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──夢──
「ザコ」─「弱虫」─「泣き虫」─「*ね」─「ガラクタ」─「帰れ」─「ゴミ」─「犯罪者」
シユラたちの口から放たれた、炎を纏った暴言ビームがゆっくりとぼくに向かって飛んでくる。
──「かかってこいっ!」
リヨクは『オウエンの盾』を構えた。
しかし、炎の暴言ビームは容易にその盾を貫通した。
手を火傷したぼくは、とにかく逃げる。
逃げた先に、メヒワ先生がいた。
──「先生! そこどいてっ!」
しかしメヒワ先生は、首を横に振るだけで全然どいてくれない。
──「諦めてはいけない、逃げてはいけない」と繰り返し言うメヒワ先生。
迫り来るビーム。
リヨクは、やむを得ず先生に突進した。
──「先生! 離して!」
先生は、リヨクの肩を掴んで離さない。
「あなたはまた逃げるのですか? 強くなるのではなかったのですか?」と鋭く目を見開いて言うメヒワ先生。
その瞬間、暴言ビームがリヨクの背中に直撃し、
「弱虫」、「犯罪者」、「帰れ」と次々に焼印が刻まれていった──
──「あ”ぁああああ!」
叫び声とともに、リヨクは悪夢から覚めた。
「……ハァ……ハァ……」
──ベッドに座り込み、放心するリヨク。
悪夢にうなされる日々。
ぼくの心は、炎の暴言ビームによって何度も焼かれ、疲れ果てていた。
リヨクは深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐く。
「……負けない」
リヨクは今日も学舎へ向かった。
──大庭──
噴水の縁に座りぼーっとしていると、タカシがやって来た。
「おい、シユラくんが呼んでる」
リヨクはタカシについて行き、シユラの元へ向かった。
──遠くにある、的のような植物に実を投げて遊んでいるシユラたち。
「見てろ、この距離からど真ん中に決めてやる」
と言いヘッドバンドの少年へムルは、実を投げた。
実は、風切り音を立てながら加速していき、的に当たった。
的は、威力を吸収するかのように揺れ、実がポトリと前に落ちると、当たった場所が赤くなっていた。
「全然真ん中じゃねーじゃん」
「的に当たっただけでもすげーだろ……あ、来た、『犯罪者』」
リヨクは、爆発事件の一件から、シユラたちに『犯罪者』と呼ばれていた。
ぼくは、シユラの仲間たちを無視して、シユラの前まできた。
──「きたきた」
シユラは、リヨクの到着を確認すると、満足げな顔で言った。
「なんの用?」
リヨクは、シユラにボソッと言った。
「ゆるしてあげようと思ってさ」
「別にいいよ」リヨクは小さく言った。
「おまえっ! シユラくんがせっかく…」
ウィカブは大きな声を出した。
こいつは『ポァ』で、ぼくに負けた旧楽園の少年だ。
シユラは、リヨクに殴りかかろうとするウィカブをなだめた後、「はい」と言ってぼくに、ヤパルミュレルを渡してきた。
「……」
受け取らないリヨクに、「これからは、仲良くしよう」と付け加えるシユラ。
「いいよ別に」
それでもぼくは、シユラを警戒し、受け取らなかった。
ウィカブはまた、ぼくに向かってきた。
ウィカブを無言で止めたシユラは、葉っぱをスプーンのように使い、ヤパルミュレルをすくい、食べてみせた。
「ほら、何もいたずらしてない。これからはなかよくしたいと思ってるんだ」
と言い、シユラは再びヤパルミュレルを渡してきた。
ぼくは、しばらく考えた後「わかった」と言いヤパルミュレルを受け取り、食べた。
いつもとかわらないおいしい味だった。
「普通のヤパルミュレルだろ?」
「うん」
シユラは笑顔になり、仲間たちを呼んだ。
「おーい、みんなー! リヨクもよしてやろーぜ」
「えー、しょうがないなぁ」
さっきまでぼくをバカにしていたシユラの仲間たちは、あっさり仲間に加えてくれた。
ルエロとタカシはお互いの顔を見合い、気まずそうにしている。クロスケは、そうでもなさそうだ。
リヨクは正直、3人とまた仲良くなろうとは思えなかった。
「リヨクも投げてみる?」シユラは、そう言いながら左右に茶色い葉っぱが付いたピンク色の実を渡して来た。
軟式ボールほどの大きさだった。
「ぼく、あんなに遠くまで投げれない……もっと近くに行っていい?」
「この実は、何かに当たるまで加速し続けるんだ、だから、大丈夫。ま、試しに投げてみなよ」
「わかった」
リヨクは投げた。
山なりに上がった実は、徐々に加速していき、やがて地面に落ちた。
「あー、まっすぐ投げないと。この距離なら、こんぐらいのスピードでも届くから」
と言いシユラは投げた。
軽く投げられた実は、速度を落とすことなく、的に当たった。
「な? とにかくまっすぐを意識して投げてみて」
リヨクに説明するシユラをみて、仲間たちは笑っている。
「シユラくんやさしー」
シユラは、ちらっと仲間たちをみるとやれやれといった感じで言った。
「別にふつーだって」
「もう一回やってみるよ」
シユラに説明してもらったリヨクは、まっすぐ投げることだけを意識して実を投げた。
──的に当たった。
的に当たる寸前の実は、プロ野球選手並みのスピードだった。
それぐらい早かった。
「お! 当たったな。やっぱセンスあるなリヨク」
「あんな遅くていいなら誰だって当てれるよ」
ゾクニカが言った。
「ピピ。石学 生態と接し方。開始10分前──」
バッジから授業開始のアラームが鳴った。
「やばっ、間に合う?」
「急ごう」
リヨクとシユラたちは走った。
──教室。
「今週は、これを作っていただきます」
メヒワ先生は、一般的な冷蔵庫ほどの大きさの岩を指差しながら言った。
その岩は、T字型に重ねられた2つの石から成っており、先生のとなりに静かに佇んでいる。
2つの石の表面には、紫色に光る斑点があり、その周りに青い模様が波打っていた。
「これは、すでに石術処置が終わった岩です。扱い方を今からお見せします」
メヒワ先生は、地面の芝生を、絡ませながら成長させ、重なった岩を持ち上げた。
石の表面に付いた斑点が、紫から黒に変わると、2つの石の間から白い光が溢れ出し、地面に神使{ニヨワリ}が形成された。
灰色でツルツルの体、ミント色のたて髪。実物と見間違えるほどだ。
「この石柱は[T字型石柱]といい、重なっている石と石を引き離すことにより、石術[魂の召喚]が発動し、このように亡くなった生物を、光によりリアルに再現することができます。
光なので触れることはできませんが、生きた証をこのように残すことができます。
──教科書40ページを開いてください」
40ページには、縦長の長方形、ティラノサウルス、横長の長方形が縦に並んだ絵。
その横に、それらを積み上げT字型になった石。
縦長の長方形と横長の長方形の間からティラノサウルスが飛び出している絵が描かれていた。
その下に、ティラノサウルスの顔を被った人が、大きなカメムシを追いはらっている絵が描かれていた。
「このように[魂の召喚]は、害虫を追いはらう事に利用することも出来ます──」
(害虫を……追いはらう……)
──「石に生物の情報を移し、光によって生前の姿を具現化し、それを扱う人が描かれています。
──それではまず、曜変天目模様の光石を作っていただきます」
──子どもたちの机の上に、石ばちと石の筒が配られた。
石ばちには、黄色い土と白い粉。
石の筒には、水が入っていた。
「今からみなさんに作っていただく曜変天目模様の光石は、オベリスクを作ったときと同様、サイズの小さい物です。
石ばちに入っているのは、黄土168グラム。黒曜石の粉164グラム。石の筒には、人魚の汗112グラムが入っています」
メヒワ先生は、先ほど{ニヨワリ}の召喚に使用した、冷蔵庫ほどの大きさの岩を指差しながら続ける。
「この光石を作るのに使った黄土は、168キログラム。黒曜石の粉164キログラム。人魚の汗112キログラム。
召喚する生物の体積以上の大きさの石が必要になるため、ニヨワリのように体が大きい生物を[魂の召喚]するとなると、それ相当に大きな[T字型石柱]が必要になります。
曜変天目模様の光石を錬成するには、168、164、112という数字が必要ですので、乱暴に混ぜて量を減らしてしまわないようにしてください。
それでは、石ばちに人魚の汗を慎重に注いでください」
リヨクは、少し重たい石の筒を両手で持ち、粉がまわないようにゆっくりと、人魚の汗を注いだ。
「外から内に渦を巻くように──ゆっくりと混ぜてください──混ざり合いひとかたまりになったら、こねてください」
──柔らかい粘土ボールが出来上がると、9芒星が掘られた石と石の筒に入った短くて赤い獣の毛(複数)が配られた。
──「9芒星の中央に、円形の窪みがあると思います。
そこに、今作った粘土を置いてください」
リヨクは、先生の指示に従い、粘土を9芒星の中央に置いた。すると粘土は、9方に伸びた。
リヨクは心の中で(うぉ〜)と言った。
ぼくは、こうゆう瞬間にオウエンに会いたくなる。
「粘土が9方に伸びたら、次はこの赤い妖精{カウリ}の毛を真ん中に出してください。
石の上に乗っていれば、はみ出していても構いません。
毛の本数も、11111本と決まっており、サイズが大きい光石を作る場合であっても同じ本数です」
──錬成がはじまると、9方に伸びた粘土は、花が閉じるようにして、真ん中に盛られた赤い毛に覆い被さり、内側で暴れ出した。
そして徐々に色が変わっていき、やがて黒い斑点模様の石が完成した。
先生は、紐状の植物を伸ばし、子どもたち全員の机を見て回る。
「縦14 cm……横5.56 cm……厚さ3 cm、完璧ね」
褒められてテンションが上るリヨク。
しかし、後ろから聞こえてきた舌打ちによりすぐに下げられた。──おそらくクロスケだ。
──「みんなよくできています。それではもう1つ、同じものを作りましょう」