テラーノベル
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眩しさを感じて目を開ける。
青年はゆっくりと上体を起こし、辺りを見回した。
背の高い木々が見える。森の中のようだ。ただ、彼が倒れていた場所だけがポッカリと開けており、天上から光が差し込んでいた。
暖かな日差しに包まれながら、視線を下に落とした。
身につけている服はボロボロだ。
すぐ近くに剣が落ちている。刃こぼれのない鋭い刀身が、差し込む光を反射している。
立ち上がろうとしたところで痛みを感じた。
手腕に、切り傷や軽い火傷の痕があった。
(さっきまで何かと戦っていた?)
思いだそうとした瞬間、頭に激痛が走った。
(いったい何が……?)
彼は痛みを堪えながら、ゆっくりと立ち上がった。
ここはどこで、何をしているのか。
事情を知る者がいないか探そうと思った、そのとき。
「きゃあああああ!」
女性の悲鳴が聞こえた。
青年は、はっとして声の方を向いた。場所は近そうだ。
彼は地べたにあった剣を拾い、駆けだした。
木々の間を縫うように走り抜けた先で、女性を見つけた。
十代後半の少女だ。
彼女は地面にへたり込み、怯えている。
彼女の前には、巨大な化け物がいた。
巨木のような体躯で、全身が分厚い茶色の毛皮に覆われている。
人間のように二足歩行ではあるが、顔面は猪だ。
ヨダレを垂らし、豚鼻からは荒い鼻息が吹きだしている。
手には石で作ったような斧が握られており、それが地面にめり込んでいた。
猪面の化け物は、石斧を引き抜き、振り上げた。
少女は腰を抜かしているようで、動けないでいる。
刹那、青年はさらに加速した。
「ひっ──」
少女が悲鳴を上げかけたそのとき。
ガキィン、という音が響いた。
少女の前に躍りでた青年が、化け物の斧を受け止めたのだ。
「え、え?」
少女は突然のことに混乱しているようだ。
青年は構わず、鍔迫り合いの状態から、一気に押し返した。
青年の二倍以上もある化け物だったが、彼の力に圧倒されて後方によろめいた。
青年は剣を構え直す。
そして一気に化け物との距離を詰め、一閃。
次の瞬間、猪の首が宙を舞った。
首が地面に落ちる。
その顔面は、何が起こったのか理解できないのか、目を見開いた状態になっていた。数刻、目や口が動いていたものの、やがてそれも止まった。
同時に、首を失った胴体は仰向けに倒れた。
化け物が絶命したのを確認し、青年は振り返った。
少女は呆然としていた。
「大丈夫ですか?」
青年が尋ねると、少女ははっとした表情になった。
「あ、ありがとうございます!」
彼女は立ち上がり、頭を下げた。
「おかげで助かりました……。こんなところで魔物に遭遇するなんて、今までなかったのに……」
「ここはどこなんですか?」
青年が尋ねると、少女は不思議そうに小首を傾げた。
肩にかかるくらいの緑色の髪がふわりと揺れる。
「ここはアルヒ村の東にある森ですよ」
アルヒ村。
その言葉を聞いた瞬間、また頭に痛みが生じた。
「あの……」
少女はおずおずと言う。
「お礼をしたいので、村に寄っていきませんか?」
青年は即答できなかった。
お礼をされるほどのことはしていないと思ったからだ。
しかし無下に断るのも躊躇われた。現在の状況が何一つわからない今、村で話を聞いたほうがいいかもしれない。
青年は迷った末に頷いた。
「それでは、ぜひ」
「良かった! それでは案内しますね!」
彼女は胸に手を当てて言った。
「あたしはタニアと申します」
タニアと名乗った少女は、キラキラした目をこちらに向けてきた。
青年の名前を聞きたいのだろう。
その意図を汲み、青年は名乗ろうとした。
しかしそこで、はたと気づく。
(俺の名前は……何だ?)
青年は、自身の名前すら思いだせないのだった。
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