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――グレウス歴92年。
大賢者、コルネリア・グレウスはその92年の生涯を締めくくろうとしていた。
生誕の日が年号になるほどの大賢者。
この世にその名を知らぬ者はおらず。
また、並び立てる魔法使いもいなかった。
「俺もここまでか……」
研究室の床の上で倒れたまま独り呟く。
生涯の最後は孤独な魔法研究に終始した。
山脈の奥地に塔を建て、研究に没頭する。
他人から見れば不幸かもしれないが、
コルネリアには幸せな時間だった。
そして、最後の研究を終えた瞬間……。
その身体は倒れて動かなくなった。
「良き人生だった」
しかし、コルネリアが一人で完成させてきた魔法研究の成果は”未発表のまま”だった。
『魔法詠唱の破棄』
『大魔法の連続使用』
『飛翔魔法』
『外部魔力《マナ》の利用』
『反転《はんてん》魔術の実現』
『空間を切り取る収納魔法』
――などなど。
どれも、世間では「あり得ない」とされている空論だ。
しかし、コルネリアはどれも成功させた。
発表すれば魔法学の歴史が数百年は進むことになるだろう。
だが、「これで良い」とコルネリアは考えていた。
(私はただ好きでやっていただけ。勝手に山奥で魔法を極めていただけだ。名誉や称賛が欲しい訳でも、魔法学の発展を願っているわけでもない)
魔法に没頭し、研究室で亡くなる。
自分にふさわしい幕引きだ。
最後に、自分のもとを巣立って行った優秀な弟子たちの顔を一人一人思い浮かべる。
きっと、今頃はみな様々な都市で教師や冒険者として名を馳せているだろう。
(いざ、さらば。現世よ……)
短い言葉で締めくくり、瞳を閉じる。
しかし、死はなかなか訪れない。
(――まだ死んでないのか? いや、もう死んだのか? 身体が急に楽になった気がするが……)
そして、大賢者コルネリアが再び目を開くとそこは――
あの世ではなく見知らぬ学生の部屋だった。
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