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____jnt____
身体が、バラバラに壊れてしまったみたいだ。
意識が戻った時、最初に感じたのは、カーテンの隙間から漏れる朝日でも、小鳥のさえずりでもない。
身体の奥深くに残るズキズキとした鈍い痛みと、鼻を突くラブホテル特有のあの不潔な静寂だった。
…あぁ。
俺、勇斗とヤったんだ。
真っ暗な部屋の中で、あいつはまるで俺を憎んでいるみたいな強さで抱いてきた。
あんなに熱くて、必死で、それでいてどこか泣きそうな気配をさせて。
あいつは正義感から俺を連れ出したはずなのに、結局最後には俺を汚す側に回った。
それが、どうしようもなく滑稽で、悲しかった。
…お前までこっち側に来なくてよかったのに。
横を見ると、勇斗はまだ眠っていた。
眉間に皺を寄せて、何か苦しい夢でも見ているみたいに。
学校でのあいつは、もっと余裕があって、誰からも好かれる快活な奴なのに。
今のあいつは、ただの傷ついた子供みたいに見える。
俺はそっとベッドを抜け出した。
床に散らばった服を拾い上げ、一つずつ身に纏う。
昨夜の行為の痕跡が、肌の上でじくじくと疼くけれど、そんなのいつものことだ。
ただ、相手が勇斗だったっていう、その事実だけが胸の奥をチリチリと焼く。
カバンからタバコを取り出した。
…。
…やめよ、
別に好きでもないし、
こいつも嫌がるだろうし、
なんとなく、この部屋で吸ったら、あいつの綺麗な部分を本当に全部壊してしまうような気がしたから。
俺はサイドテーブルに一万円札を一枚置いた。
「俺にもヤらせろ」って言った勇斗への俺なりの皮肉だ。
お買い上げ、ありがとうございました。
心の中でそう呟いて、俺は一度も振り返らずに部屋を出た。
家に戻って、熱いシャワーを浴びる。
勇斗の匂いを、あいつの感触を、全部排水溝に流し込む。
鏡を見ると、首筋や胸元に、昨夜の男たちよりもずっと生々しい痕が残っていた。
最悪…見えるとこに付けんなよ
俺はそれをコンシーラーで丁寧に隠し、制服に袖を通す。
ネクタイを締め、髪を整え、最後にあのお決まりの「仮面」を装着する。
「よし」
口角を上げて、優しそうな、人畜無害な吉田仁人の出来上がりだ。
学校に行けば、またいつもの日常が待っている。
あんなことがあっても、世界は何事もなかったかのように回る。
それが、この世で一番残酷で、一番救いのある真実だ。
登校すると、教室はいつも通り騒がしかった。
俺が席に着くなり、隣のクラスの女子が「吉田くん、おはよう!」と声をかけてくる。
「おはよう」
俺はいつものトーンで返す。
昨夜、暗闇の中で勇斗に組み敷かれていた俺なんて、ここには一欠片も存在していない。
女子たちが楽しそうに週末の予定を話しているのを、俺は「へぇ、楽しそうだね」なんて微笑みながら聞く。
心の中は相変わらず空っぽだ。
でも、この空っぽな器を「優しさ」っていう綺麗な包装紙で包んでおけば、誰も中身の汚れなんて気にしない。
しばらくして、教室のドアが開いた。
…きた。
あいつは俺と目が合った瞬間、一瞬だけ幽霊でも見たみたいな顔をして立ち止まった。
俺はあえて自分から、最大限の笑顔を作って手を振った。
「あ、勇斗。おはよう。今日も相変わらず眠そうな顔してんね」
勇斗は、絶句していた。
あんなことがあったのに、どうしてそんなに普通でいられるんだ、って。
その顔に書いてある。
…甘いんだよ、勇斗。
俺にとって、身体なんてただの肉の塊でしかない。
心が死んでれば、何をされたって「なかったこと」にできるんだ。
勇斗は何も答えず、逃げるように自分の席に座った。
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その背中が、小刻みに震えているのが見えた。
俺は、少しだけ胸が痛んだような気がしたけれど、すぐにそれを無視した。
あ〜あ…死んだら終われんのに。
いつもの口癖が脳裏をよぎる。
俺がどれだけ普通を演じても、俺の中身はもう元には戻らない。
汚れきって、澱んで、救いようのないゴミだ。
そんな俺に、勇斗みたいな光り輝く奴が関わっちゃいけないんだよ。
to be continued…