テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
1. 渡辺翔太:聖域の拡大と狂乱
目黒さんが去り、部屋に一人取り残された渡辺さんは、しばらくの間、床に突っ伏して肩で息をしていました。しかし、不意に顔を上げたその瞳には、絶望ではなく、ある種の「開き直り」にも似た凄まじい熱が宿っていました。
「……はは、見られた。見られちゃった。もう、隠さなくていいんだ……」
渡辺さんは立ち上がると、クローゼットの奥からこれまでの「禁忌」を次々と引きずり出しました。積み上げられた段ボール箱を乱暴に開き、中から溢れ出すのは、宮舘さんがかつて愛用していたブランドのアクセサリー、同じモデルの高級時計、そして数年前の誕生日に宮舘さんが「好きだ」と言っていた香りのアロマキャンドル。
渡辺さんは、それらをお供え物のように部屋の棚へ並べていきます。さらに、予備として眠らせていた大量の写真を取り出し、壁の隙間という隙間、果ては天井までも埋め尽くす勢いで貼り足していきました。
「ほら、涼太。見てる? 部屋中、全部あんたになったよ……」
アロマキャンドルに火を灯すと、狭い部屋にサンダルウッドの重厚な香りが立ち込めます。渡辺さんは、宮舘さんと同じ香りに包まれ、四方八方から自分を射抜く「宮舘涼太」の視線に晒されながら、恍惚とした表情で笑い声を上げました。その寝室はもはや人の住む場所ではなく、宮舘涼太という神を祀り、自らを生け贄として捧げるための、歪で美しい**「祭壇」**へと変貌を遂げたのです。
2. 宮舘涼太:深淵からの観察
その頃、宮舘さんは自宅の書斎で、ハッキングした渡辺さんの部屋の映像を、ワイングラスを片手に眺めていました。
「……ふふ、いい顔だ、翔太。やっと、すべてをさらけ出したね」
モニターの中で、渡辺さんが狂ったように自分の私物や写真を飾り立て、最後には自分の写真に向かって幸せそうに、愛おしそうに微笑む。宮舘さんは、その一挙手一投足を、まるで最高傑作の芸術作品を鑑賞するかのように見守っていました。
宮舘さんは知っていました。阿部さんが渡辺さんをハッキングし、監視していることを。しかし、宮舘さんはそのシステムの裏をかき、阿部さんさえも気づかない「死角」から、渡辺さんの真の狂気を独占していました。
「阿部……お前が見ているのは、俺が許可した『表面上の異常』だけだ。翔太が今、俺の名前を呼ぶ声、その吐息……それらすべては、俺だけのものだ」
阿部さんが「救おう」と監視を強めれば強めるほど、渡辺さんはこの密室に閉じ込められ、宮舘さんへの依存度を高めていく。阿部さんの精緻なシステムこそが、渡辺さんを外の世界から遮断する「檻」の壁を厚くしてくれたのです。
宮舘さんは、ハッキングした映像を一時停止し、画面の中の、狂気で瞳を輝かせている渡辺さんの頬を、愛おしそうに指でなぞりました。
「さあ、翔太。……みんなが準備を整えてくれた。もうすぐ、迎えに行くよ」
深紅のワインをゆっくりと飲み干した宮舘さんの唇には、全てを掌の上で転がしている支配者の、冷徹で甘美な笑みが浮かんでいました。