ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。『蒼き怪鳥』関連の計略を進める傍ら、私は『暁』の主要な資金源である農園の更なる拡大とそれに伴う増収を図ります。
「ロウ」
「これはお嬢様」
ここは農園の中心地『大樹』の根元、ルミのお墓の前です。ルミとの時間を過ごして戻ろうとしていると、ロウを見かけたので声をかけました。
「お参りですかな?ルミちゃんも喜んでいるでしょう」
「そうだと良いのですが」
余程の事がない限りルミの墓参りは毎日の日課にしています。つまり、基本私は農園に毎日顔を出していることになりますね。
「時にロウ、相談があるのですが」
「何なりと、お嬢様」
「『暁』の更なる躍進のため資金は必要不可欠。更なる収入増加を図らなければなりません。農園の現状は?」
「はっ、人員をやりくりして何とか。しかしながらお嬢様、更なる収入増加つまり農園の拡大となれば人手が全く足りませぬ」
「人員が足りないと。またマーサさんに紹介して貰いますか」
「それだけではなく、これ以上の生産増加に『ターラン商会』が難色を示しているのでございます。曰く、希少性が失われると単価が下がる」
「むっ、それはそうですが」
確かに今は質の良さと希少性によって高値で売れていますが、数が増えれば値段も下がる。道理です。
かといって私達には貴族や皇室に販路なんて無いので、今は『ターラン商会』に頼るしかない。その『ターラン商会』が難色を示しているとなると、安易に増産するわけには…。
「増収を目指すならば、別の道を探すしかありません。お嬢様、何か妙案がございますか?」
「薬草園の方は?」
「そちらは安定して生産できております。いつでも量を揃えて出荷出来ます」
「ふむ」
まあ、薬草についてはアルカディア帝国相手にしか需要はないし、交易を本格的に始めるまでお金になりません。
…んー。
その日の夜、私は自室でベッドに腰掛けて本を読んでいます。ちなみに、パジャマはネグリジェです。通気性と動きやすさ優先です。あっ、どうでも良いですね。ふぁっく。
「んー」
そして私が読んでいるのは、ライデン社の会長が出版している『帝国の未来』。そこには到底理解できない様々な技術やそれによって産み出される製品が網羅されています。ただ、どれも帝国で今すぐに実現するとは到底思えないんですが…。
……それにしても、この本の紙つるつるしてるし真っ白で綺麗。本も分厚くないし、一体どんな皮を使ってるのかな。
……んん?
「紙の作り方…?」
目次のひとつにあるその単語が妙に気になりました。私はそのページを開いてみると…はぇ!?
「動物の毛皮を…使わない紙…!?」
当たり前ですが、帝国で普及している紙は羊皮紙。つまり動物の皮から作られます。頑丈なのですが分厚くて嵩張るし何より高価なんです。『暁』だってよっぽど重要なこと以外は木札に書き込んでいるくらいですからね。これ、新しい商材にならないかな?仮に売れなくてもこんな紙がたくさんあれば何かと便利です。
……ふむ、製法も簡単な記述がありますし……やってみようかな?
翌日、早速試作してみることにしました。材料は植物ならば良いと言うので、取り敢えず農園に自生した木の皮を剥いで使うことにします。
本によると植物紙を作る工程は、『植物繊維を取り出す。紙をすく。脱水・乾燥する』の三点だとか。やり方も簡単に記述されているので、まずはやってみます。
「木の皮を茹でます」
ぐつぐつ。お鍋は使っていないものを使用。
「十分に温めたら、出てきた繊維をすく」
四角い型を用意して、網を使ってゆらゆらこしこしやってみます。
「充分にすいたら、脱水して乾かすと」
型から取り出した紙?を…うん、取り敢えず日向に放置してみますか。
しばらく後。
「おぉ…」
不格好でごわごわしてボロボロですが、これはまさしくあの本に使われている紙!ごわごわしているのは、工程が未熟だから。ならば試行錯誤あるのみ。答えは手元にあるのです。工程を工夫すれば同じものが作り出せる筈!それに、乾かすだけなら魔石を使えば時間短縮を図れます!
「ふぉぉーー」
「おい、なんだあれ?」
よう、ベルモンドだ。何かお嬢が急に木の皮を集めたと思ったら良く分からねぇことをやり始めた。突拍子もないことをやるのは珍しくもないんだが…。
「またシャーリィが何かを思い付いたのかもしれません。緊急性のある案件もありませんから、今は自由にさせてあげてください」
「あいよ、シスター」
まっ、シスターの言うように見守るだけにしとくか。危ないことしたら止めるがな。
そして、夜。お嬢は食事以外ずっと工房に籠ってる。何を熱中してんのか。
「ベルモンド殿、お嬢様は?」
「よう、旦那。相変わらずさ」
「ふむ、夜も更ける。これ以上はお身体に障ります。どれ、私が進言しましょう」
セレスティンの旦那が工房に近寄る。
「お嬢様、セレスティンでございます。間も無く夜も更ける頃合い、ご無理をなされてはお身体に障ります」
…。
何の反応もないな。まさか!
「お嬢様?……失礼致します」
旦那も同じことを思ったんだろうな。直ぐにドアを開けて俺達は工房に駆け込んだ。
「くぅー……すぅー……」
「何だ、寝てただけかよ。心臓に悪い」
お嬢は作業台に突っ伏して眠ってたよ。こう見ると、年相応に見えるな。
「このままではお風邪を召されます。ささ、爺めがお部屋に」
「待てよ、旦那。力仕事は若い奴に任せるもんだ。俺がやるよ」
「貴殿ならばお嬢様のお身体に触れても問題はありませんな。では、ここは若いものに…む。」
「どうした?……なんだこりゃ、紙…か…?」
作業台には真っ白で薄い紙みたいなのがたくさん散らばっていた。これ、紙なのか?
「羊皮紙ではありませんな。それよりも薄くて軽い。まさかお嬢様はこれを…」
「マジかよ、新しい紙を作ったってのか?」
「さすがはお嬢様、上手くいけば…いや、それは我らが考えることではありませんな」
「だな。今はお姫様を部屋に連れていくか」
全く大したもんだよ。昼間からの行動から察するに、この紙の原料はその辺の木だ。こりゃ革命が起きるぜ、全く。本当に十四歳かよ。
眠ってるシャーリィを優しく抱き抱えながらベルモンドは感心しつつため息を吐くのだった。
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