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「鬼さんこちら」
特殊刑事課、節分ほのぼのネタ
「いいかー!ちゃんと片目つぶって狙うんだぞー。3、2、1、撃て!」
本署地下ガレージの中、つぼ浦の大声がこだまする。直後に甲高く可愛らしい子どもたちの歓声が響く。
今日はロスサントスの子供向けの職場見学体験の日だ。朝から黄色い帽子に黄色いバッグ、水色のスモックを着た幼稚園児たちが署内の各所でおまわりさんに引率されている。
しかし警察署は遊園地のようなバリアフリーで子供自由なアトラクションではない。安全管理、動線管理、え、トイレに行きたい?漏らした?!そんな管理まで、人手がいくらあっても足りない。そのため末端の特殊刑事課にも声がかかり、意外にも子供の面倒見がいいつぼ浦も先生役を務めていた。
任されたアトラクション……もといおしごと体験は、シューティング。子どもたちの手に握られた小さな水鉄砲が、つぼ浦の号令とともに2m先に的として用意された人型のシューティングターゲットに当たったり当たらなかったりしている。
「お、ヘッショか。やるな、お前にはこれをやるぞ」
飛び交う水しぶきの中でもちゃんと的の頭に当てた子供を見抜き、つぼ浦はポケットからアメを出して渡す。
「いいなー!」
「ヘッショってなにー?」
「ア?勉強熱心でいいことだな。一発で敵がダウンする弱点があってな、」
「やめなさいつぼつぼ」
横で様子を見ていたキャップが強めにつぼ浦の後頭部を叩く。
「なんでですか、将来有望じゃないですか!」
「変なことを教えるんじゃない!!」
「せんせー、みずなくなったー!」
「はいはい、貸してごらん。こっちと交換しようね」
キャップが満タンの水鉄砲を渡す。キャップも意外と子供の面倒見がいい。最初こそグラサンネコミミメイド服は恐れられたが、グラサンアロハシャツ足にいっぱい絵が描いてあるお兄さんと並ぶと逆に遊園地のマスコットとみなされたのか、すぐに子どもたちに囲まれた。
「しかしまさかお前が子供の扱いが上手いとは思わなかったぞ」
そういうキャップの足は子供に引っこ抜かれてすね毛がパッチワークになっている。
「キャップも、子供って恐怖心ってものがないらしいですね」
答えるつぼ浦の足はさらにゴキゲンな絵が書き足されている。しかも油性マジックで。
「あ?!どういうことだ」
「どうもこうもないっすよ。……お、テメーもヘッショか!いいぜ、くれてやる」
ちっちゃな手にアメを握らせるつぼ浦の後ろでキャップは口から出かけた文句をなんとか飲み込む。
「ガキどもわかったか?おまわりさんは、毎日こうやってワルモノをぶち抜いてロスサントスの平和を守ってるんだぞ」
「みずでたおすの?」
「んや、本当はこうだ」
「イデデデデデ?!つ、つぼつぼお前ッ!!」
ノータイムで隣に立っていたキャップにテーザー銃をぶちかます。打ち上げられた鯉のように地面でビチビチするキャップのことを子どもたちはキャッキャと囃し立てる。
「お、つぼつぼくんも真面目にやってんじゃーん」
ヘリの乗車体験を終えた青井が地下出口から近づいてきた。ガレージの入口からたまに署長やミンドリーが邪魔にならない程度に心配そうに見ていることには気づいていたが、青井は平気でつぼ浦の横に来て子供用水鉄砲を興味深そうに見ている。
横に上官がいる中で行う新人研修ほど気が滅入るものはない。つぼ浦はノンデリな先輩を追い払うために一計を案じた。
「そうだ、オイガキども、節分って知ってるか?」
「せつぶん?」
「なにそれー」
「オレしってるぞ、まめまくやつ!」
気の強そうな男の子がぴょんぴょんジャンプしながら手を挙げる。
「正解だ、やるなお前」
「まめでオニたおすんでしょ?」
「おにー?」
「しらなーい」
「チッ、最近のガキは知らねぇのか。ほら、こういうのがオニだ、ワルモノだ」
つぼ浦はスマホで検索して鬼の画像を見せる。2本のツノに虎柄のズボンに金棒を持った、怖そうな顔の典型的な鬼の絵だ。
「お前何見せてんの?……ん?」
つぼ浦のスマホを覗き込んだ青井が固まる。そこに映っていたのは、
「オイガキども、鬼ってのは青くて?ツノがあって??」
「あ!」
「おにだー!!」
無数の水鉄砲の銃口が青井に向けられる。鬼のヘルメットの下で青井は息を飲む。
「つぼ浦おまっ、節分の鬼って普通は赤鬼だろ……わー?!」
「逃げる敵に当てられたら一人前だぞ!やっちまえ!!」
青鬼の絵が映し出されるスマホを印籠のように突きつけて子どもたちを煽りたてる。すぐさま黄色い声が青井を追いかけ回す。
濡れたくはないが子どもたちを怪我させるわけにもいかない。青井はゆっくりガレージを走り回りながらつぼ浦に向けて中指を立てる。つぼ浦も丁寧に中指で返す。
「おにー!!」
「にげられないぞー!」
そうこうするうちにガレージの端っこに追い詰められ、青井は両手を上げる。そして鬼のヘルメットを脱ぎ捨てた。
「待って待って、みんな思い出して。鬼さんってどんな格好だっけ?」
突然現れたイケメンがそんな事を言いだした。子どもたちはきょとんとしてから口々に声を上げる。
「ツノー」
「つのー!」
「あとは?」
「ぱんつ!オニのぱんつ!」
「かおこわいー!」
「オレしってる、かなぼうもってる!!」
青井はおもむろにつぼ浦を指差す。半ズボンで、背中に金属の棒を背負っていて、怖い顔のつぼ浦がきょとんとしている。
「やっちゃえ!」
青井の号令で目を輝かせた子どもたちが水鉄砲片手につぼ浦めがけて突進する。
「なんでだ?!お、鬼は俺じゃねぇだろ!やめろぉ!」
「なんで私も……ギニャーーッ?!」
黄色いひよっこたちに囲まれて逃げ惑う二人を見て青井は腹を抱えて爆笑した。
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めっちゃ良い……🥰心があったかくなりました。ほのぼの助かります🙏
