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「兄さん!」
気が付けば俺は叫んでいた。今まで叫んだ事なんて無いのに。
「どうした?」
目の前にいた兄さんは、至って冷静に、穏やかに笑っていた。今思えば、その笑顔は俺が今まで見てきた兄さんの笑顔とは何処か違った。
その時の俺は、兄さんの笑顔の違いが分からなかった。
「無事か?!」
少し遅れて兄貴も兄さんの部屋に入ってきた。兄貴も相当慌てて来たらしい。息切れしている。
「良かった」
俺は安心したからか、その場にへたり込んでしまった。
「2人とも大袈裟だな。ほら、炎露手を掴め」
兄さんはそんな俺に手を差し伸べてくれた。
でも、いつもの優しい笑顔ではなかった。何処か寂しそうで、悲しそうな、そんな笑顔。
俺はいつもと違う兄さんに戸惑いながらも、兄さんの温かい手を取った。
その瞬間だった。
俺の指先が冷えて、手から冷気が漏れ出ているようで、肺も凍るように冷たくて、苦しかった。
そんな事よりも兄さんはっ!
そんな声も俺の口から出る事はなく、目の前の光景に俺は、唖然とするしか無かった。