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凍ったばななとビスコ
──そんな甘くて心臓に悪い夜が明けた、翌朝のこと。
「……え? あ、あらたせんせ、俺、なんで……っ!?」
隣でガタッと大きくベッドが揺れる音がして、目が覚めた。
カーテンの隙間から朝日の差し込むベッドの上。バッと跳ね起きた洸くんが、自分のシワシワになったビジネスシャツと俺の顔を交互に見つめながら、文字通りフリーズしていた。
「ふふっ、おはよう」
「お、おはようございます……じゃなくて! 俺、なんでここに……俺、なんか変な事しませんでしたか!?」
あまりの動揺にずっと敬語で喋り続ける洸くんがなんだか可愛らしくて、このままちょっと揶揄うのもええかもな、と俺の中の子供の心が疼いた。
「まぁ……一緒のベッドで寝てるって事は、それなりに……なぁ?」
「……嘘やん」
ガシガシと自分の髪を掻きむしり、絶望したような顔でベッドの上で悶絶し始める。
どうやら昨夜の甘い記憶が全く残っていないらしく、自分が一線を越えてしまったのではないかと本気で焦っているみたいや。
まぁ、昨夜ずっと洸くんに翻弄されっぱなしやったんは、俺の方やけどな?
彼の胸元で完全に降伏してしまった自分を思い出し、俺の顔までじわじわと熱くなってくる。それを必死で隠しながら、俺はなるべく平然とした声を装って枕から頭を上げた。
「うそうそ、なんもしてへんよ。ちゃんと服着てるやろ?頑張ったから褒めてって素直に俺に会いに来てくれただけ」
「……ほんまに? 俺、本能のままにあらたせんせに酷い事せえへんかった?」
……本能のままにって。それって、ほんまは手繋ぎどころじゃない事、普段は考えてるって事? 逆にあれだけ酔っ払ってて、よく抑えられたな。洸くん凄いわ。
「……してへんよ。ただ、ネクタイ外せへんくて、ずっとクリクリいじってたのは可愛かったな」
「うわ、はず……っ」
「ん、じゃあシャワー浴びてスッキリしといいで? 今日休みやろ?」
「……うん。シャワーの後、もうちょっとあらたせんせと一緒におっていい?」
「ん、もちろん」
少し恥ずかしそうにバスルームへ向かう彼の後ろ姿を見送る。
朝から洸くんがいる。そんな幸せな余韻を噛み締めていると、やがてシャワーの音が聞こえ出した。
別に、何もない。恋人でもないし、もちろん、そんな……本能のままになんて事、何も予定があるわけでも期待しているわけでも、ない。洸くんだって。
なのに、勝手に心臓が高鳴って、トクトクと大きな音を立て出す。そんなん、思春期の高校生でもあるまいし。
そんな気持ちを持てた自分が懐かしくて、恥ずかしくて、だけどどこか嬉しくて。誤魔化すようにベッドから抜け出し、キッチンで顔を洗う。洗面台でシャワーの音を間近で聞くのは流石に心臓に悪すぎると思ったから。
寝室に戻り、急いで着替えを済ませてリビングに戻ると、シャワーを浴び終えた洸くんがテーブルの上の俺のスマホを覗き込んでいた。それにしても、当たり前に俺のスウェットを着ているあたり、本当に愛おしくて胸がキュッとなる。
「……ん? 誰かから着信あった?」
「あ……いや、おとうからメッセージ」
「え、なんやろ。珍しいな」
いつも何かある時は空から連絡があるのに。すぐに手に取って確認しようとしたら、頭をタオルで拭いている洸くんと、至近距離でバチッと目が合った。
お風呂上がりの石鹸の匂いと、濡れた髪。前に泊まりに来た時も、この距離感に妙に意識してしまって逃げたんやったな。あかん、これはヤバい。心臓がドキドキする。
「……おとう、なんて?」
多分、洸くんも恥ずかしくなって、少し視線を泳がせて逃げた。なんか二人して初々しくて、妙に照れ臭い。
そっとそのメッセージを開く。
『洸の引越し祝いパーティーしたいから、料理一緒に作ってくれへん? 新にはサプライズで来て欲しいから、洸には内緒で』
……これは、ほんまに最悪なタイミングでメッセージが来たぞ。
空からならまだしも、元宮さんからや。俺の昔の気持ちを知っているから、洸くんも気が気じゃないはず。余計な心配はさせたくないから、できることなら嘘なんてつきたくない。けど、どうしてもつかなあかん状況や。
洸くん、気にしてこっちめっちゃ見てるし、どうしよか。
「あー……洸くんが引越しした後、欲しがってるものないかなって。サプライズで渡したいから、こっそり聞き出して欲しいって」
「なら、言うたらあかんやろ。ほんまあらたせんせは嘘つくんヘタやなぁ」
「あ……ほんまや、しもた」
ふふっ、と笑って誤魔化した。良かった。疑ってへんみたいやし、上手くいったみたいや。「引越し」と「サプライズ」ってキーワードは伝えたから、ギリギリ嘘はついてないって解釈でええやんな。
「……欲しいもんかぁ。大体自分で揃えてしもたしなぁ」
うーん、と眉間に皺を寄せながら、真剣な顔をして考え込んでいる。でも、洸くんのサプライズパーティーをするのに、そのサプライズが俺の料理と俺だけって、流石に弱すぎひんか?
ここは嘘をついてしまった分、俺が洸くんの本当に欲しいものをプレゼントして、この嘘を現実に変えるのもええな。
「強いて言えば……」
「うん、なに?」
「……あらたせんせ、かな?」
ニコッと照れた笑顔で、俺に言うてくる。
いや、もう、キーワード全揃いの大フィーバーしてもうてるやん。
「それは……まぁ後のお楽しみ、という事で」
「……え? 後の……っ!」
洸くんが顔を真っ赤にして、両手で顔を覆う。俺は! 決して! 嘘は言うてへんぞ!サプライズパーティーに俺が行くという意味で!
けれど、俺も無性に恥ずかしくなって、同じように顔を覆う。なんやねん、朝から何してんの? 俺ら。
「と、とりあえず、ご飯つくるわ!」
「うん……っ、俺も手伝う」
それからの時間は、家族以上恋人未満特有の、優しくて甘い時間を過ごした。
洸くんといると、本当に心地いい。
この時間が無くなることが、もう想像できひんかった。これからもずっと、永遠に続けばいいと、心のどこかで強く願ってしまう。
俺はもう──完全に洸くんにオチてしまってるんやろな。
コメント
2件
えっ待って朝から尊死案件すぎる!!😭💕✨ 洸くんの「本能のままに酷いことしてへんかった?」が可愛すぎて胸が痛いし、あらた先生の「なんもしてへんよ」って優しい嘘も甘やかしも全部エモすぎる〜!! そしてまさかの「あらたせんせ、かな?」の破壊力、朝イチで心臓持ってかれたよ…!! ふたりの初々しい距離感がたまらんのです、もっと読みたい、続き早く!!🌸💖