テラーノベル
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壮烈極まる上陸作戦から、3日。私達は無事に海岸を占領、橋頭堡を確保して、大兵力は次々と上陸し、島の周囲には海軍艦艇が展開した。全く作戦通りで、今の所、順調に事は進んでいた。
その日、私達は大隊長たるマリー・ヤルタ少佐の指揮の下、「マリー支隊」、通称「バランガ支隊」と名付けられた部隊の指揮下に入った。編成は、六個中隊から成る。その内の第一小隊の隷下、第三分隊が、私達の分隊だった。
そして、バランガ支隊は攻撃を専売にして、一路、海岸から程近い「メル川」という川を突破すべく前進していた。
「ミリア」
「ん〜?」
歩いていると、メイアが横にヒョイと出て来て話しかけて来る。
「上陸したばかりなのに、なあんでまた攻撃なんですかあ…」
「知らないよう、お上がそう言ってんだから、しょーがないでしょぅ」
「でも…私たちが一番の功労部隊だったんですから、休みくらいくれたっていいと思いません?」
頬を膨れさせて、心底不満そうな顔だ。
「そりゃあそうだけどよ…」
「小隊ー、止まれ」
前方から号令がかかり、部隊は停止する。
「メル川の手前200m地点だ。各分隊ごと、背嚢を残置して戦闘準備をして、現在地に再集合。分かれ。」
私達は敬礼をした後、そばの茂みの脇に背嚢を整頓して置いた。続けて小銃に弾を込め、軍帽の顎紐を締める。
「小隊長殿」
声に顔を向けると、私達の分隊長が小隊長に問いかけていた。
「我々には工兵や砲兵の支援は無いのですか」
小隊長は、眉をひそめて、やや不満そうに答える。
「無い。あいつらは上陸と、墓掘りで忙しいんだと。」
「はあ、そういう事ですか… ですが、攻撃開始はもう直ぐでは」
「そうだ」
分隊長がギョッとして、一拍、言葉を飲んで、
「…はい」
と、答える。私達には、その飲み込んだ言葉が、一語一句手に取るように分かった。それは小隊長も同じだろうが、軍隊は命令には従わねばならない。
私達は音を立てないように、慎重に川岸へと展開した。
そこから見る川は、綺麗な水をしていた。川幅がだいたい20メートルほどで、深い部分と浅い部分が点々と分かれている。
対岸には、鬱蒼としたジャングルのような密林が広がっていた。一見すると、敵の姿は見えない、が、何処かに必ず潜んでいるのは、明らかだった。この時、私達の支隊は敵戦力を約一個または二個中隊と見積もっていた。
が、戦後の証言や資料によれば、この時、この川には四個中隊が守備についていたという。もちろん、この時の私たちはこれを知る由もない。
「よし、お前達、いよいよ渡河だ。やるぞ」
私達の小隊は、敵前渡河の先陣を切ることになった。そして私達の後ろから、一個中隊と重機関銃中隊が援護する。つまり、私達は敵味方の銃砲火の板挟みで、ど真ん中を突っ切っていかなければいけない。私は普段、神を信じたことはあまりなかった。が、この時ばかりは天を仰いだ。
私達は静かに、かつ秩序だって、各々配置につく。槓桿を握り、薬室を開く手が、心なしか震えていた。私は目を閉じて深く深呼吸をする。ここに至っては、アル達の支援砲撃は見込めない。私達の真髄が試される、一大戦闘だ。
ガチャっと弾を込め、銃剣を装着する。周りからもカチャカチャと操作音が響く。小隊長の腰から、スラッという鋭い音と共に、よく磨かれて半ば透明にも見えるようなサーベルが抜き放たれる。
その場の全員、目線を川の向こう、密林に向けていた。
「第一小隊-っ、前へーっ!進めッ!」
声と共に小隊長はサーベルを前に振り下ろし、稜線を飛び出して、川の浅い線目指して全員一挙に突っ走り始める。他の中隊も一斉に渡河を始め、密林の静寂は忽ち、軍靴が水地を踏みしめる音に破られた。川は冷たく、思っていたよりも川底は泥になっており、その川は忽ち泥に染まり出した。
その時、対岸の密林が、一斉に硝煙を放ち出した。タタタタッ、と敵の甲高い機関銃の音と、小銃の乾いた音が密林を覆い、背後の味方が続けざまに応射を始め、数秒の内に壮烈な銃撃戦が展開された。板挟みになった私達は、次々と兵士が薙ぎ倒され、茶色に染まった水面に突っ伏す。私は流木の陰に転がり込んだが、すぐ後にその木に機関銃弾が数発命中して、バチンバチンと爆音が耳を突いた。負けじと敵の方を睨んだが、そばから射撃を受けるので、とてもじゃないが頭を出せない。エルはすぐ後ろの流木に掴まっていた。その前では兵士が深い所に足を滑らせて、転倒したまま足を引っ掛けたらしく、しばらくもがいて溺死した。メイアがエルの後ろで、目に涙を浮かべながらうずくまっている。夜戦とは訳が違って、敵の発砲炎は殆ど見えない。草が揺られるくらいしか見えないので、辛うじて、私達の攻撃正面に、川にややせり出した岸に1か所、その数m右の少し奥まった所に1か所、反対側も似たような地形に1か所しか見えなかった。正確な敵の位置も、規模も、ここからは分からなかった。
「ダメだーッ!ここからじゃ見えない!」
「私からも見えないよ!」
私達は、まさに袋のネズミだ。どうにかしろと言っても、袋に入ったネズミを、上から撃ちまくるような物。誰も助からない。このままでは、私達はこの泥の中で殺される。
私達よりも数m先に小隊長と兵隊が一人、岩に釘付けになっていた。するとその時、小隊長は後退を決意し、隣の兵隊は「小隊長殿、自分がやります!」と勇んで、小隊長はこちらに向かって駆け出した。すぐにその兵隊は敵の方へ向け、右に左に撃ちまくる。小隊長がこちらへ駆けながら、
「下がれ!下がれ!」
と叫んでいて、エルは私に向かって
「下がろう!もーだめだよ!」
と叫んできた。
「お前は下がれ!俺が撃つ!早く!」
と言うと、少したじろいだが、すぐさま後ろに駆け出した。
私は前に向き直り、照準の先に敵と思われる茂みや木々を捉えて撃ちまくった。
パーン、パーンと銃声が血と泥に、赤茶に染まった川をこだまする。しかしそれを覆い隠すように敵の機関銃がこちらへ撃ってくる。
弾が無くなって装填を始めた時、味方の機関銃が敵の方へ横一文字に掃射を始めたのが見えた。それを見て私は前に残っていた兵士に「おい!おーい!」と叫ぶと、そいつも気が付いて私の方を見た。
「制圧射撃に乗じて逃げよう!走って来い!俺が撃っとくから!」
「分かった!頼んだよ!」
そういってそいつが銃を抱えて走り出す。
その時、ヒュッという一瞬の飛翔音と共にそいつの足元が爆発して、土と水が混じった煙が天高く舞い上がった。私は頭を抑えてうずくまる。バラバラと破片が降ってきたあと、その方を見ると、そいつはその場に倒れていて、私は駆け寄って襟首を引っ掴んで後ろに引き摺る。引き摺っていると「うう、ウウッ」と呻くので、まだ息はある。味方の陣地から衛生兵と他数人が出てくる。私は息も絶え絶えに、耳の先まで真っ赤にしてなんとか辿り着いて、負傷者を収容した。
すると銃撃戦は落ち着き、再び川は静寂に包まれた。川には夥しい数の死体があり、流木にまとわりついている。
川は血と泥が混じり合い、オレンジ色になっていた。私達はその光景を見ながら、再攻撃の作戦を練る。
「…全く駄目です。敵の陣地は予想以上に高度に構築されてます。私達は全く、…袋のネズミって事です。」
険しい顔をして、小隊長や中隊長、マリー大隊長が集まって地図を拡げている。
「敵陣地は、火点は特定出来てるんですか?」
「は。辛うじてではありますが、ここと…ここ、あとここの3か所は、確実です。加えて、不明瞭ながら、こことここの2か所にも、機関銃掩体があると推定します」
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くろぬか
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私達の小隊長は、最も敵陣地に近づいていたため、この会議の主導権を握っていた。大隊長含め、他の士官も興味津々に話を聞く。
「ですが、先程砲撃をかけてきた敵の迫陣地は、まだ分かりません。」
先程の爆発は、敵の迫撃砲による砲撃だった。その時にやられた兵隊は、回復魔法で…それも雀の涙程度だが、何とか止血して、後送の準備をしている。
会議を見つめる私の肩に、エルは小さな頭を乗っけてぼんやり会議を見ていた。
「…ねーミリア〜」
「ん?」
「…あれ、突破出来るの?」
「…そんなの、知るかい。それを考えるのが将校の仕事なんだから、今考えてんでしょ」
「…ねえ」
「んー?」
エルは、私の顎を掴んで見つめ合うように私の頭を動かしてきた。
「…私の骨。 頼むよ。」
私はこの時、衝撃などは受けなかった。ただ冷静に、索漠とした虚無に包まれたという感覚だった。
「…いいよ。任しとけ。帰してやるからなぁ。」
そう言ってエルの頭を撫でてやると、エルはネコみたいに肩の上で頭を動かす。
内心、「こんな奴でも、死んだ後の事考えるんだな」と思った。
脳内に、先程の激戦が甦ってくる。
板挟みの中の混乱、混沌。斃れる兵士に、溺れる兵士。敵の陣地は、死角がない。高度に火点が相互に連携した陣地だった。
突破口になるとしたら――。
…なんだ。あったじゃないか。そうだ、そうだよ。
私は会議中の将校達を見た。チャンスは、今だ。
コメント
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第9話読みました。敵前渡河の描写がとにかく生々しくて、泥と血で染まる川の景色が目に浮かびました…。板挟みの絶望感と、エルの「骨、頼むよ」にグッときました。最後の「突破口、あった」でゾクッとしましたよ。次どう動くのか気になりすぎます!