羽田さんが「おおおお出雲君」とやってきて、握手をした。社長就任おめでとうございますというと、羽田さんは「そんなことより、昨日はディストーションも使わずに、どうやって後半のサスティンを出したんだ? 大げさなビブラートも使ってなかったようだし」という。自分でもよくわからないんですと、俺はありのままに答えた。ああそうそう。あえていうと、神様が、思うように動かなかった指を、途中から動かしてくれた気もします、と付け加えた。
「私は最近ベースも弾いてないし、ましてやギターのことはよく分からないんですけど」弘子が言った「自分の魂を貫き通したことが、あの音の伸びになったんだと思います。それって、できるようでいて、なかなかできないことですよ」
社員が大勢現れた。その端に卓がいた。控え目にしているつもりでも、大きなハードケースを抱えていればすぐ目に付く。
「スーツ姿、似合わないな」と俺は言った。
「そっちこそ。タオル姿、似合わないぞ」と卓は言った。
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