線をなんとか逸らした。
「そんなこと言ってるけど、この手の動きをやめて欲しくはないでしょ?」
「それは――」
「気持ちいいって、顔に書いてある」
顔を思いっきり逸らされたままなのに、その横顔はとても嬉しそうなものに見えた。
「雅輝ってば、その状態じゃ俺の顔が見えないだろ」
「ふふっ、声だけでわかるんだって」
「そりゃあ大好きな恋人に触れられてるんだから、当然じゃねぇの……」
「俺だけが触ることを許されてるのって、特別なんだなぁと感じるよ」
ふんわりと心を優しく包み込むような宮本の言葉に、橋本は両手を使って、目の前の頭をぎゅっと抱きしめた。
「特別に決まってるだろ。だからこそチョコを渡した女たちに、改めてすげぇ嫉妬してる」
「そんなこと、する必要はないのに。来年も俺は陽さんにチョコをプレゼントするから、機嫌直して」
宥める感じで橋本の胸にすりりと頬擦りする宮本に、敵わないと思わされた。さっきから宮本が告げる言葉のひとつひとつに、自分の心が簡単に浮足立ってしまう。
「来年だけじゃなく、再来年もこの先ずっと――」
「わかってる。俺は陽さんを愛し続ける限り、ずっと贈り続けるよ」
その約束をかわすくちづけが、橋本の唇に落とされた。宮本の想いが深くくちづけられることで感じられたのだった。
おしまい