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「ソラくん!今日も来てくれて嬉しいよ」
財布を握りしめた小太りの中年男性
呂律の回らない口調で、俺にひひひと笑う。
「お手当て1万円も…!いつもありがとうございます~」
愛想笑いを浮かべ
いつものようにお手当てを貰うと
以前、目の前の男通称おぢに買ってもらったブランド物の暗黒のサッチェルバッグから長財布を取り出し、お札をしまう。
すると、男が俺の全身をくまなく見て呟く。
「ソラくんはほんと可愛いねぇ、本当に女の子みたいだ」
「あはは、そんなことないですよ~」
いつものようにやんわりと返す。
「じゃ、予約してるから早速行こうか」
「はいっ!レストランですよね?
どんなところか楽しみだな~」
さりげなく男の腕に手を絡める。
ギラギラとネオンサインが瞬く夜の街
もう7回目ともなれば周りの視線なんかもどうでも良くて
着いたのは市街の夜景を一望できる
老舗展望レストランで。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。」
扉をくぐるとボーイさんが深々とお辞儀をしてくれ、席へ案内される。
「わぁ…!綺麗な夜景ですねぇ、こんなところ初めて来ました!」
わざとらしいぐらいに明るく喜ぶぐらいが丁度いい。
目を輝かせながら夜景に見とれる俺に男は自慢げに鼻を鳴らす。
「そうだろう?ここはボクのお気に入りの店なんだよ。そうだ、ソラくんが普段なら来れないようなバーも今度連れてってあげるよ」
(はあ~~いつものマウントうざ、なにが普段来れないような、だよ?高飛車ぶっちゃって)
なんて内心思いつつも
太いパパであることに変わりはないので胸の前でグーを作った両手を寄せ顎に添えて
「えっ!いいんですか?ぜひ行きたいです~」
と貼り付いた笑顔で接する。
「マスターと仲がいいからね、こんなに良くしてあげるのはソラくんだけなんだから、もっとボクに感謝してよ?」
(あーきついきつい、感謝すんのはお前ぇの方だろ、こんな可愛い俺が金も払わないと相手にされないキモイおっさんに愛想振りまいてんだから)
「もちろんですよ、えっもしかして伝わってないですか?!いつも一緒に食事できるの楽しみにしてるのに…」
「あ~違うよ!だから泣かないで!!今度またソラくんの好きなブランドの靴も買ってあげるからね」
「わっほんと~?えへへ、パパ大好き♡」
それから2時間後…
レストランを出るとすっかり夜の帳が降り
冬の冷気で身震いしてしまう。
「今日はありがとうございました♪」
「うん?いやあ、こちらこそいつもありがとうね。それじゃまた連絡するから」
そう言って俺に手を振って去っていった男の背に向けて手を振った。
(今日もいい暇潰しにはなった…かな)
おぢと別れて数分歩くと小さな公園があったのでそこで少し休憩する。
そしてベンチに座ると即座にスマホを取り出し
定型文とも言える今日のお礼のメッセージをインスタのDMに送信する。
すぐにインスタを閉じて
俺の居場所とも言えるTwitterの自撮り垢元い
裏アカにログインする。
すると通知欄に20件以上反応が来ていて
いつものことながら頬が緩む。
案の定、昨日の夜に
部屋着の黒のスウェットを少し下ろして肩を出し、鎖骨が見えるぐらい露出した雰囲気写真を投稿したツイートへのいいねとリプだった。
【ソラくん今日もエロすぎ】
【肩出し最高か?】
【鎖骨がえっちすぎる、舐めたい((】
などなど、リプ欄は俺を褒め称える言葉で
溢れている。
(ふふ、これこれ……)
俺はこの裏アカでいわゆるエロ自撮りを投稿しフォロワーに好評を得ている。
それに加え、仲良くなったフォロワーに食事に誘われたりしてパパ活女子のようなこともして
一人暮らしをするごくごく普通の男子大学生である。
俺は所謂、地雷系男子という類のもので
地雷系メイクでフル装備した自慢の顔面に
ピアスとチョーカー、可愛いアームカバー
地雷系ファッションを決め込んで
街に繰り出し
日々Twitterに自撮りを上げたり
夜には決まって太腿や鎖骨、胸あたりを露出させたえっちな雰囲気の写真をInstagramに投稿したりする
裏アカ男子でもある。
こんなことをするようになったのは
Twitterで#自撮り界隈というものを知ってから
ではあるが
自分を可愛く着飾ることに目覚めたきっかけは
2年前に行った美容院で
担当してくれた男性・|葛西 玲於《かさい れお》に初めて髪をいじってもらったときだった。
彼は美容師界でとても名高く
美のスペシャリストとして才色兼備な人で
偶然にも美容院に行く度に俺の担当になることが多くて、男同士ということで会話も弾み
2年ほど通ううちに仲良くなった。
そして、初めて髪をウルフヘアーにしてもらった
1年前
ピアスをしようか悩んでるということを伝えると俺の耳朶を触って
「霄くん、それこそイヤーカフとか似合うんじゃない?」
と提案してくれて
その日はちょうど怜央が休みで俺好みのピアスを一緒に買いに行ってくれて
その場で開けてくれた。
「じゃ、いくよ?」
と俺の耳朶にピアッサーを添える玲於
「ちょっと痛いかもだけど我慢してね」
内心チワワのようにビクビクしながら
目を瞑る。
そしてバチンッと大きな音がして、耳たぶが熱くなった。
初めて開けたピアスホールは不思議な感じで痛みとかあまり感じなかった。
鏡で耳朶を見せてもらうとそこには見慣れないイヤーカフが飾られていて
「よく似合ってるよ」
微笑む玲於
生まれ変わったような自分の可愛さに我ながら眼福したのをよく覚えている。
それが今や、不埒な病み垢兼裏アカ男子と化しているのだから笑える。
玲於は俺が東京に上京してからの唯一の友達で
トー横でたまに話す同い年の男女よりも話しやすく、カリスマ美容師でお洒落な大人だし
俺がえっちな画像を上げてるぐらいならまだしも
パパ活みたいな危険なことをしていると知ったらきっと咎めてくるに違いない。
もちろん玲於には俺がそんなことをやっているなんてバレてはいないだろうし
関わる上では一生隠し通すつもりだけど。