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結愛
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#恋愛
影猫パーカー@最低週1投稿目標
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コメント
4件
この話では🌟は出なくて🎈オンリーのお話なのかな?とにかく続きが気になる!
第2話、読ませてもらいました。コーヒーを淹れる一連の動作が丁寧で、類の優しい気遣いが伝わってきてほっこりしました。自作の波の音を聴かせるシーン、ああいう「見せたいものがある」って気持ちの表し方、すごく好きです。そして「また今度にする」で止めた言葉がすごく気になります……これからどんな距離感になっていくんだろう。続き、楽しみにしてますね🌙
「ありがとう。そこ置いといて。」
段ボールを作業台の横に下ろすと、中の部品たちががちゃりと鳴った。類はさっそく蓋を開けて中身を広げ始めたが、ふと手を止めて振り返った。
「……散らかってるのは気にしないで。座る場所はあるから。」
そう言って奥のパイプ椅子を引き、埃を手のひらでさっと払った。ブラックのコーヒーが入ったマグを自分の手元に引き寄せ、もうひとつのカップには手をつけない。誰かが置いていったものなのか、それとも類自身のものか。
「コーヒー好きなんですか?」
「好きだよ。一日三杯は飲む。」
悪びれもせずに言い切った。作業台に部品を並べる手つきは慣れたもので、無造作に見えて実はきちんと種類ごとに分けている。
「深煎りが好きでね。苦ければ苦いほどいい。」
ふうがカップを見ているのに気づいて、少し気まずそうに肩をすくめた。
「ああ、それは……友人が置いていったやつ。カフェオレ。僕は飲まない。」
つまり類が普段からこの研究室に入り浸っていることが窺えた。棚の一角にはコーヒーミルまで置いてある。大学の設備ではなく、私物だった。
「……ふうも飲む?淹れるよ。」
「いいんですか?」
「もちろん。豆は昨日挽いたばかりだから味は保証する。」
類は手を洗ってから棚に手を伸ばし、ドリッパーとペーパーフィルターを迷いなく取り出した。ミルのハンドルを回す音が研究室に小気味よく響く。ごりごりと豆が砕ける音に混じって、さっきまでの機械音が嘘のように生活感が滲んだ。
「砂糖とミルクは……あったかな。」
冷蔵庫を開けて中を確認する。牛乳のパックとスティックシュガーが数本、几帳面に並んでいた。自分では使わないくせにきちんと備えてあるあたり、来客が珍しくないのかもしれない。
「どっちもある。ブラックでいける口?」
湯を細く注ぐ手元は丁寧で、粉がふわりと膨らんでいく。研究室の雑然とした空気の中で、その一連の動作だけが静かに整っていた。
「少しだけ、砂糖をいいですか?」
「了解。」
類は角砂糖をひとつ、ことりとカップの縁に置いた。自分の分はブラックのまま、ふうのカップに先に湯を注いでから粉を落とす。待ち時間に差をつけるのは、苦いコーヒーを好む人間なりの気遣いなのだろうか。
「はい、どうぞ。」
ふうの前にカップを置き、自分はデスクに腰を預けるようにして立ったまま一口すする。ふうが座っている椅子との距離は近すぎず遠すぎず、研究室の狭さのおかげで不思議と居心地が悪くない間合いだった。
「……ふうって、あんまり緊張しないタイプ?」
何気ない問いかけだった。初対面の研究室でコーヒーを受け取っている状況を、類なりに面白がっているようだった。
「緊張はしますが、なんていうか神代さんから近寄ってくれると言いますか……とにかく接しやすいです。」
「神代さん、か。」
カップに口をつけたまま、少し考え込むような間があった。
「類でいいよ。堅苦しいのは苦手でさ。」
それから、接しやすいという言葉に少し照れたように首の後ろを掻いた。
「まあ……人と話すのは嫌いじゃないから。でもそう言ってもらえると嬉しいな、素直に。」
研究室の時計が静かに秒を刻んでいた。外から聞こえていた学生たちの喧騒はもう遠い。類がコーヒーを啜る音と、部品のひとつがかちゃりと倒れた音だけが空気を満たしている。
沈黙が落ちた。けれど気まずさはなく、コーヒーの香りがゆるやかに研究室を満たしていく中で、それはむしろ心地よい静けさだった。
「……ふうってさ。」
言いかけて、一度コーヒーで唇を湿らせた。
「いや、なんでもない。また今度にする。」
何を聞こうとしたのか、類自身も整理がついていないような顔をしていた。代わりに段ボールの中から小さな基板をひとつ取り上げ、話題を変えるようにふうに見せた。
「これ、昨日作ったやつ。小型のオーディオアンプ。音、聞いてみる?」
「聞いてみたいです」
「じゃあちょっと待って。」
類はスピーカーに繋がったケーブルを手早く差し替え、ノートPCの音声出力を基板に切り替えた。画面を数回クリックすると、スピーカーから微かにホワイトノイズが流れる。
「何聴きたい? ……と言っても手持ちの音源がこれしかないんだけど。」
デスクの端に置かれたスマホをひょいと持ち上げた。プレイリストにはクラシックと環境音と自作音源が並んでいて、大学生の趣味にしては渋いラインナップだった。
「環境音のやつ、自分で録った波の音なんだけど……意外と落ち着くって評判。友人限定の評判だけど。」
そう言って少し笑い、再生ボタンに指をかけた。
波の音が静かに流れ出した。規則的なようでいて微妙にずれる波形が、狭い研究室の空気に溶けていく。半田や基盤の無機質な光景と波音の組み合わせは、ちぐはぐなのに不思議と馴染んでいた。
「……どう?」
ふうの顔を横目で窺う類の目は、自分の作品の感想を待つ子供のように真っ直ぐだった。さっきの「なんでもない」で飲み込んだ問いかけのことは、もう頭から消えているらしい。
「いい波の音だね、落ち着く。」
「よかった。それ、三ヶ月前に伊豆で録ったんだ。」
嬉しさを隠しきれず、口元がほころんだ。普段の落ち着いた佇まいからは想像できないほど素朴な喜び方だった。
「夏にフィールドワークって名目で一人で行って、防水マイク仕込んだ自作のガイガーカウンター持って……。」
そこまで言って、自分が話しすぎていることに気づいたのか言葉を切った。
「……ごめん、オタクの早口になってた。」
耳の先がほんのり赤い。コーヒーを一口含んで誤魔化すように目を逸らしたが、PCのスピーカーから流れ続ける波音は途切れることなく、二人の間を穏やかに満たし続けていた。窓の外では夕方の気配が忍び寄り、廊下を行き交う足音もまばらになりつつある。
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