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4 - 第4話 後片付けと義母の料理

2025年04月10日

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◻︎まずは後片付け、そして義母のこと




夫が、職場からいただいた花束を持ち帰ってきたその夜。今はそれぞれ独立している息子と娘も帰省して、退職祝いの宴を開いた。


「あなた、長い間、お疲れ様でした」


「お父さん、本当にお疲れ様。長い間働いてくれて俺を大学まで行かせてくれて、感謝しているよ」


「お父さん、私も。ありがと」


家族3人に迎え入れられた夫は、心なしか涙ぐんでいるように見える。


「あー、お前たちのおかげで最後までやり通せたよ。家族みんな元気でいられることが、今は一番の幸せだな」


それから乾杯をして、奮発したお肉のすき焼きと、お寿司を食べた。


「ねぇ、お父さん、これからは何をするの?時間もたっぷりあるわけだし」


娘の伊万里に訊かれた夫は、私の方を見ながら答える。


「まぁ、趣味の魚釣りくらいかな?」


「魚釣りでもなんでもいいけど、この前話したことはやってもらうわよ」


「え?なんのこと?お母さん」


「お母さんもね、主婦業を定年退職するって話。お父さんだけこれから何もかも自由になるって、不公平でしょ?お母さんだってこれからは自由な時間が欲しいから」


「それってさ、あれだ、夫源病になりたくないからだよね?母さん」


息子の慎二が話に入る。


「よくわかってるじゃない!それよそれ。だってこれから毎日、お父さんはずっと家にいるかもしれないでしょ?でもお母さんはまだまだパートもしたいし、お友達とランチや旅行もしたいのよ。その度にお父さんのご飯の準備や洗濯までやってから出かけるのって、キツいからね」


「そうだね、どちらかが負担するってやり方は今の時代にそぐわない。頑張ってね、お父さん。まずは料理から?」


伊万里の質問には私が答える。


「ううん、片づけから。料理なんてデリバリーでも惣菜でもいいけど、そんなものでも片づけは必要でしょ?まずはそこからおぼえてもらう。ゴミの分別や食器洗いね。それなら子供のお手伝いと変わらないからね、すぐできるでしょ?」


「あー、いまからそんなこと考えると、ビールが不味くなるよ」


夫の眉間に皺が寄っていた。




「明日からだから、今夜はごゆっくりどうぞ。目指すは半年後、私の誕生日までにできるようになってね」


「頑張れ!お父さん!あ、そうだ、誕生日プレゼントはまだだったから、かっこいいエプロンにするね。どんなのがいい?」


伊万里はスマホの通販サイトを開いて、夫の光太郎にエプロンを見せ始めた。娘からのプレゼントにまんざらでもない夫は、ご機嫌になっていた。




次の朝。


「あなた、ほら、起きて!私はもうパートに出かけるから。朝ごはんは自分で食べて、片づけておいてね。お昼は店屋物でもとって」


寝室のカーテンと窓を開けて、空気を入れ替える。


「あー、昨夜は飲み過ぎた……」


「はいはい、でも、そろそろ起きないと」


まだ布団にくるまったままの夫から、布団を剥ぎ取る。


「えっ、待って、まだ寝かせてくれよ」


「だーめ!」


ミノムシのように丸くなる夫。その時。


ピンポーン

ピンポーン

ピンポーン


___この3回チャイムを鳴らす訪問者は……


私は嫌な予感がして、さらに夫を起こす。


「ねぇ!あれきっとお義母さんだよ、起きて!私はもう出かけるから、相手してよね」


「あぁ?んー、わかったよ」


まだ眠そうな夫を残して、私はバッグを持って玄関に出た。チェーンを外してドアを開けたらそこには、風呂敷包を抱えた夫の母の八重がいた。


「あら、お義母さん、こんなに早くからどうされたんですか?」


「光太郎がめでたく定年退職したから、お祝いを持ってきたのよ。ちょっとこれ、受け取ってくださる?」


八重は、よっこらしょと重そうな風呂敷包を渡してきた。私はそれをさっさと受け取りダイニングまで置きにいき、すぐに玄関まで戻った。


「お義母さん、ごめんなさい、私はこれから仕事なので。ごゆっくりどうぞ、光太郎さんも起きてますから」


「あら、そう、じゃあお邪魔するわ」



あの重い風呂敷包の中身は、想像がつく。きっと光太郎が好きな、お袋の味というやつだ。里芋の煮っ転がしや、こんにゃくの甘辛煮、きんぴらごぼう、それから……。なんでもいいんだけど、いつも大量で、全部砂糖醤油の甘辛味で。


___ありがたいよ、ありがたいけど度を越すと迷惑なんだよね


なのにいつも、『ありがとうございます』『美味しいです』と感謝して褒めないと納得してくれない。夫も始めは“美味しい”と食べるけれど、三食も続くと飽きてくるのか手をつけなくなる。だからと言って、私でもそんなに食べられない。こんなご時世にフードロスは気が引ける。


___どうしたもんか


ただ、義母の好意を無駄なものとして突っ返すのも気が引ける。うまい断り方はないのだろうか。











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