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「ご苦労であった。次も頼んだぞ?」
ここは水都のお城の一室だ。
カイザー様に報告をして、新たにお願いされた形。
「元よりそのつもりです。
ナターリア国軍も奇襲を受けているかもしれないので、行って参ります」
「その可能性は低いが、頼んだぞ」
可能性が低いのは、ナターリアからは王族が戦場に来ないことが周知の事実だからだ。
逆にエンガード王国軍には必ずどちらかの王子が来ると帝国に知られていた。
戦争の旗印がその場にいないなら、自国が不利になるだけなので、普通の合戦になる見通しだ。
そんな話を終えて、ナターリアとハンキッシュの国境へと転移魔法で向かった。
「大分前に通過したみたいだね」
聖奈さんがナターリア側の国境の騎士に問い合わせて、その情報から凡その現在地を考える。
「もう合戦の予定場所に着いていそうだな」
「うん。陛下が私達の事を伝えてくれているから、飛び入り参加も簡単だね!」
そんなアイドルのライブにでも参加するみたいに言われましても……
「とりあえず皇国内に転移して、後は車で向かおう」
6人だと少し狭いけど、乗れないこともない。
一度水都の屋敷に転移して、庭に置いてある車に乗り込んでから皇国内へと転移した。
「あっ。ここ見覚えがあるよ!予定地に後少しだね!」
暫く街道を北上すると、聖奈さんが声を上げた。
今回も助手席はミランで、聖奈さんはサンルーフを開けてライフルを構えている。
中々現代の紛争地っぽい感じになってきたな。
ちなみに他のライフルは魔法の鞄の中だ。
折角ゼロインしたのに車の揺れで照準が狂ってしまわないようにするための処置だ。
「いたよ!街道にナターリア国軍!」
ようやく助っ人に来られたな。
軍人の前に車を止めると、聖奈さんが降りずに車内から説明をした。
そこでカイザー様からの書状を見せると、街道から戦場となっている広場までの間にある国軍の天幕へと案内してくれた。
ガチャ
バタンッ
「き、君たちが陛下からの手紙を?」
得体の知れない乗り物から降りてきた俺達を見て、少し挙動不審になったのがここの指揮官のようだ。
あれ?車はまだ見慣れないのか?イランさんも水都で乗り回しているだろうに。
まぁ形が全然違うから仕方ないか。
「そうだ。カイザー様からナターリアの為に最善を尽くすように仰せつかっている」
「戦況はどうですか?」
「思わしくない。こちらには被害らしい被害はないが、向こうも同じだ」
あれ?さっきの砲撃音は?
「魔法の無駄打ちですか?」
「見ていたのか?」
「いえ。ナターリアの魔導士部隊は有名ですので、帝国も何かしら対策を取ってきていると思いまして」
やはり魔法は撃っていたんだな。
「そうだ。帝国軍は魔法の射程距離になると足を止め、発動と共に下がってばかりだ」
「魔法はどんな種類を?」
「一番殺傷力の高い爆発系の魔法で統一している」
「物質系の魔法は何故使わないのですか?」
物質系とはアイスブロックみたいにその場に形として残るものだ。
「射程が短いから使えない」
そうなのか……
魔法を統一するのはわかる。
片や火魔法で片や水魔法だと、効果を相殺しちゃうもんな。
「そうですか。でしたら、このまま行くと負けますね」
「何だとっ!?我が魔導協会の精鋭達を侮辱するか!?」
指揮官の横で黙って聞いていたおっさんが声を上げるが…魔導協会かよ。
ロクな奴いないんじゃないか?
「いくら魔法に長けていようが、ここは戦場です。魔法の品評会なら他所でしてください」
「貴様ー!」
「待て。喧嘩をするな。そこまでいうならなぜ負けるか聞こう」
指揮官が冷たい視線を聖奈さんへ向けるが、当の本人はどこ吹く風だ。
「簡単です。向こうはなぜ突破を図らないと考えますか?
こちらの手の内を曝け出させる為です。
物質系の魔法や爆発の魔法を揃って使ってくる相手には、指揮官ならどう対処しますか?」
「それは…盾、それも複数人で持つ大楯を掲げて突っ込ませる。魔法着弾の時だけ身構えればいいからな」
指揮官の答えに・・・
「はい。私も同じように指揮します。
なので、今は向こうが大楯を準備する為の時間稼ぎの時ですね。
準備が終わり次第、総攻撃が待っています。
魔法使い…いえ、ここでは魔導士でしたね。魔導士は近接戦に向いていますか?
恐らくすぐに負けることになります」
昔の戦争では、現地で攻城兵器や武器を拵えたと聞いたことがある。
大楯くらいなら構造は単純だからすぐに準備するだろうな。
「…どうすればいい?」
「ご安心ください。私達に任せて頂ければ大丈夫です」
聖奈さんのそのセリフを聞いて、指揮官がチワワの様な不安そうな眼差しから、天女を崇拝する様な顔つきへとかわった。
その神は疫病神だから崇拝はやめた方がいいですよ?
「で?どうするんだ?」
話が終わり、一度指揮官は軍議を開く為に離れていき、今は俺たちだけになった。
「簡単だよ。私達が無双するんだよ!」
「もしかして、俺たちだけで相手取るのか?」
「そうだよ!ここで恩を売りまくれば、陛下や王子に望んだ報酬も現実になるよ!」
欲深い天女だこと……
「もちろん無駄に殺したいわけじゃないから、初めに手を打つけどね。
それがダメならみんなで暴れようね!」
「はい!私の魔法を魔導協会に見せつけてやるです!」
エリー。相手は向こうだぞ?間違えるなよ?
さて、戦いの前に舞台を整えますかね。
「帝国兵よ!我が名はカイザー・セイレーン・ナターリア。ナターリア王国の国王だ」
拡声の魔導具を使い、急遽拵えた高台の上から、カイザー様が帝国兵に向けて演説を始めた。
俺達にとっては戦争回避の予定の策だが、王国軍にとっても知らない演出の為、驚きの声が上がる。
「帝国はすでに負けておる。ここより遠く離れたエンガード王国軍との合戦も敗れている。
今、素直に投降するのであれば、我が名において命は保証しよう」
帝国軍のあちこちでザワつきが収まらない。
所々では嘘つき呼ばわりする声もあがるが。
「余の言葉を信じられぬか?仕方ない。では証拠を見せてやろう」
カイザー様の合図で、袋を頭から被せられた一人の男が前に出された。
「この男はお前達のよく知っている人物だ!しかと見よ!」
バサッ
そこに現れた皇帝を見て、帝国軍の騒めきは最高潮に達した。
「ほれ。言葉を聞かせてやれ」
カイザー様は木の棒のような拡声の魔導具を、縛られている皇帝へ向けた。
「な、何をしておる!ターナー!ジルバ!早く余を助けぬか!
イーザルも!何を惚けた顔をしておる!」
「へ、陛下…」「…陛下」「・・・」
流石に最初は影武者だと思った帝国軍の高官だったが、自らの名前を呼ばれたことで本物だと確信した。
カイザー様はうるさく喚く皇帝に再び袋を掛け、黙らせた。
「わかったな?帝都にあるはずのお前達が守る城はすでにない。
他の皇族も我が手中にある。
しかし、我がナターリア王国は無辜の民には危害を加えない。
帝都の城はなくなったが、帝都は無傷だ!
二度目だが問おう。
お前達が降伏するのなら命は取らん。しかし三度目はない。
決断しろ」
帝国軍は投降しなかった。
「ご足労お掛けしました」
「いや、出来れば血は流させたくなかったが、余は無力だったようだ」
慰めの言葉くらいはと思ったが、時間もないので城に皇帝と共にカイザー様を送り届け、俺はトンボ帰りした。
「作戦は?」
戻った俺は聖奈さんへ問いかける。
「ないよ?無くても大丈夫でしょ?」
「…」
言葉にならなかったが、よく思えばいつも通りか。