ーーーーー世界に平和が訪れて数十年後ーー
「それでは、お次の…おお、勇者様!ご健在で何よりです!戦士様と魔法使い様の鎮魂式に参加していただきありがとうございます!」
「ああ、気にしないで…彼らは僕の友達だし。」
重く曲がった腰とよろけそうな足を杖で支えながら、僕は彼らの2つに並べられた棺の前に立つ。
「…まさか、最後に残されるのが僕とはね…。君たちはまだ幸せに生きると思ってたよ。」
彼らの棺の周りは多くの花で埋められてある。おそらく、参列者が花を置いていっているのだろう。
かくいう僕も花をそこに添える。
紫の艶やかな色を持つその花は、他の花にも見劣りしなく美しい。
紫苑ーー僕の好きな花だ。
「それにしてもほんとに仲良いよね…同じ場所で同じタイミングで亡くなるとか…まあ、君たちならそうなりそうだと思ってたけど。」
僕はポケットからペンダントを取り出して、彼らの棺の間に置いた。
ポケットから取り出す時に見た自分の手が老いを改めて感じさせている。
「はい、忘れ物。家の中に置かれてたよ…
『色褪せぬ愛』…か。全く、幸せでなによりだよ。」
僕は棺に背を向けて静かにその場を去ろうとする。
「勇者様、もうよろしいのですか?」
「ああ、必要なことはしたから。僕らの中で別れの挨拶なんて似合わないしね。」
さて、僕もそろそろ荷物の整理しとかないとな。
「ごほっ…自分の体のことは自分が一番分かってるし…。」
「これも必要ないし…あと、これもかな。
……ん?」
ふと、荷物整理をしていると、ボロボロの手記を見つけた。
いつの間にか荷物の中に入っていたのだろうか?
「誰かの落とし物を拾っていたのかな?」
中を開いてみると、そこには…
「…………。」
ああ、そうだ。あの日、あの時…この手記を拾ってずっと大事に持ってたんだったな…
こんな大切なもののことまで忘れてしまうなんて…やっぱり年か。
パタリと閉じて、アタッシュケースの中に大切にしまった。
「さて、これで全部か…こう見ると、何もない部屋というのは寂しいものだね…。」
僕が今泊まっている宿はかつての仲間達と談笑した場でもある。
あの棚のスペースを取り合って彼女と喧嘩したんだっけ…あ、この掛け時計…確か戦士が壊して、魔法使いが直したんだよね。
思い出そうとすれば、その大切な思い出が走馬灯のように次々と思い出される。
きっと他の何かをいくら忘れようとも、彼らと過ごした時間を僕は完全に忘れることはないだろう。
「…あとは死ぬのを待つだけかな。」
僕はケースを持って街を歩き回る。
宿を出ると、街はいつものように賑わっていた。
この日常を守ることができて嬉しい…なんてことを思う事はない。
ただ…そこには1人であるという虚しさだけが残っている。
「こんな事を言ったら勇者失格かな…ははは…」
『本当ですよ、貴方はもっとしっかりしてください!』
「…っ!!」
「えー、ごめんってばー!今度はちゃんと慎重にいくから…」
「もう…!早くギルドに行きますよ!」
「………はは、懐かしい…ほんとうに。」
女性の冒険者2人が僕の横を通り過ぎたあと、今はないあの頃の思い出を懐かしみながら僕は街を出た。
まだ昼だが、祝福をするかのように陽はでている。
まるで、初めて4人で旅に出た時のように…
「…もう一度、あの場所に行ってみようかな。」
そう呟いて、僕は思い足取りを進めていった。
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