昼下がりの灰色の空が街を覆っていた。風は湿っていて、車のエンジン音が響いてくる。オフィスビルの間を歩く人々は、誰もが忙しそうに見えた。普通の一日、普通の街。しかし、「能力者刈り」は、静かに、その街を支配していた。
僕はその「刈り手」の一員として、ある意味、普通に見える生活を送っている。でも、本当は違う。僕の中に隠されている力が、もしバレたら、僕は即座に消されることになるだろう。だからこそ、僕は全力でそれを隠し続けている。
「いってきます」僕は無感情に呟き、オフィスビルのドアを開けた。冷たい空気が一瞬、体を包み込む。外に出ると、視界の隅で人影がひときわ目を引いた。目立つことはないが、その足取りには何か不安げなものが感じられる。ターゲットだ。目を細めて確認する。能力者だ。
彼の名前は「佐藤俊介」。数日前に情報が入り、能力者だと判明している。ただし、彼の能力は目立つものではない。見逃すこともできたはずだが、組織はもう容赦しない。粛清しなければならないのだ。
「佐藤君、ちょっといい?」僕は通りすがりのふりをして声をかける。
佐藤は振り返り、少し驚いた様子を見せるが、すぐに表情を緩める。「あ、はい。どうしたんですか?」
その反応が少し、僕には不自然に感じられた。警戒している。能力者はみんな、何かしら気配を感じ取る。僕もだ。だが、今はそれを隠しながら、次の行動に移さなければならない。
「君、最近あまり元気ないみたいだね。何かあった?」僕は淡々と、彼の目を見ながら言った。
彼はためらった後ため息をついた。「最近、ちょっと不安で。前に聞いたことのある噂なんですが、能力者の人たちが次々と…」
「まあ、噂は噂だよ。気にするな。」僕は言葉を遮る。「でも、困ったことがあったら、相談してくれよ。いつでも力になるから。」
僕は適当な微笑を浮かべる。彼は少し安心したように見えた。でも、それは僕がただの「良い人」に見せかけているだけに過ぎない。僕は彼を、黙って見守っていた。能力者を刈る仕事において、感情は邪魔だ。冷静に、必要なことをして、次に進むだけだ。
そして、数分後、ようやくチャンスが訪れる。佐藤が駅の方へ歩き出すと、僕は一歩踏み出す。その足音が微かに響くが、足元はまるで音を立てずに滑るように進んでいく。僕の能力だ。佐藤にはそれが見えないだろう。しかし、僕が最初に仕掛ければ、彼は気づかない。
「佐藤君」再び声をかけ、僕は自分の手のひらを軽く振った。能力が働き、周囲の空気が一瞬、静まり返る。
「え?」佐藤が振り向く前に、僕はその背後に回り込み、彼の首を一気に掴んだ。
「ごめんね。」僕は静かに言った。彼は驚きの表情を浮かべたが、すぐに動けなくなる。能力を使って、神経を一時的に封じたのだ。
「君を見逃すわけにはいかないんだ。僕だって、やりたくない。でも、これが仕事なんだ。」僕は冷静に言いながら、彼をその場に倒す。
その瞬間、僕は心が痛んだ。しかし、すぐにその思考を切り替える。感情を抱く余裕はない。任務は達成しなければならない。
警察の車両が遠くでサイレンを鳴らす音が聞こえる。僕は佐藤の体を迅速に隠し、周囲の状況を再確認する。能力者刈り。これが僕の日常だ。
だが、この仕事が終わったとしても、次は誰だろう?それを考える暇もなく、僕は再び街の中に溶け込んでいった。
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