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#とある日私は最弱から最強に_?¿
月神零華@生きてます
第六話 協調性を御存知か
あれから結構な勢いで走り、2棟裏の廃墟がある場所に着けば何故か幹部と親衛部隊と精鋭部隊の隊長・副隊長が揃っていた。
金月とキースはそこにある古錆びた東屋で優雅に茶を嗜んでいる。風情もクソもないというのに。
鏡月はこちら側にある外壁にもたれ掛かり、こちらを睨め付け、朱鷺はそこら辺の草むらで蟻のようなものをぷつぷつ潰していて目もくれない。
雹凛と副隊長2名と和泉さんは普通に立ってこちらを見ていた。
「約束は19時だったはずだけど」
鏡月がまるで潰れた蛆を見たように冷たい眼差しでこちらを見据えながら口を開く。
おそらく、幹部のみの訓練のこと、だろう。
もしそれなら21時の約束だったはずだ。会議できちんと決めたのを覚えている。書類にも書いてあった。
「いやいや夜の21時だったでしょうが」
「は?」
話は通じないらしい。
「……ッス、さーせんした」
何もかも答えるのが面倒になって適当にこの回答を選んだ私が間違いだった。
──それはもう、唐突に。視界が白く弾けて反転する。
「あら」なんて完全に他人事扱いの金色の声が遠くから微かに聞こえたのも束の間。
うしろの壁に強く打ち付けられ、全身に稲妻のような衝撃が襲うと同時に呼吸のサイクルが狂う。
「……っ、っ」
容赦なく蹴られた鳩尾が悲鳴を上げる。
「口答えすんなよ」
彼女がぼそりと呟く。
──そこまでしなくても、良いじゃないか。
そんな言葉を胸に押し込め、壁伝いによろめきながら立ち上がる。
和泉志貴と神坂猶斗の精鋭部隊組だけは完全に鏡月に引いている表情をしていた。
この人達は幹部より『比較的』良心的、な人、だと、思う。
少なくとも私の事をあからさまに見下してはいない。
「申し訳、ありませんでした」
そんな二人を横目に、鏡月に申し訳なさそうに謝ってみる。
そうするとふん、と不快そうにそっぽを向き、未だに東屋でティータイムをしている金月のところまで行って何かを耳打ちすれば、金月が立ち上がり、優雅な足取りでこちらに向かってきた。
「全員集まった様だし、これより上層部のみの訓練を開始します。」
にこやかに、たおやかに。
まるで、何事もなかったかのように宣言する。
───それから、2度目の地獄が始まった。
「ここに居るのは9人。数が合わないから私は大人しく見ているわ。どうせ貴方達は私に勝てないし」
それじゃテキトーに二人組作って、とだけ言って東屋に戻っていく金月。
勝てないのは事実なので大人しく従うしかない。
皆が着々と二人組を作っていく中、私はまだ人を選っている金髪の男と組むことにした。
「お久しぶりですぅ、キースさん。もしよろしければ私と組みませんこと?」
わざとらしそうに声を掛けてみる。
「ン?あぁ、楓サン。イイヨ、組んでやっても♡」
彼は振り返りざまにウィンクして軽く了承した。
その物言いにいちいち腹が立つが仕方ない。けれどもコレはこういう生き物だと割り切る。そうするしかないのだ。
どうせ後で木端微塵にしてやるのだから、今は我慢。
全員のペアが決まると、金月が前に出てルール説明をしだす。ルールというルールもないのだが。
「制限時間は無し。どちらかが降伏するまで続くわ」
───では───
「幹部強化訓練、開始」
その声と共に私は1歩踏み出した足に重心を乗せ、第一話の恨みを晴らすかの如くキースの胸部を思い切り蹴り上げる。
早速私のスピードを見誤ったのか、「が、っ――」と空気を吐いて数m飛ぶ。
───お前は、本当にそれで隊長をやって行けているのかと疑う。
彼はけほ、とひとつ咳を払うと、どこから取り出したか大剣を手にする。
─────真剣は、駄目なはずでしょう!?!?
思わずそう叫ぶと一瞬だけ数名と目が合う。
「親衛部隊は卑怯と狡猾がモットーの部隊。まァ?勝つ為にはなーんでも利用するってコトだよネ♡」
どこぞの魔法学校の一寮のような事をさらりと自慢げに述べ始める。
強化訓練初日に親衛部隊を担当したが狡猾な部分はそんなに無かったような気がする。
東屋で再度紅茶を嗜んでいる金月は面白そうに目を細めている。
「自分一撃入れられておいてなんですかソレ!!!親衛部隊副隊長さんは否定しないんですか!?!」
隣で和泉志貴と組んでいた親衛部隊の副隊長、ローウェン・ラヴルノアに問う。
「ンー、通常運転だし特にツッコミどころ無いかな?」
彼はバイオレット色の髪をふわりと揺らして志貴の攻撃を優雅に避けながらそれに答える。
どいつも、こいつも、狂った奴しか居ないのか、ここは───!!
「それじゃ失礼シマース♡」
気付けば、背後から嫌なR○ボイスが粘性を帯びたかのように響いていた。
キースは私にその大剣を振りかざす。が、懐に所持していた短剣を素早く出して大剣を防ぐ。
鋭い音を立てて火花が散れば、そのままの力で大剣を押し返した。
短剣が丈夫で良かった。そして私は次の攻撃に移る。
短剣を懐にしまい、魔法陣を空に浮かばせて、その中から剣を生成する。
これで、真剣同士の戦が出来る。
後で怒られるとか、なんか、もう、どうでもいい。
とにかく何故か、腹が立ってきたのだ。
集合時間を勝手に変更され、それで一度折檻として蹴られて、いざ訓練が始まったかと思えば対戦相手は真剣を取り出してくる。
夕方頃まで良い気分であったのに、夜に掛けて気分が最悪になった。
それを全てひとまとめにして、『おまえのせいだ』と言わんばかりに剣をキースに突きつける。
「ころしあいでいいですか」
周りから視線を感じ、少しだけ別のペアの方を見ればほぼ全ペアの戦闘訓練が終わり、全員こちらを見ていた。
───あとは自分達だけ。
本気でやってやろうかという気概で剣を構える。
「ちょっとちょっとぉ。先に抜剣したのはウチのだけど、そっちも抜剣しちゃったらもう殺し合うしかなくなるじゃない。コレ一応訓練っつう名目でやってんだからそういうのナシでしょ。ね、楓さん?」
ボロボロに髪を乱して血を吐き出しているローウェンが私の前に立ちはだかる。
確か彼の相手は志貴隊長だったか。それなら納得、負けたのだろう。彼に勝るひとなんて、鏡月か金月くらいだから。
「───そうですね。私も流石に頭に血のぼってたみたいで。すみませんね。」
キースに近づく。
「でも少しくらい折檻してやらねぇとお宅の隊長さんは反省しないのでこれは許してくださいな!!!!!」
片足に重心をすべて託す。
「えっ」
────キースの事を思いっきり、己の右手の全第三関節がへし折れるくらいに、それはもう全力でブン殴る。
「ぷぎゅ」
なんて情けない声が聞こえたが、そんなの知ることではない。
─────華麗なる右ストレートが今決まった。ただ、それだけが、とてつもなく、うれしい。
ざまァみやがれ。私のことをコケにするからだ。
私の心は一瞬で爽快感に満ち溢れて晴れやかになる。
「あっちゃー……」
やっちまったなコイツ……みたいな目で真隣で片手のやり場を失っているローウェンに見られているがお構いナシ。いや、ローウェンどころか全員に引き気味の眼差しを受けている気もしなくもない。
なにがともあれ、復讐は果たした。キースは彼方へ吹っ飛んだ。物語はハッピーエンドで大団円を迎えた。もうこれで良いだろう。
「私の勝ちですね。」
二、三回手を叩いて汚れを払いながら言う。
「……う、ん。」
そう返してきたローウェンの顔は引き攣っていた。
「……」
束の間の静寂が漂えば、キースが顔を片手で抑えながら足を引き摺って戻ってくる。
「───。」
彼はこちらをきっ、と睨みつけ、自分の剣を拾い上げる。
「それじゃ、ボクもう戻るカラ。」
いつもより数倍低い声色でそう呟くと、キースはそのまま寮の方向へと歩いて行った。
「はぁ……待ってよ隊長ーー。」
溜め息を付いてからキースを追い掛けるローウェンを横目に、私はその場に座り込む。
急に疲れがやってきた。
「…………っ……ふ、っ……」
地面の一点を見つめていると、東屋から笑いを堪えるような声が聞こえてきた。
ふいに目をやると金月が肩を小刻みに揺らしていた。
あの人も笑うのかと少し驚く。
ひとしきり静かに笑ったあと、金月が東屋を立ってまたこちらに来る。
「あーあ、面白かった。そのまま殺し合いしてくれればもっと面白かったのに。」
確実に怒られると思ったが、そうでもないようだ。本人は楽しんだようで良いのか悪いのか分からない。
「まぁいいわ。今日はとりあえず解散。それじゃ。」
そう言ってスムーズに颯爽と立ち去る。
────そのスピード感に取り残された親衛部隊と金月を除く7名は、暫く立ち尽くしていたのであった。
立ち尽くしてはいたが、全員の目線は私に向けられていた。受けた視線は、すこし痛かった。
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