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「それでですね~、あの時は私の知らない食材ばかりが売られてまして~」
「ああ……うん」
「それでお腹を痛めさせてしまったという訳なんですよ~! 決して私の腕が落ちたわけではなくて……って、聞いてますかっ?」
「聞いてるよ。ルティは本当に料理が好きなんだな、と思って」
「それはもちろんですよ~! だって、ゆくゆくは旦那様となるアック様だけに~」
おれの嫁になるという話は本気だったのか?
てっきりルシナさんやドワーフの親父さんの願望だとばかり思っていたのに。
「そうか。それはもっと精進しないとな」
「と、とととと、ところで……今夜はご一緒にね、ねねね寝て頂いてもよろしいでしょうかっ?」
「……そうだな、たまにはいいかもな。苦労させているし、痛い目にも遭わせてしまっているからな……」
「ふっふおおおぉぉぉぉ!!」
この娘はどうしてこんななんだ?
「よせ、騒ぐな! 静かにな……」
「はいっっ! お慕いしていますです、アック様……」
ルティシア・テクスとは、あのSランクパーティーたちにやられていなければ出会えていなかった。そんな彼女のおかげで力が上がり、いつの間にか彼女よりも強くなれた。
回復魔法は使えないが、錬金術に長けているし料理で役立っている。この娘《こ》のおかげでここまで来られたといっても過言じゃない。色々問題を起こすが、刺激を与えてくれるという意味ではそれも可愛い方だ。そういう意味でもたまには添い寝をするというのも悪くない。
そう軽く考えていたが、
「んんんっ、アック様……」
「うぐぐぐ……な、なんて力だ……」
赤毛のルティに抱きしめられているが、予想通りの力が半端ない。黙っていれば同い年の女の子で可愛い寝姿なのに、裏切らないなこの娘は。
◇◇
「アック様、朝ですよ~! さぁさぁ、起きて下さい~」
「う……んん。ル、ルティか。お前、それは何だ?」
「目覚めの一杯に、これをさぁ、グイッと!!」
またいつものパターンなのか。
「んぐっんごっ――……」
「これでどんなに強い魔物が襲って来ても、アック様なら問題ありませんっ!」
「ごきゅっ……ゲホゲホッ。あ、熱すぎるぞ。これは何だ?」
「特製ミルクですよ~! これでアック様の体力は、減ることを知らなくなりますよ!」
無限の体力とはこれはまたすごいな。なるほど。これは確かにおれ専用の効果効能のようだ。
◇
「ウニャ? アック! 朝になっていたのだ?」
「シーニャ、口の周りとヒゲにも肉が付いているぞ? ほら……」
「フニャウゥ」
どれだけ肉を食べ続けていたのか、山盛りの鹿肉は見事に消えていた。
「アックさま、おはようございますわ! ウフフッ、昨夜はどうでしたかしら?」
「な、何も無いぞ」
「そうかしらね。そうそう、小娘の機嫌は良くなりましたわ」
ミルシェには何もかもお見通しのようだ。そしてフィーサが、もじもじしながらおれにようやく姿を見せた。
「イスティさま……」
「元気出たか?」
「う、うん。イスティさまの為に頑張るね!」
「ああ、頼む」
ミルシェのおかげか、フィーサの機嫌が良くなったように見える。不機嫌になった理由については、後でミルシェに聞くことにしよう。
「アックさま、いよいよですわね。滅亡公国へ行かれるのですわね?」
「そうだな。まぁ、魔物がどれくらいいても問題は無いだろうけどな。ミルシェの防御魔法でルティたちを頼むことになるだろうし、戦いの連続になると思うが大丈夫か?」
「当然ですわ! フフフッ、アックさまの元に戻れただけでも嬉しくてたまりませんもの! あたしの全てを、アックさまの為に捧げますわ!」
深い意味は無いだろうが、どうやらかなりやる気を出している。ルティ、シーニャの準備も万端のようで、おれたちは意を決して宿を出た。
外に出ると昨日とは打って変わり、街の賑わいを目の当たりにした。おれたちのことを物珍しく見る住民はいなく、むしろ頭を下げられたりして反応に困るほどに。
「アック、ここだ! 待っていたぞ! ここから途中までは、我ら白狼騎士団が護衛がてら案内をする」
街の雪山トンネル手前で、ルーヴ率いる白狼騎士団の面々がおれたちを出迎えた。ガチャで出した真新しい装備を着ていて、誇らしげに立っている。
「ふふん、随分と印象が変わりましたわね」
「そうだな。レベル的には高くないが、彼らにとっては……」
「そうではなく、アックさまのことですわ。何だかとてもお優しくなった感じがしますわ」
「おれが? それはミルシェの気のせいだと思うが」
「まぁいいですわ。どんなであれ、故郷に行く前にいがみ合うことは望ましくありませんもの。王国でのいざこざを見てきたからこそ、分かるものですわね」
ミルシェも水棲怪物の時よりもだいぶ穏やかになった。イデアベルクで国づくりをするには、彼女の力がきっと必要になるはずだ。まずは公国に戻る――今はそれだけを考えて進む。
それだけだ。