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#ヒューマンドラマ
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長編小説「私だけの1人の彼氏」第一部
第1話「悪夢の始まり」
序章:不幸の幕開け
これは、一人の少年が多くの女性と出会い、そのたびに少しずつ不幸の深淵へと引きずり込まれていく物語である。 ちなみに、今の僕――竹内健がなぜ「幼馴染の妹」と付き合っているのか……その話はまた追々することにしよう。
2030年5月7日:平穏な放課後
「なあ、光……」 「なんだぁ、健」
親友の黒咲光は、部室の椅子にふんぞり返って答えた。
「高校2年にもなって、毎日が平凡すぎると思わないか? 何か刺激的なこと、起きないかな」 「彼女でも作ったらどうだ?」
光の何気ない一言に、僕は目を輝かせた。 「光! お前、たまに絶望的にセンスがない時があるけど、今日のは最高だ!」
「一回殴っていいか? ……まあ、アイス奢ってくれるなら許す」
光は昔のギャグ漫画に出てくる頑固親父のような仕草で頷いた。
「で、彼女作るのか?」
「……やっぱり、やめとく。僕みたいな『寝取られもの』の主人公みたいな顔してる奴は、彼女を幸せにできない気がして怖いんだ」
「大丈夫だって。作者は『寝取られ』より『逆寝取られ』の方が好みらしいから」
「……それなら、少し安心だな」
そんなメタな冗談を言い合いながら、僕たちは校門を抜けた。
「そういえばさ、お姉さんの愛良さんと健って、全然似てないよな。血液型も違うし」 「親の片方の型が違うんだよ。考えすぎだ」 僕のぶっきらぼうな返事に、光は「そうか……妙だな」と首を傾げていた。
姉の歪んだ愛
「ただいま」 家に入ると、すぐさま姉の愛良が顔を近づけてきた。 「おかえり、弟くん!」 「近いよ、姉さん……」
姉の目は、どこか獲物を狙う肉食獣のようにギラついている。
「お風呂、沸いてるわよ。ゆっくり入ってきてね」
風呂場に逃げ込むように入った僕は、急いで体を洗った。いつ姉が「背中を流してあげる」と乱入してくるかわからないからだ。 案の定、脱衣所で「もう出ちゃうの? 残念」と呟く姉の声がして、僕は背筋が凍る思いをした。
夕食の釜揚げうどんを食べている最中、姉が静かに切り出した。
「スーパーで光くんに会ったわよ。……健、彼女が欲しいんだって?」
「……それがどうしたの」 「どうしたの、じゃないわよ! 姉である私がいるのに、他の女に恋をするなんて!」
突然、姉が僕を背後から力任せに抱きしめた。 「痛い、苦しいよ姉さん!」
「あなたは私のもの……他の女に行って、不幸になるのを見るのは嫌なの。離さない、あなたが私を愛すると言うまで!」
凄まじい力で骨が鳴る。僕は死の恐怖を感じて叫んだ。
「わかった! 愛してる、愛してるから離して!」
「……ふふ、いい子ね」 愛良は満足げに手を離した。彼女の瞳には、狂気が宿っていた。 (……もし、あの時光に『何かあったらすぐに通報してくれ』と伝えていなかったら、僕は今頃台所の包丁で刺されていたかもしれない) そんな想像が現実味を帯びるほど、姉の愛は重く、鋭かった。
秋葉莉子との一ヶ月
翌日、僕は勇気を出して、書道部の副部長・秋葉莉子に告白した。
光からは「あの人は性格に裏があるって噂だぞ」と止められたが、僕は彼女の書く凛とした文字に恋をしていたのだ。
返事は、まさかのOK。 しかし、付き合って一ヶ月が過ぎた頃から、僕の日常は暗転し始めた。
「……はぁー」 デート中、莉子は何度も深い、深い溜息をつく。
「莉子、遅れてごめん。……その、ため息は何?」
「別に。無意識に出ただけ。……はぁー」 「ごめん、僕が悪いんだよね。何が悪かったのか教えて」
「気にしなくていいって言ってるじゃない! 子供みたいに何でも聞けばいいと思わないで。早く次の場所に連れてってよ、あんたが選んだ場所なんでしょ?」
僕は必死で考えた。彼女が「綺麗な星が見たい」と言っていたのを思い出し、幼い頃に家族で行ったショッピングモールの屋上へ彼女を案内した。
「ここが、僕の選んだ最高のデートスポットだよ」 だが、莉子の口から出たのは、嘲笑だった。
「はあ? ショッピングモール? ……もう、ため息を通り越して笑っちゃうわ。あんたのセンス、終わってるわね」 「えっ……?」
「こんな寂れた場所に私を連れてきたかったの? 今まで連れて行かれた場所も全部ゴミ。あんたは楽しかったかもしれないけど、私は全部演技だったのよ。はぁー、元カレだったら、もっと素敵な場所に連れて行ってくれたのに」
頭が真っ白になった。
「……別れよう。ごめん。……じゃあね」 僕は逃げるようにその場を去った。
執着の訪問
翌日、心に穴が開いたまま自室で横たわっていると、インターホンが鳴った。 ドアを開けると、そこには泣き腫らした目の莉子が立っていた。
「……なんの用?」
「謝りたくて来たの! 昨日はごめんなさい。感情に任せて酷いことを言ったわ。……あの場所、屋上の星が綺麗だって有名なんだね。私のわがままを覚えててくれたのね、本当にごめんなさい!」
「……もういいよ。わかってくれたなら嬉しい。じゃあ、帰って」 僕がドアを閉めようとすると、莉子は必死でドアを掴んだ。
「捨てないで! 嫌よ! 昨日のは本音じゃないの! もう文句も言わない、ため息もつかない! あなた以外なんて考えられない!」
「離せよ!」 「お願い! 都合のいい女でいい、セフレでもいい! 一生お金を貢ぐから、捨てないでぇぇ!!」
ドアを隔てて、かつての恋人が狂ったように叫び、泣き喚く。 家の中には狂った愛を注ぐ姉がいて、玄関の外には執着にまみれた元カノがいる。
(……くそ、なんでこんなことになったんだ)
この物語は、一人の少年が多くの女性と出会い、少しずつ不幸になっていく物語。 悪夢は、まだ始まったばかりだ。
(つづく)
今回の執筆ポイント
* 姉・愛良の狂気: 抱きしめる力の強さや、包丁を連想させる殺気など、身近な恐怖を強調しました。
* 莉子の豹変: 「ため息」という地味な攻撃から、最後には「貢ぐから捨てないで」という極端な執着への変化をドラマチックに描きました。
* 光の役割: 親友としての安心感を出しつつ、健の周囲の異常性に気づいている「観測者」として配置しました。