キルロンド生、魔族軍と部屋割りをされ、エルフ王国の樹木で出来たマンションに通された。
ヒノトは、早々にDIVERSITYのメンバーを集めた。
「なんか、こんな風に集まるのも恒例っぽくなってきたよな。中々一緒に戦えないし……。まあでも、次の戦争ではこのメンバーで活躍してやろうぜ!」
しかし、躍起に声を上げるヒノトとは打って変わり、三人は暗い表情を浮かべさせた。
そして、最初に手を挙げたのはグラムだった。
「ヒノト……その……すまない。俺は今回、魔族とパーティを組んで戦ってみたい……」
「は!? 魔族と!?」
「あぁ……彼らは悪い奴じゃなかった」
真っ直ぐな目付きでグラムは向き合う。
そこに、リリムもまた手を挙げる。
「私も、今回は魔族と組もうと思ってる……。私の闇魔法は、使う度に仲間の魔力を吸っちゃう。ルギアさんの訓練で多少なり抑える術は身に付けられたけど、それでも、これから魔法を駆使して戦うヒノトとは……相性が悪くなっちゃうと思う……」
ヒノトは懸念していた。
今までは、ヒノトの魔力暴発を活かしたリリムの闇魔法だった。
魔力暴発であれば、技として魔法ではない分、多少ヒノトの魔力を吸っても問題はなかった。
しかし、魔法を使って戦うのであれば、身に付けたばかりの魔法を吸収することで、ヒノトの今後の戦闘方針の足を引っ張る行為になってしまうからだ。
「リリムの言いたいことは分かった……。ほんで、リオンは……」
「あぁ。みんな察しているだろうけど、俺はルークを救出する為に、アザミ帝王討伐班に入れてもらった。だから、セノ=リュークと組むことになる」
ゴクリと喉を鳴らせ、汗を滴らせながら答えた。
「そうか…………」
呟くようにヒノトは答えた。
そんなヒノトの表情に、三人は汗を滴らせる。
(最初にヒノトくんにパーティ勧誘をされた時、共に強くなろうと誓い合ったのに……こんなの……僕たちがしようとしていることは、倒すべき魔族と手を組んで……まるで裏切りみたいなものじゃないか……)
(私のことを魔王の娘だと知った上で、ちゃんと自分の気持ちを答えさせてくれた……。私は、私なりにヒノトを支えようと思った……。でも、強くなろうとすればする程、戦いが強力になればなる程、私の力はヒノトの足手纏いになってしまう……。でも、だからってこんな言い方……ヒノトはどう思うのだろう…………)
(ヒノト……すまない……。俺を見ても怖がらず、先輩でも俺の我儘を聞いてくれて平等に扱ってくれた。夢にまで見たパーティにまで誘ってくれた。ヒノトがいなければ、きっと俺は今ここにはいない。でも……だからこそ、今のままじゃダメだと感じたんだ……)
三人がそれぞれの想いを抱える中で、ゴクリと、ヒノトの返答を待ち、その俯く顔を眺めた。
「あっはは!」
「え……?」
しかし、ヒノトから発せられたのは、三人の予想を裏切るような、あっさりとした笑い声だった。
「ヒノト……?」
「いやー、よかった! 安心した!」
「な、何がだい……?」
三人が冷や汗を見せる中、ヒノトは一人、ニコニコとその場に立ち上がる。
「俺は、今でこそ “灰人” なんて呼ばれ方をされてるけどさ、元は魔法も使えない平民で、そんな俺と組んでくれたシールダーのグラム。王族ながら、レオの為に強くなりたいって言って手を取ってくれたリオン。そんで、魔王の娘って散々嫌な目を向けられてきただろうに、俺の気持ちに正面から向き合ってくれたリリム。だから俺は、このパーティで良かったって思った。魔法の使えない平民と、魔族似で恐れられた男と、チャラい王族と、魔王の娘。どっからどう見ても異端なパーティ。色んな奴が居ていいんだって証明したくて付けた名前、 “DIVERSITY” 。みんなが、この名前を忘れないでいてくれたことが嬉しいんだ。魔族だって全員が悪い奴じゃない。偏見だけで組まないとか、戦うとか、坂本さんも言ってたけど、俺はやっぱおかしいと思うから。リリムだって魔族だけどキルロンドで暮らせてたように、俺たちはまだまだ魔族を知らない。だから、自分から知りに行こうとしてくれるみんなのことが、心強くて仕方ないんだ!」
そう言いながら、ゆっくり歩き、ドアへと手を掛ける。
「でもだからこそ、俺も負けない……。灰人の力もちゃんと使えるようになって、正しく人を助けられる勇者になる為に、そんで、またこのメンバーでパーティが組める時、しゃんとした剣士になれるように……俺も強くなる……」
そう言い残すように、ヒノトはその場を後にした。
静かに廊下を歩き、静かに外へと出る。
樹木で覆われていても、その月光は綺麗に差し込み、ヒノトの頬に流れる涙を照らしていた。
「強がったって、強くはなれないぞ、灰人」
「セノ…………」
話を聞いていたかのような素振りで、セノは涙がボロボロ溢れ落ちているヒノトの前に現れた。
「仲間の前であんな大口を叩いておいて、一人になった途端にソレか」
セノはニタニタとヒノトを煽るが、ヒノトは差し込むか月光を見上げ、涙を拭おうとはしなかった。
「今日は、無理に涙を拭う気分になれないんだ……」
そんな素直な答えのヒノトに、セノは黙り込む。
「本当はずっと考えていたんだ……。灰人の力を聞いたその時から。どんなに手を伸ばしても、どんなに仲間に貢献できても、それは努力の現れじゃなくて、元々ある灰人の力が飛び出て、みんなのお陰でなんとかその場を切り抜けてるだけだって。だから、本当の意味で進化をしている仲間を見ていると、俺って虚勢しか吐いてないなって……感じるんだ」
「ふん。君がどう思おうと、明日はやってくる。朝陽ってのは必ず昇る。君が悲観的になっている理由は…… “恐怖” だろ……?」
「お前には本当、なんでも見据えられてんな! そう……怖えんだ、俺。だって灰人の俺はさ、アザミ帝王の元にも、三王家 アダム=レイスの元にも行くんだろ? 魔族の弱体化を利用する為に……」
「分かってるじゃないか。そうだ。僕は、君にそれを伝えに来た。なら、君が今すべきは……」
「だから、今日は我慢せず、強がりもせず、泣くんだ」
その涙と、その奥に隠れる覚悟の瞳に、セノはまたしても口を閉じた。
「明日、ちゃんと強がれるように」
「ふーん。まあ、ちゃんと役に立ってくれるなら、僕はなんでもいいんだけど」
「なあ、セノ。これだけ教えてくれ」
ヒノトの涙は、もう止まっていた。
「なんだ?」
「セノは、勇者ラインハルトに会ったことあるか?」
「それを聞いてどうする?」
ヒノトは、何も答えずに真っ直ぐ見つめる。
「はぁ……。会ったことはある。史実では、魔王を討ち倒したのが勇者ラインハルトなんだろ? 僕はその場にいた。当時は僕も兵士になるより若かったから、見ただけだけどね」
「そうか……。なら、信じるよ。セノのやろうとしていることも、これからのことも。俺はセノを信じる」
そう言ってニカっと笑うと、ヒノトは去って行った。
「ふん……ムカつくな」
(何年振りだったかな、理解できなくてムカつくと思った奴に出会ったのは……)
そうして、魔族とキルロンド生の仲が少しずつ狭まっていく夜は、静かに過ぎて行った。
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