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《まもなく、名古屋。名古屋です__》
俺は新幹線で名古屋に向かっていた。
車窓には青空と入道雲が広がっていて、夏休みという言葉がようやくしっくり来た感覚だ。
強豪校でもお盆休みは取ってくれるらしいので、俺は地元に帰省する事にした。
実家に帰るという目的もあるが、何より(名前)に会って話したかったのだ。
あの後、着信拒否をされていると知ってから、ずっと気が沈んでいたのを治は心配してくれたのか、帰省して(名前)と話すことを勧めてくれた。
カツ丼奢りでは返しきれないのでお土産も買って行こう。
そんなことを思いながら改札を出て、俺はバスを乗り継ぎ地元まで向かった。
バスを降りると、見慣れた光景が広がっていた。
まだ地元を離れて半年も経っていないのに、すでに懐かしさを感じる光景に、無意識のうちに張っていた緊張が溶けた。
「母さん、ただいま」
「倫太郎!おかえりなさい!昼は新幹線で食べたんだっけ?」
「うん。ちょっと(名前)の家行ってくる」
俺は家に荷物を置いて、すぐに(名前)の家へと向かった。
お盆だし、多分あいつも部活はないはず。
俺の実家から徒歩十分もいかない距離にある(名前)の家。
あの頃、何度も通った道を懐かしみながら歩いた。
家の前で少し深呼吸をして、インターホンを押す。
「…あら、倫太郎くん!久しぶりねー!」
「お久しぶりです。(名前)居ますか?」
「(名前)、友達と遊びに行くって出て行っちゃって。連絡してみようか?」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
…(名前)、俺以外の奴と遊んでるのか。
分かってた事だけど、少し嫉妬する。
夕方くらいになったら帰ってくるかな。
俺は夕方また(名前)の家の近くまで行ってみようと、実家に帰った。
夕方、と言うより陽が落ちすぎて最早夜に近くなってきた頃。
「…やべ、寝過ぎた」
昼寝から目覚めた俺は、軽く顔を洗って再度(名前)の家へ訪れ、インターホンを押した。
昼のインターホンの時より少し時間が空いてから玄関が開いた。
夕飯の支度をしているのだろうか。ごま油の匂いが外に漏れ出す。
「倫太郎くん!また来てくれてありがとう」
「すみません、一日に何度も。スマホ壊れちゃってて(名前)と連絡できなくて」
「大変ねー!今(名前)呼んでくるから待っててね」
俺は嘘をついた。
連絡できないのは本当だが、スマホは壊れてない。
馬鹿正直に、(名前)に着拒されててーなんて言ったら(名前)のお母さんは驚くだろうし、あまり俺たち二人を知ってる人にその事は伝えたくなかった。
…(名前)は出てきてくれるのだろうか。
着信拒否をするほど俺のことが嫌いになったのだから、きっと出てきてはくれないだろうな。
「倫太郎くんごめんね。なんか(名前)体調悪いから無理って言ってて…」
「あ、そうなんですね。大丈夫です」
これも嘘。
覚悟はしていたが、正直全然大丈夫じゃない。
「せっかくきてくれたのに、本当にごめんなさいね」
「…明日も、来てもいいですか」
「もちろん!待ってるね」
「ありがとうございます」
お礼を言った後、俺は(名前)の家の通りにあるコンビニに寄った。
中学の頃、ちょうどこのくらいの時期だったっけ。
俺らは毎年遊んだ後に、このコンビニ前にあるベンチでアイスを食べていた。
俺がチューペットで、(名前)はパピコ。
二人ともそれを半分に割って、お互いに分け合っていた。
「…懐かし」
思い出に微笑みながら、俺はチューペットを買って、また帰路に着いた。
癖で半分に割ってしまったチューペットに想いを馳せながら。
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