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凍ったばななとビスコ
──と、その時。
「ふふっ……」
腕の中から、突然そんな声が聞こえて思わず下を見る。完全に寝ていたはずの洸くんが、口元を手で隠しながら、いたずらっぽくふふっと吹き出していた。
「あ、寝たふりやったな?」
「ううん、あらたせんせが耳元で『よっこいしょ』って言うから……くすぐったくて」
一度ツボに入ってしまったのか、笑いが止まらなくなっている。寝てると思ってたから、気の抜けた「よっこいしょ」を聞かれて無性に恥ずかしい。
「もう、酔っ払いはこのままベッドに連行です」
「……でも、あらたせんせのベッドに、俺のお酒の匂いつくで?」
「ええよ、別に。俺もたまに飲んでそのまま寝ることあるし」
そう言って、洸くんをそっとベッドに寝かせる。
「……お疲れ様。ゆっくりおやすみ」
「ん、じゃあ今日頑張ったご褒美は?」
もしかして、さっき「無許可のキス禁止令」を出したから、許可ありキスの催促をしてるんやろか。でも、俺はあらたせんせやから! 洸くんにそこだけはきつく教育せなあかん係やから!
「……家族の範囲のことやったら、やってあげるよ?」
「じゃあ、俺が寝るまで手握って?」
「……まぁ、それなら大丈夫」
意外な可愛いご褒美に、少し拍子抜けする。今までの洸くんなら、もっと密着度の高いものを要求してくるんやと思ってた。
「あらたせんせの手、めちゃくちゃ安心する。……今日な、俺の企画が通ってコンペ勝ったんよ。職場の女の子にも、お祝いさせてって家に誘われたし」
胸の奥が、また少しだけツンと疼いた。本当に、俺の知らないところでこの子はどんどんモテる男になっていく。──いや、きっと、今に始まったことじゃない。恋愛に対していつもどこか少し余裕があるように見えるから、俺の知らん所で、小さい頃からずっとこうやってモテてきてたんやろな。
そんな俺の微かな動揺を、見逃さないように。
洸くんは、暗がりの中で不敵に小さく笑った。
「先輩に捕まったのは予定外やったけど、めっちゃ酔っ払いながらも、褒めてほしくてあらたせんせの所来てん。偉いやろ?」
──その瞬間、急に触られていた手をグッと引っ張られて、ベッドの上に引き入れられた。
さっきまで酔ってフニャフニャやったのに、どこにそんな力残っててん……!
「……洸くん? 俺らまだ、」
「わかってる。家族の範囲やろ? やから、子供の時みたいに、隣で一緒に寝てよ、あらたせんせ」
ぎゅう、と俺の腰に回された腕に、強い力がこもる。ビジネスシャツ越しに伝わってくる彼の胸板の厚みや、首筋から漂う熱いお酒の色気に、ドクンと心臓が跳ねた。
「……会社でも実家でも誰にも甘えられへん。俺が甘えられるのはあらたせんせだけやから」
どこか熱を帯びた男のトーンで、俺をまっすぐに追い詰めてくる。
かつての「可愛い洸くん」の面影を、完全に大人の色気で上書きしていく姿に──俺は今日もただただ、彼にオトされていく。
「……ほんま、いつまでも甘えん坊やな」
俺は空いている方の手で、彼の柔らかい黒髪を、今度は半分降伏を認めるようにゆっくりと優しく撫でた。
「明日、朝起きるまで……ずっと、このままで寝ていい?」
そう言って満足そうに口元を緩めると、洸くんは俺の腰に腕をがっちりと絡めたまま、すうっと深い眠りに落ちて、規則正しい寝息を立て始めた。
「……ほんま、相変わらず……好きにさせんの、上手いんやから」
身動きの取れないベッドの上で、俺は赤くなった自分の顔を隠すように、彼の胸元で小さくため息をついた。
コメント
1件
うわあ、12話、めっちゃ良かったです……! 洸くん、寝たふりしてたんや(笑)「よっこいしょ」で笑い出したとこ、可愛すぎて胸がきゅってなりました。それに「家族の範囲」って自分に言い聞かせながら、しっかりオトされてくあらた先生の心境がじわじわ来ますね……。 「甘えられるのは先輩だけ」って、あの男のトーンで言われたら、そら降伏せざるを得ないよなって思いました。静かな夜の甘い空気がすごく沁みる回でした🌙