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夜、スマホが鳴った。
「……はい?」
《こちら○○病院ですが、ローレン・イロアス様が交通事故に遭われまして》
「……え?」
《ご家族の方ですか?》
「……恋人です」
《すぐ来てください》
電話が切れた瞬間、葛葉は家を飛び出した。
――――――――――――
病院の廊下は白くて、冷たかった。
「……ローレン……」
病室の前で、医師に止められる。
《命に別状はありません。ただ……》
「ただ?」
《記憶障害が出ています》
「……は?」
――――――――――――
病室。
ベッドの上で、ローレンが目を開けた。
葛葉はゆっくり近づく。
「……ローレン」
『……誰ですか』
「……え」
『……あなた、誰ですか』
「……」
喉が詰まる。
「……俺、葛葉……」
『……くず、は……?』
「……お前の……」
「恋人……」
『……恋人』
ローレンは首を傾げる。
『……すみません』
『……覚えてないです』
「……」
視界が滲む。
「……そっか」
「……無事でよかった……」
――――――――――――
それから。
葛葉は毎日病院に来た。
花を持って。
プリンを持って。
「……今日も来たぞ」
『……毎日ですね』
「……当たり前だろ」
『……不思議です』
『知らない人なのに……』
『……安心する』
「……」
葛葉は笑う。
「……前もな」
「同じこと言ってた」
『……そうなんですか』
「……ああ」
――――――――――――
ある日。
雨の音がしていた。
葛葉は椅子に座って、スマホを見ていた。
『……くっさん』
「……ん?」
『……今』
『……くっさんって呼んだ』
「……?」
『……なんか』
『……急に……』
『……胸、苦しくなって……』
「……ローレン?」
『……俺』
『……事故の前』
『……くっさんの隣に……』
『……いた……』
「……」
ローレンの目から涙が落ちる。
『……思い出した』
『……ずっと……』
『……一緒だった』
「……ローレン……」
『……ひどいな』
『……忘れてた』
「……いい」
「……戻ったなら……」
ローレンは震える声で言う。
『……怖かった』
『……誰か大事な人』
『……忘れてる気がして……』
「……俺だよ」
「……ここにいる」
ローレンは布団から手を伸ばす。
『……くっさん』
『……離れないで』
「……離れねぇよ」
葛葉はその手を強く握った。
――――――――――――
窓の外、雨は止んでいた。
『……なぁ』
「ん?」
『……事故のあとも』
『……毎日来てたんだろ』
「……ああ」
『……ありがとう』
「……忘れんなよ」
『……もう忘れない』
『……今度こそ』
ローレンは、泣きながら笑った。
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