終演後。
「って………」
途中、足を痛めた俺は、少し体重をかけただけで激痛が走る左足首を忌々しく睨みつけた。痛む箇所をいくら睨みつけても、痛みは引くわけではなく、むしろ患部はやや熱を持ち、かなり腫れてしまっている。
「翔太、グリった?後半結構やばそうだったろ」
異変に気づいた佐久間が心配そうに俺の足元を覗き込む。腫れた足首を見て、あーあと大きな声で嘆いた。
「ばか、声でかい」
「それ、絶対酷くなんぞ。あと2日もあるのに大丈夫か?」
「なんとか冷やす。テーピングすればいけるだろ」
俺は自分でもわかるほどに引き攣った笑みを見せた。…結構痛い。俺はマネージャーに肩を借りて、市内の病院へと向かった。
「翔太。言ってくれたら俺が連れてったのに…」
戻って来てすぐに照の部屋を訪ねると、開口一番、照は不満そうに口を尖らせた。俺が初めにマネージャーを頼ったのが面白くなかったらしい。しかしそんな照の不機嫌も、俺の松葉杖を見てすぐに泣きそうな顔に変わった。
「そんなに、酷いの?」
「これは念のため。結構捻っちゃったみたいで、本番以外は無理すんなって病院で貸してくれた」
「本当に?」
「うん」
「ほんとにほんと?」
「大丈夫だって」
照は俺を抱きしめると、よかった、と呟く。
耳元で感じる吐息がくすぐったい。そして俺を抱く腕に力を込めた。少し苦しくなるくらいに。それは、照の愛情の強さだとすぐにわかった。
「あーあ。俺が代わってやりたい」
「ばか。そしたら俺が心配だってば」
唇を重ねようとした瞬間。
ドアが乱暴にノックされる。
外からはラウールと康二の馬鹿でかい声。
『いわもとくーーーん!!』
『照兄!!!入れてーや!!!』
照と俺は思わず目を合わせてしまった。
「翔太、隠れて」
「うん」
俺は松葉杖を捨て、とりあえず風呂場へと隠れた。その間も、ドンドンと、ドアを乱暴にノックする音が続く…。
風呂場の中に入り切ったところで、照の応対する声が聞こえた。
「何だよ、うるさいな」
「ひどーい!僕たち、岩本くんが寂しいといけないと思って来てあげたのに…。だって夕飯来なかったでしょ?」
「寂しいのはお前らだろ」
「寂し照兄!!中に入れてーやー」
「ヤダ。お前ら部屋汚すもん。ほら、出た出た」
「えーーー。せっかく遊びに来たのに」
「ふつうに迷惑だから」
「ん?しょっぴー来てるん?」
康二の言葉を聞き、俺の心臓が跳ね上がる。照は、動じずに言い返してくれた。
「は?来てねぇよ」
「だってソレ、しょっぴーの松葉杖やん」
「ああ。ほんとだ。さっき来た時忘れたのかもな。後で返しとくよ」
「なんで来たの?」
「怪我の状況とか知らせに来たんだよ。大したことなくてよかったよ。はい、もういいだろ。戻れって」
「ふーん?」
二人は渋々、と言った感じで戻ったようだ。あたりが静かになり、照の合図で部屋に戻った。
「あーせったぁ!!」
「…何とか誤魔化した。少しここにいろ。すぐに出て見つかると、あいつらうるさいから」
「ん」
ひょこひょこと、片足で歩く俺を、照は支えてくれ、しばらく話した後で俺は照の部屋を出た。
◇◆◇◆
「しょっぴー、ほんまに大丈夫か?」
「うん。平気だ」
翔太は、ライブに帯同してくれている整体師さんに患部をガチガチにテーピングで固めてもらっていた。それを見ていた康二が翔太をずっと心配している。
思えば朝食の時から甲斐甲斐しく翔太の好きな料理を見繕ってやったり、身の回りの世話を康二が買って出ていた。
「ありがと、康二」
「全然かまへん。痛いやろ?無理しちゃあかんよ?」
「朝、痛み止めも打ってもらったし、念押しで強い薬も飲んでるからそんな顔すんな」
「だって心配やぁ……」
康二はずっと眉を下げて、翔太の世話を焼いている。それが羨ましくもあり、彼氏としてはありがたくもあり…。翔太も翔太で戸惑いながらも、康二にその身を預けていた。
突然、康二がぽんっ、と膝を叩く。
「ええこと考えた!今日は俺に任しとき!」
可愛らしく小首を傾げて不思議そうにする翔太を見て、俺の胸は何とも嫌な予感でいっぱいになっていた。
何と、康二は、メンバーラップの時、恥ずかしがる翔太を無理やりにお姫様のように抱き上げた。そのまま少し高いステージに、翔太を上げる。翔太の腰に、肩に、康二の腕が絡まっている。
カラダが熱くなる。
翔太は真っ赤になりながらも、そのままステージを続けていた。康二のしてやったり、というご満悦な顔が俺をさらにイラつかせた。
◆◇◆◇
最終日。
今日は配信。また姫抱きとかされたらやだな、でも足やっぱり痛いし…。なんて、思っていたら、楽屋で照と康二の言い合う声がした。
「俺がやるから」
「なんでよ。照兄は引っ込んでてや!」
「いいから今日は俺が。俺の方が力あるし、安定するだろ」
「そやかて…」
「なに?なんの話?」
間に入ると、さっきまで怖い顔をして康二と向き合っていた照が、取り繕うような笑顔を見せた。
………なんだかこれ以上は聞いたらまずそうだ。目の奥が笑ってない。
「なんでもない。翔太は本番までしっかり休みな」
「………わかった」
よくわかんないけど、俺は、言われた通り少し横になったりしながら、なるべく足を使わないようにして、本番まで歌詞の確認なんかをしてた。
いよいよその時が来た。
また康二に姫抱きされんのかな、あれ、恥ずいんだよなとその時を少しどきどきしながら待っていると、目の前に思いがけず照の姿があった。
いや、ついさっきまでメンバーラップしてただろうが。いつの間に。
「え?え?」
「どうぞ、お姫様」
俺はヒョイっと、いとも簡単に持ち上げられ、不可抗力でしがみついた瞬間、頸筋の照の香水が薫った。
え?マジ?
これってヤバいやつだ…。
まさかの本当の彼氏による姫抱きに、昨日の倍以上に恥ずかしくて、俺はステージ上を誤魔化すようにコロコロと転がった。
何とか起き上がって、照に向かって頷くけど、サングラスの奥の照の目は見えないから、余計に照れ臭い。
もう、康二…。
何してくれてるんだよ…。
すると視界の端で康二もまた、照に姫抱きされてた。
一体、なんで???????
俺が照に抱かれてる間、ラウールのラップがめちゃめちゃなことになってたらしいけど、俺はそんなの聞く余裕が全くなかった。
帰りの飛行機で、窓の外を見ていると、後から来た照が笑顔で隣に座った。照は周りに聞こえないように小声で囁く。
「今日はみんなの前で翔太を抱っこできて嬉しかった」
「ひかる……」
「翔太は俺のだからね」
そう言って、見えないように繋いできた手が、いつもより少し熱を持っている気がして、俺はなんだか付き合いたての頃みたいにどきどきした。
コメント
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きゃっ!あのシーンは発狂ものでした💛💙 まきぴよさんなら書いてくれるかなって勝手に思ってたら、書かれていたので、めっちゃ嬉しかったです笑 ありがとうございます
発狂💛💙の裏側(笑)をありがとうごさいます😍😍😍 焼きもち💛サイコーです!!これからも応援しています😊
きゃーーーー!!!いやほんと昨日の姫抱きはもう声出たよね🤦🏻♀️💛💙