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日曜の早朝だというのに、リビングから物音が聞こえたせいで、橋本は目を開けた。いつもは自分よりも寝坊をしているはずの宮本が、ベッドの中にいなかった。物音の原因が恋人だったことにほっとしながら、布団から抜け出す。
「雅輝、おはよ。珍しく早いのな」
「おはようございます陽さん。起こしちゃいました?」
「まぁな。朝飯作ってくれたのか」
テーブルにならべられている朝食に、視線を飛ばす。ご飯に味噌汁、玉子焼きとサラダというメニューなれど、普段は料理を作らない宮本にしては、朝から頑張ったのが明白だった。
「いつもは陽さんが作ってくれるので、たまにはしてあげなきゃと思いまして」
「毎日仕事で遅く帰ってきてるのに、日曜くらい無理しなくていいんだぞ」
そう言いながら、宮本の隣に座り込んだ。
「ねぇ陽さん」
「ん?」
「今朝のテレビで占いやってたんですけど、早速ラッキーなことが起きて嬉しいっす」
「ラッキーなこと?」
胡坐をかいて座った橋本の肩に、宮本が肩をくっつけて並ぶ。離れていた時間を埋めるその行為に、橋本の口角が自然とあがった。
(雅輝の頑張りを褒めてやらないといけないよな――)
冷めないうちに手をつけるべく、湯気をたてている味噌汁に口をつけた。
「よくぞ聞いてくれました。今日1日ノーパンで過ごすのがラッキーだって、占いで言ってたんです」
( ゚∀゚)・∵ブハッ!!
宮本のセリフに、橋本は飲みかけていた味噌汁を吹き出してしまった。
「陽さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫なのかと心配しなきゃなんねぇのは、おまえの頭の中だ!」
橋本が吹きこぼした味噌汁を、宮本がふきんを使って、手際よく綺麗にする。
「あ、済まない。あまりに衝撃的な発言に、なにも手がつかなくなった」
「そうですか?」
「ちなみに、現在進行形でノーパンなのかよ」
「はい。朝からこうして陽さんのお世話ができて、俺は幸せです」
ノーパンと聞いたのにもかかわらず、橋本は宮本が身につけている室内着の短パンのゴムを引っ張って、トランクスを履いていないことを確認した。
「陽さんのエッチ」
宮本は短パンのゴムを引っ張る橋本の手を叩いて、ぽっと頬を染めた。
「ご飯食べ終わったらさ、その……」
赤ら顔の宮本に、橋本が視線を逸らしながら話しかける。
「なんですか?」
食事中にする会話じゃないことはわかっていたが、誘わずにはいられなかった。昨夜の熱が再燃したと言ってもいい。
「どうせおまえノーパンなんだし、イイコトするにはもってこいじゃねぇかなぁと」
「陽さんってば俺のを直に見て、欲しくなっちゃったんでしょ」
宮本はご飯の入った茶碗を手にし、モグモグ食べはじめる。
「雅輝がしたくないっていうのなら、別にしなくても平気だけどな」
全然平気じゃないのに強がってしまうのは、橋本の悪い癖だった。今まで誘って断られたことはなかったが、断られたときのショックを考えて、自己の防衛を図るとともに、宮本の躰のことを心配したゆえの発言をした。
そんな橋本の気持ちを知ってるのか、宮本は卵焼きに箸を伸ばして一気に頬張りながら、隣にある肩に大きくぶつかった。
「あっ、いきなりぶつかってくるなよ」
サラダのレタスを食べかけていた橋本が、宮本がぶつかったよりも大きく体当たりする。そんな衝撃を受けても、宮本は平然と卵焼きを咀嚼した。
宮本にやられたから倍にしてやり返したというのに、リアクションがまったく返ってこないことを不満に思いつつ、仕方なく食事を続ける。
「陽さんのそういうとこ、本当にかわいいですよね」
「あ゛あ゛? 俺のどこがかわいいって?」
しばらく沈黙ののちに告げられた言葉をきっかけにして、橋本がここぞとばかりに喚いた。
年上の自分をかわいい呼ばわりする恋人に、横目で睨みを利かせる。さっさと食事を終えた宮本はお茶を美味しそうにすすりながら、嬉しそうに頬を緩ませた。
余裕のあるその態度に、橋本は焦りを覚える。なにを考えているのかわからない上に、自分が考えていることの斜め上の言動を宮本がするせいで、身構えずにはいられなかった。
「ごちそうさまでした。先にベッドで待ってます」
食べ終えた食器を持ってすっと立ち上がり、キッチンに向かった宮本の後ろ姿をなんの気なしに見送る。
「陽さん、早く食べないと、リビングではじめちゃうかもですよ」
「へっ?」
食器を洗いながら、いきなりぶちかましてきた宮本の言葉に、慌ててご飯をかきこんだ橋本。予想通りに誘いに乗ってきただけじゃなく、急かされるとは思いもしなかった。頬だけじゃなく、躰までほんのり熱くなる。
うらないのお蔭で、一日イチャイチャできたふたりの日曜日でした。
おしまい